スパイってやっぱり憧れちゃう
「じゃあ、今日はこれでお終いです。号令お願いします」
先生が、クラス委員に合図を送り、号令をする。
転校初日、これだけ長いと感じた学校生活は初めてだった。
しかも、帰りは三奈を連れて帰らないといけない難関ミッションもあるしな。
はあ、守ってなんて言われなかったら、一っ飛びで帰るはずだったのに。
「気をつけ、礼!」
みんなが帰り始めた頃、三奈を家に連れて帰るために席のそばへと寄る。
だが、男子からは睨まれ、女子からは「どういう関係?」なんて三奈にヒソヒソと聞かれていた。
「なんで、話しかけるだけでダメなんだよ!」と放り出したいところだが、いちいちそんなことを気にしてる余裕もない。
「三奈さん、帰りますよ」
「ん?どうしたのそんなに硬くなって、『三奈』でしょ?あと、今から私は部活よ」
「!?」
「バレーボール部って言ってなかったっけ?だから、体育館前で待っててねー」
三奈がニヤニヤとした顔で言うが、その言葉に周りが反応しないはずがない。
「おい、高菜。マジで殺すぞ」
と男子たちの目は赤く光り始めて、女子たちとはいうとーー
「キャーー!三奈、本当にどうしちゃったのよ!」
とこの盛り上がりだ。
うん、めんどくさい。
それより、三奈の部活が終わるまで待つほうがめんどくさいんだけど。
「じゃあ、翔平。頼んだよーー」
と三奈は、紙パックの紅茶のストローを咥えながら教室を後にして、体育館へと向かって行った。
「ちょ、待て!」
僕が追いかけようとすると、三奈は逃げるようにスタスタと走っていった。
もう、帰らせてくれ!こんなところ、精神的にきついわ!
Z部隊の時のほうが肉体も精神もキツかったけれどもね。
そして、おぼつかない足取りで僕は教室から体育館へと向かおうとする。
「おい!どこ行くんだよ、高菜!話はまだ終わってねえぇぞ!」
「そうだよ!」
男子たちからの罵声が飛んでくる。
ーーー
体育館にあるベンチで、項垂れながら目を瞑る。
「たくぅ……なんで僕がこんな目に遭わないといけないんだよ」
って、何度思ったことか。
高菜翔平。いや、アシュ。
思い出すんだ。これは調査、あくまで調査っていう話で来てるわけなんだ。
よし、ポジティブに考えよう。
(僕の名前は、高菜翔平。普通の高校生。だが、裏では異世界の魔王軍から送られて来たスパイ、その名もアシュ!)
いいね、テンション上がって来たよ。
(ミッション①三奈を守ることだ。これをしなければ始まらない!)
「ふっ、ふふ、ふふふ……」
とベンチで一人で笑っていた。
「なにやってるんですか、高菜くん。そんなニヤニヤして気持ち悪いですよ」
そう言いながら、僕の横に座って来たのは下石だ。
「ごめん……つい」
「可哀想ですね、高菜くん。三奈さんのことで」
「そうなんだよ」
「はい、これ俺の奢りです」
下石の『陽』の部分が出ているのか、気を使って缶コーラを出してきた。
だって、昼休みにあったばっかりなんだけどね。二重人格すげえよ。
「いいの?」
そして、僕は何気なくコーラの缶を開けると、プシュッと音が耳に響いた。
そのコーラを口にする。
「うま!?」
当たり前のように、コーラを飲んだけど、飲んだのは前世が最後だったんだ。
なんだこれ、久しぶりに炭酸というものを味わった。
シルヴァがコーラっぽいものを人族から買っていたが、『子供には早いの!』と飲ませてくれなかったんだ。
そもそも、炭酸というものは希少なものだったから。
「初めてコーラを飲んだ人みたいになってますよ」
下石も片手にコーラを持って、笑いながら言った。
「そういえば、今って夏だっけ?」
「なに冗談言ってるんですか、二学期が始まったんですから、もう秋ですよ」
確かに一度目にここに戻ってきた時は、8月の下旬だった。
「あのー、聞きたいんですけど、三奈さんとはどのような関係ですか?」
下石は、急にモジモジとし始め、話を切り出してきた。
「君も同じこと聞くんだね」
僕は、一瞬だけこいつへの評価が揺らいでしまった。
今までの友情関係の大半が三奈目当てだったからだ。
「いや、気になっちゃうんですよ」
「まあ、コーラ奢ってもらったし。えっとね、簡単に言うと、両親が他界して住み場をなくして、三奈の兄と友達という理由で渡辺さんの家に一年間居候する形になったってわけ」
「……」
ここで、僕が下石と人間関係を持つに足るかを判断するのだ。
『ふざけんな!』なんて言われたら、いくら良いやつでも付き合い切れないからな。
「……ふざけんな!なんで、俺に言ってくれなかったんですか!」
「え?」
「俺の家なら、いつでも大丈夫ですよ!そういう、事情があるなら」
「いや、その……」
下石は、僕の両肩を手で揺らしながら必死に訴えてくる。
これは、合格だね。
「それで、居候する条件として三奈を守るっていうわけ」
「高菜くん、待っててください。今から、あの男子たち殺してきます」
「いや、殺すなよ」
正直、このオタクで根暗な奴がかっこいいと思ってしまう。
それは、周りが酷かったのか、こいつがすごいのか……
もう、わからん!
「でも、三奈さんの兄は亡くなられていたと聞きましたけど……俺、ファンだったのに」
「ん?」
「だから、三奈さんのお兄さんってかっこいいなって」
どうやら、僕は自分のファンと友達になってしまったらしい。




