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魔王軍の雑兵A、地球侵略を阻止します!  作者: 酒田 恵
一章

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魔王城での鬼の訓練

 僕は結局、魔王城へ連れ去られてしまったのだ。


 連れ去られてしまうなんて言い方をするのは、命を助けてもらった魔王様には、失礼かもしれない。


 「高い、高いー!」


 そう言って、ベッドで寝かせてもらっていた僕は高くに上げてもらう。


 実際にこうやって、遊んでもらうほどに魔王様は優しい人だ。


 魔王なんて、骸骨とか怖いものを想像していた。


 けれど、この人はその対極にいる。


 まるで、女神みたいな存在だ。


 「バブーバブー」


 僕はそれに合わせて、赤ん坊のモノマネをするだけ。


 我ながら、名演技。


 でも、一つだけ違和感がある。


 それは、ここにいる兵士たちの目。


 僕のことを拾ったと魔王様が周りに言いふらしていると、その兵士はみな酷い目で見る。


 僕のことを見つめる兵士たちの目には、明らかな敵意が宿っていた。


 「なんで人族なんかを……」


 小さく、そんな声まで聞こえてくる。


 まあ、なんにせよ魔王様には感謝をするしかない。


 たとえ、僕の村を襲撃した魔王軍のトップだとしても。


ーーー


 そして、数週間。


 僕は、赤ん坊らしく平和に生きていると突然、魔王様がこちらへと駆け寄ってくる。


 「おい、チビスケ。今日からお前は訓練だ!」


 魔王様は、とても嬉しそうな笑顔で僕に言った。


 訓練って……僕まだ、生後一ヶ月も経ってないんですけど。


 チビスケってなんですか?赤ん坊はみんなチビスケですよ?


 「じゃあ、ランニングだ!」


 そもそも、歩けないんですけど!


 どうしよう。この人、全く人というものを理解していないのか?


 「どうした?早く動きな」


 僕が身を隠すように布団へ潜り込むと、魔王様は僕を無理やり持ち上げ、床に立たせようとする。


 「もう、逃げちゃダメでしょ」


 おい、このままじゃ倒れる……!

 

 床に足をつけた途端、僕は倒れることなく普通に立つことができていた。


 あれ?


 赤ん坊ってこんな成長スピード早かったっけ?


 「会った時言ったでしょ、君は一味違うって。すでにチビスケは人間離れしてるの」


 この人、そんなこともわかるのか?


 魔王半端ねえな。


 「じゃあ、ランニング行くよ。私もついてくから安心して」


 よし、訓練せめて頑張るか!


 ちょうど、することなくて困ってたし。


 そして、外に出て走る準備をする。


 「今日はこの魔王城を十周してもらうよ!」


 ハハっ!魔王様は冗談が上手いな。


 魔王城は、とにかく大きかった。


 いわゆる「東京ドーム何個分」とかで表したくなるくらいの大きさだ。


 「どうしたの?」


 僕は、首を強く横に振った。


 「早く十周!頑張らないとご飯抜きだよ」


 魔王様は頭にハチマキを巻き、やる気満々だった。


 まじか……


 ※生後一ヶ月です。


 「よーい!スタート!」


 クソ!やり切るしかねえ。


 ――数時間後。


 ようやく半周を走り切った。


 「半周だよ!このままじゃ、何日もかかっちゃう」


 「バブーーー!!」


 僕はまだ、半周だという事実に嘆き叫んだ。


 冗談じゃない……もう、ただでさえ死にそうなのに。


 赤ん坊なめんな。


 でも、すごいのは、普通の赤ん坊よりは走れているという実感があることだな。


 やっぱり、この体は異常なのかもしれない。


 ーーそして、数時間。


 「あとちょっとだよ!あそこの旗」


 えっ、遠っ!? 


 ギリギリ見えるくらいの距離だぞあれ。


 ていうか……もう、体力が限界。


 本当に死ぬ。


 殺しにきてる。


 僕はペースが落ち、魔王様との間が開いていく。


 「待ってよ……」


 もう、無理。


 「今、喋った!?チビスケ喋った?」


 魔王様がこちらへと戻ってくる。


 あれ?今、待ってって喋ったような。


 「喋ったのか?」


 「すごいよ! もう喋れるなんて。これも私の予想外だよ!」


 言われてみれば、「オギャー」とか自分で普通に言えてたしな。


 もう、物理的に考えても僕の体っておかしいんだな。


 「よしじゃあ、チビスケ!あとちょっと頑張ろう!」


 「……」


 「返事は?」


 「バブー……」


 そう言って、やっと一周を走り終える。


 やっと、終わった。


 もう、ダメ……死ぬまじで。


 あと九周とか終わる。


 「じゃあ、二周目行くよ!」


 「待って……ください」


 「ふっ、元から十周なんて嘘。そんなの可哀想だもん」


 「魔王様……」


 「チビスケ、魔王様はやめなさい。堅苦しいわ」

 

 魔王様は、僕の手を握りしめてそう言った。


 「すごいよ! もう喋れるなんて。これも私の予想外だよ!」


 「頼む!可愛い名前をくれ!一時だけでいいから」


 可愛い名前をつけてくれなんて言う、魔王がどこにいるんだろうか……


 じゃあ、


 「魔王ちゃんなんてどうですか?」


 「……それ、めちゃくちゃいい!可愛い!」


 「まあ、ほんの一時ですよ」


 「よし、じゃあ夜ご飯食べに行こ!」


 魔王様は、お腹をすすりながら、涎を垂らしていた。


 「今日は何かな〜」


 なんで、魔王様いや魔王ちゃんはそんな……


 僕は、食べたくないんですけど。


ーーー


 魔王様の部屋には、すでに夜ご飯が用意されている。


 その夜ご飯はというと……


 紫色の液体に、何が入ってるかが全く理解できないような見た目をしている。


 僕のは、一応赤ん坊ということを考えて、固形物はなくしてくれているのかな? まあ、わからないけど。


 魔王様は、漫画に出てくるような大きな肉と酒が用意されていた。


 「では、食べよう。チビスケ」


 僕は、そのスープを一口啜る。


 うん。味はね、美味しいかって言われたらわからない。

 

 まずいわけじゃないけど……見た目が毒でも入っていそうだ。


 「で、チビスケ。これから、毎日魔王城一周と筋トレをとにかくしてもらうからね」


 「毎日!?」


 「そうだよ。基礎は大事だから。私も手伝うし」


 と言って、魔王様は大きい酒が入ったコップを一気に飲み干す。


 「やっぱり上手い!酒は」


 やばい、逃げたほうがいい。


 だってこの人はーー


 「おーい、チビスケ。もう一回魔王ちゃんって呼んでよーー」


 めちゃくちゃ酒癖が悪く、酔っ払うと変な絡み方をしてくる。


 「いや、僕はさきにおやすみさせていただきます」


 「遠慮せず、酒でも飲もうよ〜」


 いや、未成年どころか、生後一ヶ月の人になんてこと言ってんだ。


 そして魔王ちゃんは、無理やり僕の口に酒を入れようとしてくる。


 まだ、前世ですら飲んでないんだぞ!


 「落ち着いてください!魔王ちゃん!」


 と魔王ちゃんの肩をさすると、ベッドに倒れこんでしまった。


 「グゥーガー!グゥーガー!」


 え?寝た?


 この人、酒癖が悪いというより、酒が弱いんじゃないのか。


 「まあいい、僕も寝るか……明日もあの地獄のトレーニングがあるらしいし」


 そして、魔王ちゃんに布団をかけてあげてから、隣に僕も眠る。


 はあ……これから忙しくなりそうだな。

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