非日常
どうやら、僕は転生したらしい。
自分の手は、とても小さい赤ん坊の手だった。
両親は、赤毛の母と茶髪の父。
それに、魔法は日常生活で使っているところを見てしまったしな。
三奈は助かったよね……?
いや。
今考えたってしょうがないな。だってもう、会うことはないんだから。
少しは異世界生活ってやつを楽しませてもらおう。
切り替え、切り替え!
だが、非日常から日常に変わろうとしている異世界生活。
それは、一瞬で崩れ落ちてしまうらしい。
生まれてから、大体一週間くらいが経ったころだ。
周りの騒がしさに、僕は目を覚ました。
その瞬間、目に飛び込んできた光景に――
は?
ど、どういうこと?
なんで僕の家も、村も全てが燃やしつくされているの?
そこは、火の海と言っても差し支えない、地獄のような場所だった。
なにかに刺されたような死体が、転がっている。
僕は、母に抱えられながら走っていることにも気づく。
なんで、そんなに怪我を負ってるんだ?
わからない。
寝てる間になにが起きたか。
「パパは……ゲホッ! 大丈夫。走らないと……頑張らないとね」
こうも、呆気なく……
なんで僕を。
そんな体じゃ。
やっとの思いで、僕たちが森の中へ入った矢先――
「生きてね……××××」
そして母は、最後の力を振り絞り、僕を草むらへと投げた。
投げられる一瞬、僕の目に映ったのは――
胸に長い剣のようなものを突き立てられ、倒れる母。
そして、その母を襲ったと思われる者が立っていた。
どうやら、そいつにバレることはなかった。
というか、どうせ死ぬだろと思われて、見逃されたらしい。
あいつだけなのか?
それにしては、大掛かりすぎる。
盗賊?
もう……わからん。
なにが異世界生活だよ。
そんな世知辛いもんなのか?
いきなり、こんなイベントなんて……勘弁してくれよ。
両親は、両方とも……
でも、どうすればいいんだ。
僕はまだ、歩けないし、喋れない。
本当に詰みかもしれないな。
笑えないな。
でも、できることは一つある。
それはーー
泣くことだ。
僕とて一応、赤ん坊。
やってやるよ。
「オギャーオギャー!エェェェン!ウワァァアァンン!」
泣き続けた、とにかく。
できるのはそれくらいのことしかない。
そして、泣いている真似をしているものの、その涙には本物も混ざっていた。
ーーー
あれから、どれくらい経っただろうか。
僕は涙も声も枯れるまで、泣いていた。
誰も来ないか……
まあ、仕方ないよな。
こんな森の中に、誰が来るってんだよ。
はあ……トラックに轢かれて、次は餓死か。
二回も悲しい死に方だな。
諦めるように、僕は目を閉じた。
だが、泣き声というSOS信号を拾ってくれた人がいたらしい。
「おーい、息してるか?死んでないよね?」
そこで、僕の頬を優しく叩いてくる。
なんと、その人は幼い少女だった。
薄紫の長い髪に、青い瞳。
だらしない服の着方に、髪もボサボサ。
「おっ!目を覚ましたか。なにか君からただならぬオーラを感じて駆けつけた!」
ただならぬオーラ?
なにを言ってるんだこの子。
「大丈夫?その額の傷。血出てるよ」
そう言って少女は、首元につけていた赤いスカーフを外し、僕の額の傷口に巻いてくれた。
「はいっ!これで完成」
何歳だ?この子?
こんな夜に危ない場所に。
「……君はやっぱり一味違うね。お母さんとお父さんは?」
僕は、赤ん坊の精一杯の力で首を横に振る。
「そうかごめんね。じゃあ、私の家に行こうか」
ごめんね?なんで僕に、謝るんだこの子。
でも、これでひとまず命は救われたな。
「私は……なんて名乗ればいいんだろ?まあ、周りからは魔王様なんて呼ばれてるね」
今、魔王様って言った?
聞き間違い?
いや、確かに言ったけど……こんな幼い少女が?
魔王!?
もう、全てが真逆じゃん僕のイメージの魔王と。
「君、名前は?」
いや、喋れねえよ。
もう……一体、なにが起きてるんだ?
「あっ……名札がある」
え?名札?
そんなものが?
「えっと、なんだ読みにくいな。ア、シュ?」
アシュってそんな名前だったけ。
そうして、その魔王は僕に名札を見せてくる。
その紙には、文字が消えかけたような跡が残っていた。
断片的に読めば――『アシュ』。
いや、多分これ違う。
「アシュっていい名前だな。アシュ」
違う!名前間違えてる!
僕はまた、横に首を振る。
「そうか、そんなに嬉しかったか。アシュ。じゃあ!魔王城に帰ろう!」
待ってくださいよおぉぉぉぉ!
そう。
この人が、僕と魔王様との最初の出会いだ。




