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魔王軍の雑兵A、地球侵略を阻止します!  作者: 酒田 恵
一章

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座禅って意味あるの?

 「久しぶりだな、魔王さんよー」


 男は、腰に重そうな大剣を拵えてストレートの黒髪を弄りながら大人の雑誌を読んでいた。


 「紹介するね。こいつは化け物みたいなもんだけど、一応人間だよ」


 「たくう、失礼ってものを知らねえのか?この二十年間、俺はずっと人間としてやってきてるんだ」


 その男は、ぼやくように言った。


 なんなのだろうか、この男は。


 覇気を全く感じさせないが、その強さは僕にも伝わってきた。


 特にあの目は、一体なにを見ているのかわからない。


 底が知れないのだ。


 「おじさん、名前は?」


 「おい、クソガキ。俺はまだ、おっさんじゃねえお兄さんだ」


 「おじさんの名前は?」


 「君、話聞かないタイプだよね……それは、いいとして俺の名前はシルヴァ。Z部隊で剣士やってまーす」


 シルヴァは、頭をポリポリとかきながらテキトウに言った。


 「じゃあ、シルヴァにはチビスケを鍛えてもらうことになってるからね」


 「魔王様、正気ですか……?この人、ちょっと怖いんですけど」


 「大丈夫。実力だけならA部隊トップだから」


 つまり、この人は僕と同じで人間族だからZ部隊に配属されているってことらしい。


 「このエッチな本読んでる人がですよ?」


 「いや、大丈夫」


 「……そうですか」


 シルヴァが僕のところに歩み寄ってくる。


 そして、僕の顔をじっと見つめて。


 「いい体してんじゃねえか。これなら、教えるのも楽そうだな」


 「楽?……って、うわっ!」


 シルヴァが僕の服の襟を掴み、そのまま引きずり始めた。


 「ちょっ!なにするんですか」


 「修行行くぞー」


 魔王様とリーシュは手を振りながら僕を見送っている。


 これは、本当にやばいかもしれない。


ーーー


 そして、どうやら、この人の部屋にあるトレーニングルームに連れていかれたようだ。


 ここは、意外にも広く白い壁で囲まれている屋内型トレーニングルームってところだろうか。


 その白い壁には、凹みや焦げ跡のようなものが一際目立っている。


 「なあ、お前名前なんだっけ?」


 「知らないのに連れてきたんですか……」


 「男の名前、覚えるの苦手なんだよね。さっきの子はリーシュ、ほら覚えてるだろ?」


 シルヴァは、自慢げに胸を張りながらそう言う。


 まあ、そりゃあさっき聞いたばっかりだし覚えてて当然だろ。


 と思ったが、口には出さないほうが良さそうだな。


 「僕は、アシュです。修行よろしくお願いします」


 「アシュね……じゃあ、修行は俺が起きるまで座禅組んでろ。俺、ちょっと寝てくるわ」


 シルヴァは、あくびをしながらお腹をかき、片隅にあるハンモックに寝そべった。


 「ちょっと待て!寝るってどういうことですか?修行は?」


 「だから、そこで座禅を組んでろって言ってんだよーバカやろう」

 

 「いや、こんなので意味があるんですか?」


 「まあ、とにかくやってみろ。昼寝は短いからさ」


 「本当ですか?」


 「グーガー……zzz」


 シルヴァはもう、いびきをかきながら気持ちよさそうに寝ていた。


 「なんなんだよ、この人は。座禅を組むって言われてもな……」


 僕は、とりあえず床に座り、座禅を組んでみることにした。


 「そもそも、座禅ってどうやるの?」


 目を瞑って……息を吸って、吐く。確かそんな感じだったはずだ。


 僕は目を瞑り、ゆっくりと息を吸って、吐いた。


 「スゥーーハァーー」


 これを繰り返して、邪念を消すみたいなことだった気がするけど。


 とりあえず、やってみるか。


 聞こえるのは、自分の呼吸とシルヴァのいびきだけ。


 「……」


 いつの間にか、シルヴァのいびきが聞こえなくなっていた。


 いや、それだけじゃない。


 周りの音が、何も聞こえない。


 まるで、この部屋に自分しかいないみたいだ。


 「……」


 僕はそのまま、座禅を続けた。


 ……だが、やっぱり集中力が続かない。


 僕は目を開いた。


 「はあ……もう、めんどくさいし。あいつが起きるまでやってるふりしよっかな」


 と呟くと、寝ているシルヴァが読んでいた本を僕の頭に投げつけてきた。


 「ッ……!痛って!あいつ、本当に寝てんのか?」


 どうやら、サボりは通用しないらしい。


 僕は強制的にこの座禅をやらないといけないのだ。


 そして、またさっきのように座禅を組む。


 「……」


ーーー


 何分ぐらい経っただろうか。


 数分だけやったはずなのに、体が疲れてるな。


 そろそろ終わっていいだろうか。


 でも、起きたらまたなんか飛んできそうだしな。


 まあ、いいか……なんかお腹空いたし。


 僕は、そう思い目を開くと、ぼやけた視界に強い光が差し込んできた。


 「眩し!」


 だんだん、目の調子が戻ってくると目の前にはあぐらをかきながら雑誌を読んでるシルヴァがいた。


 「よう、お目覚めかい。座禅はちゃんとできたか?」


 「いや、まだ数分しか経ってないでしょうが……」


 シルヴァの淀んだ目が一瞬変わる。


 「そうか、お前にはそう感じたんだな。残念ながら、お前は数分どころか六時間も座禅を組んでいたぞ。俺なんて夕飯も済ませたぞ」


 「!?」


 僕は、確かに座禅を集中して組んだ。


 あれはほんの数分で終わったはずだ。


 どういうことだ。


 僕には、ほんの数分にしか感じられなかった。


 「だから、お前が数分だと思っていた間に、時間はずっと進んでたってことよ」


 座禅ってそんな便利なの、暇な時にちょうどいいじゃん。


 とかいう思考は置いておいて、


 「それが修行ってことですか?」

 

 「あ?これは、できて当たり前。こんなの修行の『し』の字にも入らないぞ」


 「……」


 「今日は終いだ。俺も、暇じゃないんだ。あとは、飯食って寝ろ、歯磨き忘れんなよ」


 シルヴァは立ち上がると、そのまま背を向けて言った。


 この男は、一体なんなんだよ……


 「さて、僕もーーってあれ?」


 僕が立ち上がろうとすると、足が痺れて全く動かなかった。


 六時間も座ってたからだ、完全にそうだ。


 やばい、六時間って数字を考えると、自分がトイレに行きたかったことに気づいた。


 「やばい、五歳でお漏らしはダメだ。アウトだ」


 僕は必死に立ち上がろうと、足を動かそうとしてみても全く動かない。


 マジで、勘弁して。


 もう、力を入れていないと漏れそうなところまで来ている。


 五歳だから、こうなるの?


 やばい。


 「助けてーーーーー!!」


 その声は、誰にも届かず結局僕のパンツとズボンはびしょびしょになってしまった。


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