魔変顕現っていいネーミングセンスだな
『魔変顕現』によって真っ二つに切られた僕の炎は、ものすごい爆風で前髪をオールバックにさせられた。
「じゃあ、2ラウンド始めようぜアシュ君!」
シルヴァは、そう言いながら今度は大剣を構えていた。
でも、もう僕には戦う魔力すら無くなってしまっていたのだ。
魔力がないと、立っているのが精一杯って感じ。
「シルヴァ、完敗だよ……」
やっぱり、シルヴァの実力を認めざるを得ない。ちょっと腹立たしい部分もあるけど。
これも、積み重ねてきた年齢の差ってやつなのだろうか。
関係ないとしても、年齢の差ってことにしてあげようじゃないか。
「え?なに聞こえないな?じゃあ……行かせてもらうぜえぇぇぇぇ!」
シルヴァは、大剣を持ってこちらへと全速力で向かってきた。
おいおい、冗談じゃないぞ。魔力が無いから塞ぐこともできないし。
まあ、幸いあいつの剣は鞘に入ったままってところだけど。
あいつ、後で魔王様にチクって絶対殺してやるうぅ!
こちらへ近づいてくるシルヴァの速さと顔を見て、そう思ってしまった。
『今日一番、本気で走ってるよね?』
彼がすぐそばまで来ると、大剣を思いっきり持ち上げる。
大剣が振り下ろされ、僕の胸に思いっきり命中した。
当たると同時に、遠くへと吹き飛ばされてしまった。
やばい……意識が遠のいていく。
僕の視界には、白いボヤがかかり始める。
あっ、これ気絶するのか。気絶なんて久しぶりだな……それこそシルヴァに修行してもらってる時ぶりだよ。
地面に倒れ込んだ最後に目に入ったのは、シルヴァのあのうざったいにやけ顔だった。
ーーー
目を開けると、僕の視界には空の色がオレンジに変わり太陽が沈みかけているのがわかった。これだけ広大な土地だから、よく見えるんだな。
「うぇー、マジかそう来ちゃうか。いいねえー」
近くからシルヴァの声がするので、地面に寝っ転がっている僕は起き上がって周りを見渡す。
そこには、シルヴァがでかい酒瓶を持ちながら椅子に座り、エッチな本を読んでいた。
ちなみに、この魔王軍には、こういう本が売られてるんだよね。
例えば『週刊魔王軍新聞』とか『魔王様の日常』などなどある。
それはいいとして。
「……お前なにやってんだよ」
「おお、起きたのか?ヒック!お前気絶してる時間が長いから暇だったんだよぉ。俺は酒が好きでふ……」
シルヴァは、すでに顔を真っ赤にして酔っ払っていた。
「じゃあ、僕は魔王様に頼んで帰るからね」
そう言って背を向けて帰ろうとする。
「ちょっと、待てよ!ヒック!」
シルヴァが引き留めてきた。
「おい、なんのようだよ僕は帰らないといけないんだよ……」
だって、やばいんだよ。魔王様が、時空の歪みをなくしたことによってあっちの世界と時差がなくなってるんだから。
僕は授業をサボった上に、気絶までしてたんだよ。このままじゃ、三奈に殺される。
「ちょっとだけ話したいことがあるんだがヒック!」
確かにシルヴァは酔っ払っていたが、その目だけは本気に見えた。
「なるべく手短にな」
「ああ、いいじゃねえか」
シルヴァは、真面目な顔をしながら雑誌を地面に置いた。
「お前、多分殺されるぞ」
今度は酒瓶を持ち上げ、酒を口の中に流し込んでいた。
「え?それはなんで?」
「だからなヒック!お前は将来的に殺されるんだよ多分だが。まあ、これはあくまでも勘だけど、九魔王兵の存在は認識だけはしてるだろ?」
「ああ、一応ね」
「その九魔王兵に、魔王様が僕を調査に出していることを話すとな――結構不満そうな顔してるやつが多かったってだけだぜ。これも人族の宿命かもしれないがヒック!」
九魔王兵は、いろんな種族のトップを集めたやばい奴らぐらいにしか認識してないけど、もしかして敵に回してしまったのかもしれない。
「人族って、不遇だよな……人口は多いくせに、一人一人は弱い。でも、集団になると強いとか聞くけど」
「あそこは、技術力もあるしな。魔人たちは、まさに真逆の存在ってわけだ」
シルヴァは、ポケットから何かを取り出して僕に投げてくる。
それをキャッチする。
「これは?」
手には、とても薄い本のようなものを持っていた。
題名は、『魔力と人』とだけ書かれていた。その文字だけね。
「それは、なにがあっても開くんじゃねぇぞ。これを開く時は、お前が本当に死にそうになった瞬間、どうしようもない時とかに使え」
シルヴァは、読み終えた雑誌を地面に置き、炎魔法で燃やした。
「ありがとう……?まあ、大事にしておくよ」
「『まあ』じゃねえ。これは、本当に自分の手でちゃんと保管するんだな」
とシルヴァ。
「わ、わかったよ。そこまで言うなら……」
「ほら帰りたいんだろ、転移網作ってやったから入れよ」
シルヴァの足元には、転移網がすでに設置されていた。
そうだよ、早く帰らないといけない。
「じゃあな、シルヴァ」
「ああ」
シルヴァは、素っ気なく返事をしながら上を向き空を眺めていた。
僕は、そのまま転移網に入った。
ーーー
転移の光が収まるとそこはーー
僕の家のトイレだった。
「ああ、そうだった。ここが僕の固定転移先になってたんだ……」
我が家特有のトイレひめくりカレンダーが目に入る。
間違いない。
ここは我が家のトイレだ。




