魔王軍に入隊
あれから、五年が経った。
僕は毎日、魔王城の周りを走り、筋トレをするという基礎的な訓練を魔王様から課せられていた。
最初は地獄だった訓練も、五年も続ければ日常になる。
魔王様に振り回される毎日も、今ではすっかり当たり前になっていた。
その日々は辛く大変なものだったが、なんだかんだで楽しい。
そして、今日は魔王様の玉座に呼び出されたのだ。
ーーー
魔王様の玉座の扉の前にいる、二人の兵士は、僕を哀れむような目で見てくる。
こいつらもか……やっぱり、ここでの人間とはカーストが低いんだろうな。
いつも、こんな感じだ。
二人の目に気づかないふりをして、僕は大きな扉を開け玉座の間へと入る。
やっぱり、大きいな。
さすが、魔王城と言ったところだろうか。
この玉座に来ることは、そもそも少ないし。
そこには、玉座に寝そべり、いびきをかいて眠る魔王様がいた。
「魔王様……人を呼びつけておいて」
この気持ちよさそうに寝ている、魔王様に近づき体を揺らし起こす。
「おーい、魔王様。起きてください。僕が来ました」
「わかってるから……あと十分」
「起きないと、お酒没収しますよ」
そう言うと、魔王様は寝ていたことをなかったことにするかのようにピシッと正座をして、こちらを見つめてくる。
「で、急にどうしたの?」
「いや、あなたが呼び出したんですよ」
「……」
魔王様は、首を傾げながら思い出そうとしているらしい。
「あっ!確かに言ったね、寝る前に呼び出した」
「はい、そうですよ。重要な話があるって」
「そうなの」
「で、重要な話ってなんですか、魔王様」
なぜか魔王様は、ムクっと口を膨らませながらそっぽを向いてしまう。
「言ったよね?魔王ちゃんって呼ぶって」
「え?」
「だから魔王ちゃんって呼んでって」
「いや、あれは一時だって……」
魔王ちゃんって言うの意外と恥ずかしいんだよ。
もう、この人は自分から威厳を下げに来てる気がするしな。
「お願いだよーー!魔王ちゃんって呼んで!呼んで!」
魔王様は、僕に泣きながら抱きつき、鼻水をべちゃりと服につけた。
こんなちっちゃい五歳の子に泣くって、普通に逆だろ……
服についた魔王様の鼻水をハンカチで拭きながら、話を本筋に戻す。
「その話は、あとでするとして。重要な話を教えてください」
「わかった」
魔王様の雰囲気がさっきと変わり、真剣な目へと変わる。
「チビスケには、魔王軍に入ってもらう」
「魔王軍……」
僕の村を襲った、あの魔王軍に。
「もう入っても大丈夫な年齢だし、それ相応に鍛えたからね」
僕の体は、一見すると普通の五歳児と変わらない。けれど、力を入れれば、鍛え上げられた筋肉が浮かび上がる。
そりゃ、あの毎日の訓練を続けてたらこうもなる。
「もう配属する場所は決まってるんだよね。それはZ部隊」
「Z部隊?」
「AからZまである中の、Zだな」
それって一番下の部隊ってこと?
人族は昇進できない。
つまり僕は、最初から最後までZ部隊ということだ。
僕は、そのことを知り、落胆するかのように手を床につけた。
「そんなに落ち込まなくてもいいんだよ。私もこういうことは嫌いなんだけど人族は昇進することができなくてね。Z部隊から上がることもできないっていうね」
魔王様は、僕の頭をヨシヨシと撫でながら優しく言ってくれる。
「これは、廃止しようにも掟であり、いろいろなあれもあるからね」
魔王様は、玉座に戻る。
「わかりました……まあ、頑張ってみます」
「うん!頑張って。明日から行ってみてね」
「はい」
「あと、たまに私と友達が魔法を教えにいくから。任せてね」
魔王様は、手を振りながら僕を見送り、それに手を振りかえし玉座を後にした。
よかった……魔王ちゃんのことは忘れてくれたらしい。
ラッキー。
ーーー
そして、翌日。
地図を見て、Z部隊というのを探すと魔王城の端っこに位置するらしい。
Zっていうのは、強さ的にってことだろうからな。
どんな感じかは、マジでわからないな。
そして、Z部隊の場所へ到着するとそこには、Zと書かれた門がある。
恐る恐る門を開けると――
『45!46!47!48!』
と魔人たちが木剣を振って素振りをしているようだ。
だが、僕が入った瞬間、周囲の声が止まった。
一斉に視線が集まり、ざわめきが広がっていく。
五歳の僕からすれば、大きな魔人たちはまともに見るだけでも怖い。
魔王様が言うには、千から二千人が各部隊にいるらしいけど。
本当に多いな。
僕が立ち尽くしていると、一人の魔人が近づいてくる。
「おい!坊主。ここは、お前のいていい世界じゃねえ。そのことはわかってるんだろうな?」
「そうだ!そうだ」
「「「「帰れ!帰れ!帰れ!帰れ!」」」」
初日からこれか……酷い仕打ちだな。
「魔王様のお墨付きか知らないが、喧嘩売ってるなら容赦しねえぜ?」
そう言って、その魔人は僕の肩をポンと叩いてくる。
「汚ね。触んな」
僕は、衝動的に彼の腹を思いっきりぶん殴った。
「ガハッ!」
その魔人は遠くまで吹き飛ばされた。
「おい!お前なんてことしてんだ!」
「本当だぞ!いくら、手加減して貰ってる分際で許せねえ!」
「いくぞ!お前ら」
周りの魔人たちは、次々と賛同し僕に殴りかかってくる。
そっちがその気なら、やってやる。
僕も魔人たちに拳を向けた。
『お前ら!やめろ!長官の命令だ!』
その瞬間に、周りの動きがピクリと止まる。
『そこの二人! 騒動を起こした罰として、今日は出て行きなさい! そして、明日また来るように!』
そう、言い渡され僕とさっきの魔人は門の外へと追い出されてしまった。
「なんなんだよ……先に手を出してきたのはこいつの癖に。聞いてるか?」
……って、気絶してたか。
もう、部屋に帰ろ。いつもの訓練でもして。
そうして帰ろうとしたとき、僕の目に映った。
ボロボロの服を着た女の子が、道の端で体育座りをしている。
その姿を見た瞬間、僕は足を止めた。
――人間だ。
どうして、こんなところに?
「ねえ? 君、どうしたの?」




