うわっ!……なんでこいつが
「よお、雑兵くぅん久しぶりー」
転移の光が晴れると、そこには鞘に収めた剣を持ったシルヴァが立っていた。
その顔には、いつものようにニヤけた笑みが浮かんでいる。
ここは、とても広い場所――Z部隊の訓練所でもあった。
「じゃあ、私は忘れ物があるから」
リーシュは、その場から逃げるように走り去っていった。
「え?何?何が起こるの?」
僕は、周りを見渡すがこの広い場所でシルヴァと二人でポツンと立っているだけだった。
「最近さ、お前俺の指導を受けてなかったよなー。調査で何してたか知んねえけど、腕は鈍っちゃいねえよな?」
シルヴァはふざけた様子に見えるかもしれない。だが、彼の目はいつになく真っ直ぐとしていた。
「どうしたんだよ急に」
「だからな、簡単に言うとこうだ『俺と闘え』」
そう言うと、シルヴァは大剣を構え、一呼吸置くように目を瞑った。
そして、力強く一歩を踏み込む。
踏み込んだ、その一瞬だけだった。
足元に、ほんの小さな稲妻が走る。
そして、足に溜まった稲妻――いや、エネルギーが解き放たれる。
その勢いのまま、シルヴァが僕へと突っ込んできた。
(まずいぞ!このままじゃ、そのままーー)
僕は、命の危機を感じたのかもしれない。
咄嗟に「動け」と頭が命じるより先に、体はすでに動いていた。
両腕をクロスさせ、受け身の体勢を取っている。
「おぉぅら!」
シルヴァが大剣を正面から思いっきり振り下ろし、僕の腕に叩きつけてくる。
「ッッ痛!くぅぅぅぅ………」
幸い、体に魔力を流して強化していたおかげで、吹き飛ばされずに済んだ。
危なかったな、でも体を強化するのに魔力をだいぶ使ってしまった。
流石に師匠ってだけあって強いよな……シルヴァ。
「でも……なんでシルヴァは大剣持ってんのに僕だけ素手なんだよ!勝てないに決まってるんだろ!」
「できるはずだぞ修行でやったことを活かせば多分できるさ、素手でだって。もう一本行くぞおぉぉぉぉぉ!」
シルヴァは、そう言うとひたすら受け身をとる僕に大剣で殴りまくる。
「お、い!いっ、一回!攻撃やめろよ!せめて木剣でも!」
僕は受け身を取りながら必死に訴えるがシルヴァは聞く耳を持たない。
ダメだ……このまま、こうしてても魔人たちから殴られる雑兵Aと変わらない。
それに学校にも戻らないと、問題児扱いされるし下石は気絶したままだし。
「おい、反撃してこいよ!俺はお前が座禅が終わった時おしっこ漏らしたこと覚えてるんだからな?魔人たちに広めてやってもいいぜ」
シルヴァは、剣で打ち込みながら嫌味ったらしく言う。
畜生……もう剣を使って戦うことは不可能らしい。じゃあ、こっちは魔法で対抗してやるよ。
体全体に、血管を巡るような感覚で魔力を行き渡らせる。
これで身体は強化できるってわけで、シルヴァも今やってるだろうね。
そして僕は、力任せにシルヴァの大剣ごと、その身体を後退させる。
「ちっ、身体強化か……お前も使えたのかよ」
いや、あんたが教えてくれたんだけどねこれ。
「じゃあ、魔法勝負ってわけか?」
シルヴァは大剣を右手に持ちながら、左手に魔力を溜めるようなポーズを取る。
そういえば、シルヴァと僕の魔力量や実力は、互いによく分かっていない。
二人とも、鍛えれば魔力は無限に増える。
剣術なら、シルヴァのほうが二、三手は上だ。
ただ、魔法を含めた真っ向勝負はしたことがなかった。
何しろ、シルヴァは負けても「本気を出してない」と言うような奴だ。
だから、実際のところは分からない。
「ああ、シルヴァの魔力量は知らないけど僕を舐めたら困るな」
「俺もわかんねえなあぁ」
シルヴァは、惚けるように答える。
そして、二人は互いに距離を取る。
確かにシルヴァは、ムカつくし嫌なことを言ってくるが実力が高いことだけは、嫌というほど知っている。
だから、真正面から戦ったって勝てるはずがない。
「おら、いくぞ!俺の魔力量をとことん見せてやろうじゃないか!全てを出してやんよ!」
シルヴァの左手からは紫の光が放たれている。
わかる……これは魔力の具現化ってやつだ。火でも水でもない。
単なるエネルギーを左手に集めていることは理解はできた。
でも、僕はその魔力の具現化のやり方も攻撃もわからないのだ。
「どうやって、そんなもんやるんだよ」
僕はそう言いながら、シルヴァにやられた右手を左手で支え魔力を手のひらに込める。
「魔力ってのは、自由なんだぜ。身体の強化は知っているだろ?でも、これはどんな攻撃にだって変えられる。火、水ーーああ、説明めんどくせえな。つまり一言で言うと『結局、魔力が最強』ってわけ」
シルヴァは、左手に集めた魔力を見て微笑む。
「初耳だね。修行では、教えてくれなかったじゃないか」
どうやら、時間を稼ぎながらシルヴァを挑発するしかないらしい。
「あ?教えるわけねーだろ、馬鹿かお前は。これは、俺の今現在の最高到達点であってしかも自分で見つけた。えっと、なんだっけ?
「知らねえよ……」
「ああ、そうそう『魔変顕現』(メタモル・エッジ)って名前にしたんだよね」
「なんか微妙だね……」
「やってみろよ、じゃあ」
シルヴァのにやけた顔から、自信が溢れているのを感じた。
左手の手のひらに、全ての魔力を注ぎ込む。
そして、その魔力は大きな炎へと姿を変える。
その炎は、僕の身体を丸ごと飲み込めそうなほど巨大に膨れ上がる。
『魔変顕現』ー
これがどんな攻撃をするか知らないが、シルヴァは、左手に小さな魔力を集めているだけだ。
あれで一体、何ができるっていうんだ。
「早く、来いよ」
シルヴァは、大剣を腰に下げるだけで無防備な状態だ。
いける!
僕はそう思った瞬間に、その炎をシルヴァに投げつける。
炎は、豪速球で彼に向かっていく。
大丈夫なのだろうか?もしかして、耐えれなかったらシルヴァはどうなるんだ?黒焦げどころじゃ済まない!
なんてほんの一瞬だけ思ってしまった。
『魔変顕現』は形を変え、僕の炎を断ち切るには十分すぎるほどの大剣を繰り出す。あまりにも巨大で、幻なんじゃないかと疑ってしまうほどだった。
「さて、これが今の俺の切り札だ!」
僕の炎は、シルヴァの『魔変顕現』の剣によって真っ二つに割れて爆発してしまった。
なんだって言うんだよ……あんなのチートだろ。




