想いは定まれど、想定外の
最低限、毎週日曜1900更新はするとして
もう一回くらいは行けるよう精進したいところです
その日は、曇っていた。
お日様があまりささない、どんよりとした空気
あの王子の部屋の薄暗さのようだ。
何かがふりつもったかのように、重苦しくて、濃くて、薄暗い空気。
いや、あんな場所あんなところのことを思い出すなんて不吉すぎるからやめておこうよ
その瞬間だった。
正面玄関から大きな音がした。
陶器の割れる音だ。
え、この家の玄関の壺って言ったらドレッセンメールの最高傑作とか言われてるやつでしょ
あんなもの割ったら多分一族郎党奴隷に売られても払えないぞ
私にはどうでもいい壺だからなんとか誤魔化してあげないといけないかもなあ……
なんておもって、重い腰を上げたら、メイドのドロシーの大きな叫び声が聞こえた
「奥様!逃げて!!!!お逃げください!!!きゃぁぁ!」
ごめんだめだ、わかっちゃった
ドロシー、多分死ぬ。
刀で斬りつけられたんだ、あの声の震え方。
この家に、賊?
筆頭魔術師の家に?
入館には数多のトラップがあるこの家に?
私への過保護のあまりに「危険物」にすらなっているこの家に?
使用人の出入りすら私かジョルジェさまの直接の許可が必要だと言うのに
ジョルジェさまの指輪か、私のブレスレットでもない限り、簡単に入ってこれないはずなんだ。
……ジョルジェさまより強い魔法使いが今まで知られずに隠されていたのか
それとも…
私のブレスレットは、ある。
いや、あの指輪は血液を登録した肉体とセットでないと動かないはずなのだけれど
再セットができる人がいた?いや、可能性は低い。
パスワードになっている呪文と主人の血液が必要なはずだ。
そして、ジョルジェさまが口を割るはずもない。
なぜ……
キャスリンの悲鳴も聞こえた。
たった5人しかいないはずの我が家の使用人
入口だけではなく、さまざまなところに張り巡らされたトラップがあるとはいえ
そのうち、この部屋にも侵入者はたどり着くだろう
基本的にはここにとどまるのが一番だと言われていたけれど
念のためにと伝えられていた脱出計画を実行する
私と彼だけが知る、秘密の手順だ
枕元にあるランプの小さなボタンを押す
これでジョルジェさまに連絡がいくはずだ。
よっぽどのことがなければ押されないはずの、物理的な危機が私に迫っている時だけ使うはずの、ボタン
そして、そのランプを持って部屋の片隅にある柱に彫られたバタフライマーガレットに触れる。
「安心をお伝えするためのイメージにはちょうどいいでしょう」なんて、言ってくれてたっけ
あの日の、暖かい、あのミルク
ジョルジェ様は、無事なのだろうか
一瞬の躊躇が、私から逃亡すると言う最終手段を奪ってしまった。
その声が、耳に届いてしまったのだ。
「見つけたぞ!!ここの部屋だ!!!捕らえよ!!!」
その声は、王太子の、ものだった。
瞬間的に、崩れ落ちてしまう私の平常心。
なんで? どうしてここに?
散り散りになった思考を、記憶を、つかみ出そうとしてももう、体は全く動かなかった
無様なほどに震える、体
カチャリカチャリと、聞き慣れた剣と、鎧の音。
そして、魔法の起動音。
ジョルジェさまが「最強の護りを施したから!」と晴れ晴れとした笑顔で教えてくれた
何度も何度もその物騒な結果を実験して見せてくれた「絶対に部外者では開けない扉」
そこに仕込まれた確実に相手を拘束する術と罠
そして、私にそれらを見せないようにするために設置されていたはずの術は
何一つ効果をもたらさないまま
普通の扉ですよとシラを切るかのように
易々と、開かれたのであった。




