渡辺三奈
渡辺三奈は、ブラコンだと自分でも思う。
お兄ちゃんは優しいし面白い。なによりいじりがいがあって会話をしてて楽しかった。
お兄ちゃんのことが好きだった、というと恋愛的な意味になってしまうのでやめておこう。なんて言えばいいのか、愛していた?というのも違う気がする。
まあ、別にそこが重要なわけじゃない。
とにかく私にとって大事な人だったのだ。
そんなお兄ちゃんと楽しく話していられる日々というものは、当たり前ではなかったらしい。
「お兄ちゃんが死んだ」
トラックに轢かれそうになった私と子供を助けて、目の前で死んだのだ。
この言葉だけが私の頭の中を埋め尽くした。
あの日、お兄ちゃんがトラックに轢かれたのは私のせい。
私が轢かれそうになった子を助けたから……
いや、そんなことはなかったのだろうか。
結局、私があの子を助けようとしなくともお兄ちゃんが助けたかもしれない。
ほんの少しだけ早く飛び出しただけかもしれない。
『もし』私が助けにいかなければ……
『もし』少し遅く家を出てれば……
『もし』お兄ちゃんが生きていれば……
それは、何十回、何百回、何千回と考えたことだ。
その『もし』にどれだけの意味があったのか、いくら考えたって答えなんて出ない。
わかってる。
わかってる。
飲み込まないといけない。
『運命』には、抗うことはできないということを。
あの頃は、そんなことを考えながら涙を流すことしかできなかった。
それからずっと笑顔を作り続けた。
入学して、やっとお兄ちゃんと同じ高校に通えると思った矢先に、こうなってしまった。
学校では、とにかく平然を装っていた。
『大丈夫?』などと気にかけてくれることもある。
そんな時は、笑顔で『大丈夫!』と強がることが精一杯だ。
この傷は一生癒えることのないものなんだろう。背負い続けなければいけないんだと思っていた。
そう思いながら生活をしていたら、いきなり変化が訪れた。
『高菜翔平』という人が、家をなくして困っている、兄の親友だと名乗る。
その人の顔を見た瞬間、お兄ちゃんと重ねてしまった。
双子の兄弟なのかとでも思ってしまった。
『もしかして生きてたの?』と疑うことなんてできない。目の前で死の瞬間を見たのだから。
でも、この出会いは単なる偶然ではない。私が孤独感に苛まれてる中で『高菜翔平』という見知らぬ人と話すだけで、張りつめていた気持ちが少し楽になった。
なにより、この人をお兄ちゃんの代わりとでも思ってしまいそうになった。
喋り方や癖まで似ていて、この人がお兄ちゃんの親友だということにも頷けた。
代わりが欲しかったわけじゃない。
だけど、『渡辺洸平』と『高菜翔平』は似ている。それだけで救われたような気もした。
そうして、今日も一緒に玄関を開けて学校に行くのだ。
翔平と。
「三奈、弁当忘れてますよ」
翔平がそう言いながらお弁当をこちらへと持ってくる。
「……うん!ありがとう翔平」
私は素直にそのお弁当を受け取った。
「寝癖、ついてるよ」
翔平の頭についた寝癖を手で撫でて直してあげる。
「や、やめてくださいよ」
翔平が、照れ臭そうに目を合わせないようにしてくる。
「ふふ、できた!ほら行こう!遅刻しちゃうよ」
私はそう言って、先に玄関のドアを開ける。
「いってらっしゃいーー!」
お母さんの声が台所から聞こえてくる。
「「いってきまーす!」」
二人で声を揃えて玄関を出る。
どう?お兄ちゃん、君の親友の翔平くんと仲良くしてるよーー。
天国でも、元気にしててね。あと天国から私の着替えは見ないでねえ。
私は、雨上がりの空を見上げた。
ーーー
「学校ってめんどくさいですよね。破壊したくないですか?」
今日も屋上で下石がゲーム片手にそんなことを呟く。
「破壊ね……」
いや、できるよ。
別にできるけれども、学校を破壊できます。『破壊しますか?』って聞かれたらしないよね。
確かに思ったよ。強大な力を手に入れて全てを破壊してやるみたいな。
厨二病なら誰でも考えるものだ。
でも実際、力を手に入れてみれば別にどうでもいいとか思ってしまう。
これは厨二病を卒業できた証ってことかもな。
「僕って、厨二病卒業してると思う?」
下石は、顔だけで『お前よくそんなこと言えるな』っていってる。
「黒いの好き?」
「うん」
「月と太陽どっち選ぶ?」
「月と夜……あの二つが織りなすのはーー」
「はい、ストップストップ。重症だね」
下石は、僕が言う前に遮ってくる。
「なんで別にそれだけで!?」
「わかるもんなのさ……厨二病と厨二病は共鳴しあうんですよ」
下石は、左手を右手で押さえ込むようなポーズをとる。
「おお、溢れ出す魔力が……!」
僕も下石と同じポーズをとる。
マジで、魔力を溢れ出させるなんてことできるのかな?
ちょっとやってみるか……
手に魔力を込める感じだろ?
すると右手には、エネルギーのようなものが溜められている。
そしてそのエネルギーを放ってみる。
まあ、魔力は見えないからこんなことしても意味ないんだけどね。
「僕たちなにやってんだろ……」
「そうですね……」
下石と僕は見つめ合いながら、しょんぼりとしている。
ヒューーーー! バン!
その瞬間、空から何かが屋上に落ちてきたんだ。
衝撃で辺りは煙だらけになり、屋上の地面も凹んでいた。
煙がなくなるとそこにいたのはーー
「やっと見つけた……アシュ!」
魔王軍のスーツを着用したリーシュだ。
あっ……下石と鉢合わせるのはまずいんじゃないか!?




