サンドバッグにまたされるのかよ
「あっ、おはよう。君見ない顔だね、もしかして転校生?」
三奈と一緒に校門を通ろうとした時、彼女が話しかけてきた。
「おはようございます。新しく転校してきた、高菜翔平です」
学園の生徒をまとめ上げる生徒会長でありながら、生徒全員の顔と名前を覚えているという。
僕が前世で――いや、ここは洸平になすりつけよう。
あの洸平が振られてしまった彼女。
ーー橘 絢香。
「高菜くん、よろしくね」
そう言いながら橘は、僕に手を差し出してきた。僕はそのまま握手をする。
「三奈さん、おはよう」
「……おはようございます、生徒会長」
三奈はなぜか不機嫌そうに言ったが、橘も学校の高嶺の花だから、負けられないという対抗心でも燃やしているのだろう。
この人には、叶わなかったのだ。
僕がいくら勉強しても、学年一位を取り、しかも満点まで取る彼女に勝てるはずがなかった。学年二位までしか届かなかった。
何もかもが平凡だった僕は、『努力』をしても『才能』には勝てないと思ってしまった。
でも、今だったら彼女に絶対に負けるとは言い切れないかもしれないという自信がついている。
なぜなら、『努力』が『才能』を超えることだってあるのだから。
それは、魔王様やシルヴァに鍛えてもらって、よくわかった。
「じゃあ、またどこかで」
橘は、お嬢様のような立ち振る舞いで去っていった。
「すごかったな、学校の美女のトップが並ぶなんて……神!」
「それより、隣にいる男はなんなんだ!ちゃっかり、二人と話してるじゃねえか」
「最近聞くにな……一緒に登校下校を続ける転校生らしい。同居という噂もあるが」
三奈と僕が歩いていると、二人が噂を立てている声が丸聞こえだ。
「ふん!トップは私だけでいいのよ」
三奈は、頬を膨らませながら言った。
「うん、そうだね」
と僕は、自動的に受けた。
彼女とは、幼馴染というだいぶプラスな補正があったけど振られるっていうね……もう、告白なんて一生しません。
「あの先輩、いやあの女でいいや」
「ダメだから。三年の先輩だからね」
「お兄ちゃんのことを振った、くそ女先輩なんだよ!」
三奈は、下駄箱で上履きを床へ叩きつける。
女先輩って合体させてんじゃねえか。
「ふーん、あの洸平くんが振られるなんてモテるのにー(棒)」
「まあ、お兄ちゃん時々キモくて粘着質なところがあるからね……」
キモくて粘着質で悪かったな。
そして、教室へと歩いて向かう。
「あの、三奈。なんで、手を繋ぐんだい?」
「じいさん、手を繋ぐほうが恋人っぽいでしょうが。もうボケてるんじゃないんですか?」
三奈は、るんるんとした様子で僕の手を無理やり握りしめて歩いていた。
「ばあさん……っ! 痛っ! なにすんの」
「誰がばあさんじゃい!」
と言いながら三奈は、僕の頭をビンタする。
「はあ!? そっちがじいさんとか言ってたから合わせたんだよ! ボケてるとか言ってきやがって!」
「どこからどう見ても、私がおばあさんに見える!?」
「……いや、見えませんけど。僕はどうなんですか?」
「多分、五十年後にはハゲてるでしょ?」
三奈は、僕のつむじを指してくる。
「みんな、そうだわ!」
僕と三奈は、前世でよくやった喧嘩のようなものをしていた。
もちろん、周りからの視線があろうと関係なく。
でも、『懐かしいな……』
とは残念ながらならない。
むしろ嫌な思い出でもあるから。こうやって、いつも三奈に煽られて終わるだけだ。
そして、二人で教室に入ると、まず僕に視線の弓――いや、銃弾が飛んでくる。
突き刺してくるような。
「おっはよーー!」
と三奈は、女子たちのところへ行くと、男子たちの目線は三奈に行き癒されたような顔をする。
そして、僕をロックオンだ。
雑兵Aの時みたいに、空気として扱われるほうがマシというものだな。
「おい、お前今日も三奈さんと学校に来たのか?転校生とはいえ、そんなことあるのか?」
「そうだぞ、モブ顔!」
「三奈さんを見れるだけで、幸せだというのに」
このやりとり、毎日やるの?
いい加減、こいつら燃やしたいな。
僕だったら、証拠を残さずに消せるかもしれない。魔法で、骨まで消してしまえば。
……
いかん、いかんそんなこと考えるのは。
「三奈さんが言ってたけど、転校生にはこうやってくれるのが恒例なんですよ」
僕は、嘘を吐く。
「俺、してもらってないんだけど」
「えっと、それは……期間限定なんですよ!二学期の!」
期間限定って、なんだよって感じだけど誤魔化すしかないな。
「ふーん、そうか」
「そうなんですよ……勘弁してください!」
なんで僕は、ヤンキーに絡まれてるみたいになってるんだよ。
「わかったよ……悪かったな」
男子生徒たちが引き下がろうとした、その時!
「あの、高菜翔平さん。至急、生徒会室に来てくださいー」
と教室のドアを開けて入ってきたのは、生徒会長の橘。
あっ、これやばい。
なんで、生徒会長が後輩の転校生に話があるってんだよ!
「おい、高菜!橘先輩とは、どういう関係だよ!」
男子たちが、また目を光らせて僕の胸ぐらを掴む。
「……あっ、呼ばれたんで行ってきます」
僕は、橘に藁にも縋る思いで、その場を逃げ出した。
「高菜!後で覚えとけよ!」
「そうだ!」
と男子。
「三奈、高菜くん三股してるけどいいの?」
「殺しちゃいなよ」
と女子。
「もう、めんどくせえよ!」
僕は叫ぶこともできず、小さな声で愚痴りながら生徒会室へ向かった。
ーーー
「で、あの用件はなんですか?僕に」
生徒会室――それは、選ばれた者しか入れない特別な部屋。
生徒会室には、ただならぬ雰囲気が漂っていた。
「高菜くん、生徒会に入ってね」
生徒会長は、笑顔で言う。
「無理でーー」
「拒否権はないよ」
「……」
いや、普通に無理なんだけど。




