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魔王軍の雑兵A、地球侵略を阻止します!  作者: 酒田 恵
一章

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二重人格はちょっと憧れる。ほんのちょっと

第23話雑兵A


 「三奈のお兄さんが、かっこいいってどういうこと?」


 だって、三奈のお兄さんは僕だよ!?洸平だよ?


 「あの人は、三奈さんの兄という立場でありながらも、成績優秀で俺が一番好きなゲームの元トップランカーですよ!?」


 下石は、食い気味でこちらへと近づいてくる。


 いや、確かにそうだけれども。父さんと母さんに、「このままじゃ、ニートになるだけだ!」と断言されてゲームを燃やされたっけ?


 その時は、マジで父さんのハゲかけの髪を燃やしておこうとも思ったくらいだよ。


 「へえ〜、すごいんだね。その人」


 「是非とも、一度お会いして一緒にゲームもしたいです!」


 そう言いながら彼は、コーラの缶を握りしめた。


 「別にやっても良いけど?」


 「いや、高菜くんじゃないです。三奈さんのお兄さんですよ!」


 下石……真正面から否定しやがって、匂わせてやったのに。


 まあ、でもこいつの感情が恋愛感情とかじゃなくて安心したわ。


 「他にもかっこいいエピソードがあるんですよ〜。三奈さんがトラックに轢かれそうな小学生の女の子を助けようとしたんですよ。その二人を助けるために身を挺して亡くなられたということです。かっこよくないですか?縁起悪いですけど。そういえば、高菜くん三奈さんの兄と顔がそっくりですね。あとーー」


 下石は、眼鏡もないのに鼻の付け根を押さえ、眼鏡を直すような仕草をする。

 

 「もういいから、『陰』出過ぎてるから……確かに三奈さんの兄がかっこいいのは『当然』だし、頭がいいのも『天才』だからしょうがないんだよ」


 確かに、自分があの死に方を振り返ってみればかっこいいものかもしれない。


 でも、それは後々考えても後悔のない一択だということは確信しているのだ。


 「おっと、ごめんなさい。度が過ぎましたね、俺は別に男が好きとかじゃないので安心してください」


 「そ、そう……」


 まあ、そうじゃなきゃ困るって話だよ。


 二人はベンチに座り、たわいない会話をしているうちに、だんだんと日が落ちていった。


 夏の終わりの今、入道雲がオレンジ色で異様な雰囲気を醸し出していた。


 「じゃあ、俺はそろそろ帰ります。また、屋上で」


 下石は、手を振りながらイヤホンをつけて帰っていった。


 『学校で会おう』じゃなくて、『屋上で』か。


 「やっぱり、『陰』が強いな下石は」


 でも、いい友達ができたかもしれないな。


 ちょっと変わってるが、ああいうのを癖が強いと言うのだろう。


 さて、下石が帰ったのはいいとして三奈はまだ終わらないのか?


 これが、毎日続くのか……


 辛いんもんだな。


ーーー


 そして、数十分後。


 「翔平、待った?」


 「いや、待ちましたよ。大変そうですね、部活」


 「大変だよ……一応、スタメンですから!」


 三奈は、部活終わりの汗だくな体と額をタオルで拭きながら自慢げに言った。


 「じゃあ、帰りましょう。今日一日、疲れましたよ」


 「ごめんってば、謝るからなんか奢って」


 三奈がウインクをして手を合わせている。


 可愛い子アピールか、残念それは克服してる技なんだ。


 「無理です。お金ありません」


 今日だって、自分の部屋の引き出しから見つけた150円だけしかないのに。


 異世界でも、お小遣いは全然貰えなかったんだよな。


 「あっそうですか」


 と口を膨らませながら三奈は、背を向けて先に行ってしまった。


 「ちょっと待ってよ、三奈」


 少し先を歩く彼女に駆け寄り、肩を並べる。


 「いやー、それにしても今日の翔平は愉快だったよ。あんなに殺気を向けられてて」


 こいつの許せないところはこういうところだ。自分が周りからどんな評価をされているかをわかってる癖に知らないふりをする。


 ペッ!反吐が出る。


 「もう、弁解したほうが早いんじゃないんですか?事情を説明して」


 「それは、ダメって翔平が言ったんじゃん、偽装がバレるって。お馬鹿さんだねー」


 三奈は、僕の鼻を人差し指でいじる。


 マジで、接しかたまで前世の洸平の時と一緒じゃねえか。


 「言ったけれども……」


 「それなら、やめなさい。あなたは、私と毎日登校するの。それが約束でしょ」


 「わかってるよ」


 そして、しばらく歩き家へと帰るが、電気はついておらず誰もいないのがわかった。


 父さんと母さんは、仕事に行ってるらしい。


 「「ただいまー」」


 と二人で、玄関で大きな声で言った。


 「あっ、ご飯は母さんが仕事の前に用意してるから。言ってなかったよね?」


 「はい」


 「一緒に食べる?」


 三奈が、食卓で作り置きしてあるご飯を電子レンジに入れながらそう言った。


 「別にいいですけど」


 そして、三奈が配膳してくれて、出されたのは肉じゃがと味噌汁と白米。


 イッツ・ジャパニーズご飯ってやつだな。


 母さんも母さんだよ。いきなり、おふくろの味と言われる肉じゃがを出すとはセンスがある。


 「「いただきまーす」」


 三奈と僕は、手を合わせて食べ始める。


 弁当でも、食べたけどやっぱり白米は美味い。


 異世界で、ろくに栄養もなく、何の食材でできているかわからないようなものしか食べてこなかったけど、やっと食べるっていうことをした気がする。


 いや、そこまでではないか。


 味噌汁もだ。


 この香りと味噌の味。普段なら別に好きじゃないが、久しぶりに食べることで美味しく感じるのだ。


 ……あっ。


 「ごめん、お手洗い行ってくる」

 

 「いっトイレー」


 三奈は、ギャグを言ったのかわからないラインで肉じゃがをモグモグとさせながら言った。


 トイレに入り、ズボンを下ろして便器に座り込む。


 「ああ、綺麗なトイレも新鮮に感じるなーー」


 とそんなことを呟いている時だった。


 「魔王軍のトイレは、あんなにも汚くて……ってあれ」


 トイレットペーパーを取ろうとすると、そこには何もなかった。


 いや、紙がないわけじゃないのだが、空気しかないんだけど。


 妙な違和感だな。


 「チビスケえぇぇ!遅いよおぉぉ!」


 「魔王様!?」

 

 まさか……転移!?

 

 便器から切り離された瞬間、僕は足に力を入れる。


 ザ・空気椅子だ。


 いや、これ以上にタイミング悪い転移ありますか?

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