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あなたとみた、あの星空に。  作者: 半崎いお
10/32

自己防衛をゆるめるちから

そこからの日々は、驚くほどに静かなものだった。

変わらない日常

穏やかな天気

いつも通りに安全で守られた、人の出入りの少ない、我が家。




ときおりやってくる、どこの村が落ちたという連絡のたびに

壁に貼り付けられた地図がどんどんと黒く染まっていく以外は

何も変わらない落ち着いた日々であったのだ。

その印をつけるたびに

ガリガリと、体の裏を削られるようではあったけれど



文献を漁り、何かないか探すなんてことはずっとやってきた日常だったし

わたし以前にジョルジェ様もできる限りのことはやっていた

それでも、まだできることが残っていないかと考えることがやめられない

わたしにとっては、そんなことこそが日常なのだ

動けるようになってからはずっと、ずっと、そうやって、ここにいた。


そのままの日々を、ひとつずつ重ねていく

変わらない日常を繰り返し、繰り返ししていく

しかし、なのに、それでも、どんどん地図は染まっていく

1週間空いたり、翌日だったり、つづけてだったり

火を追うごとに、明らかに、人の住める場所が失われて行っている


それでも、わたしに何かできることがあるわけでもなく

でも、なにかないかと、朧になってしまっている記憶をたぐり寄せては落胆し、傷を負い

それでも、何かないかと書物をあたっては焦り、嘆き

そればかり、そればかりなのだ


ふとすると、忘れそうにすら、なる

変わりのない日常に黒い染みがじわじわと広がっているのは知っているけれど

重苦しい切迫感が、確かにここにはあるんだけれど

写真も映像も、音声もないただの「報告」は、

あんまりにも私の中で非現実的でインパクトに欠けてしまっていた

宵闇に隠れ移動するノネズミのようにひそやかに静かに迫り来る危機。

そんなの大地震が来るとか言われてたのに現実味がないのとおんなじ。

このままこんな、以前とおんなじ日々がつづいていくのかもしれない、なんて

王都だけは残るのかもしれない、なんて

多分生きている間に津波は来ないよ!みたいなもんで

根拠のない楽観をほんのり抱いてしまっていた。

それほどにここでの日々は変わらないものだったのだ



ジョルジェ様にとっては、また違ったのだろうけれど。



ジョルジェ様が王太子の元へ向かう頻度は格段に増えていた


わたしには隠すようにしてくださっているけれど、どこに行ったかなんてまぁ、わかる

どこに行ったからすら教えてくれないんだから、

なにがあったかなんて伝えてくれるわけはない


けれど明らかに疲弊して帰っていらっしゃる日が増えいるのだ

お顔を、とても、げっそりさせて帰ってくる日が。


その理由をお尋ねしても、何一つ、明確な答えは返ってこない

誤魔化そうとしているのが、よくわかる。


なにか、よくないことがおこっているんだろうな、そう思ってはいたのだけれど

終わりが、そんな形だなんて流石に全く想像をしていなかった。



+++




その頃、私たちは夕食の後にかならず、話し合う時間をとるようになっていた。

今日の黒い印の話がやはり主なものだが

わたしが何か見つけたり思い出したりしないかという話も含まれる

私の秘密を知る唯一の存在である、ジョルジェさまとしかできない密談だ。



二人きり、と

いうのもあって最近、積極的にするようになってきた話題がある。


私たちの子供をどんなふうに育てたいか、

来年の花壇はどんなふうにしようか

10年、20年後の話や行ってみたいところの話‥‥荒唐無稽と言われてしまいそうだ

だけれども、そんな話をすることがかけがえのない時間になっていたのだ。



胸に詰まってあふれそうになる絶望を薄くするために、何となく話し始めた

そんな、なにげない子供のような夢想がわたしたちを、包んで温めてくれていた。

星空を見上げながら、手を繋いで、身を寄せ合ってそんな話をする

ジョルジェ様はそのために帰ってくると、絶対毎日帰ってくると、言っていた



“この日々が、続きますように“

口にすると痛む、その言葉をまとった優しい時間は

終わりがそう遠くないであろうと知っている私たちの上に氷の刃になり降り積もる

何か、できることはないのか

どうにかしてこの日々を守ることはできないのだろうか

慟哭に占められえ鈍る心に、その時間は果てしなく柔らかい雨を降らせてくれていた





聞き慣れたその声により、終わりを迎えてしまったその時までは。






来週こそ2回更新する

日曜は絶対アップするです

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