いい感じの友達いたわ
「はあ……本当に勘弁してくれよ」
僕は屋上で柵に寄りかかりながら、焼きそばパンを食べていた。
母さんの弁当は、もう食べ切っていたので追加で並んで買った焼きそばパンだ。
「これから、あの殺気と戦いながら生きていかないといけないんだな」
でも、三奈の護衛で住むって約束だから、一緒に登校しないといけないんだよな。
初日から完全に失敗だった。
そして焼きそばパンを食べ終え、袋のゴミを握りしめる。
「クソが」
とそのゴミを怒りに任せて地面に叩きつけた。
「どうしたんですか?そんなに怒って」
屋上の端っこから、誰かの声が聞こえてくる。
そこを見てみると、ゲーム機に有線のイヤホンをつけて遊んでる一人の生徒がいた。
「誰?」
「1−Dの下石です」
その下石と名乗る男は、僕のほうを見ることもなくずっとゲームの画面だけを見つめていた。
いや、いたの全く気づかなかったわ。
僕の探知に引っかからないって、どんだけ影が薄いんだよ。
「ああ、気にしないでください。俺はゲームやるだけなんで」
そう言いながら、下石は自分の世界へと入っていった。
「そこだよ!やれよ!うわっ、ラグい!この学校の回線クソだな!……あっ、死んだ」
下石は、ゲームで負けたのか、イラついた様子でイヤホンを引っ張って抜き、ゲーム機を地面に、
「クソゲーが!……いや。ダメだ、壊しちゃ」
焼きそばパンの袋のように叩きつけようとしたが、本能的に思いとどまったらしい。
そして、一旦ゲーム機とイヤホンを地べたに置いてこちらへと駆け寄ってくる。
「この学校の回線は、使わないほうがいいですよ、転校生くん。わざわざジャックして使ったのに……」
と下石は、僕の耳元でボソッと呟いた。
「ジャックしたの?」
「そうなんですよ。俺がちょっとイジっただけなんですけどね」
下石は、長い前髪に目の下のクマがあり、引きこもりのオタクという顔をしている。
「転校生くん、いや高菜くんのほうがいいですかね。ここは僕の聖域です。軽々しく入らないでください」
下石の目が急に、キリッとした目に変わる。
「あっ、それはごめん」
「でも、一つ条件を飲んでくれたら許します。俺と友達になってください」
そう言いながら、彼は少し照れたような顔をしている。
「いや、別に構わないけど」
こいつ、なんか面白いし。三奈を狙うために、友達になってくれって言ってるわけでもないんだよな。
「本当ですか?」
「うん」
「ありがとう、高菜。これから、よろしくな!」
下石は、さっきの根暗な雰囲気が消えてしまった。
「どうしたの?急にそんな」
「ん?だって俺、二重人格だもん」
今、下石、二重人格とか言わなかった?
「!?」
下石は、屋上の扉に寄っかかりながら説明をしようとしている。
「だからな、友達になった瞬間に別人格に変わったんだよ。どっちが本物って聞かれたら、あの暗い方かな。『陰』のほう」
「なんで、そんなことに?いつから?」
「落ち着けよ。理由は、厨二病の最終形態っていうか?なんか、『陰』が二重人格に憧れすぎて、本当になっちゃったみたいな!面白いよな」
その『陰』とは反対の、今喋っている『陽』が笑いながら言った。
厨二病って、進化するとそうなるの?
ていうか、最終形態ってなんだよ。
「発症したのは、中学二年生の時かな?」
「まんま、中ニ(厨二)じゃねえか!」
本当にいるもんなんだな……二重人格とか。
「『陰』と『陽』は、自由に入れ替えられるから今だって変わったら……ああ、どうも。『陰』の下石です」
真っ直ぐな視線をしていた下石は、急に猫背になり死んだ目になった。
いや、二重人格ってそういうもんなの!?
「でも、普段は目立ちたくないから『陰』のほうが圧倒的に多いんです」
「なるほどね。じゃあ、なんて呼べばいいの? その二つの人格のことを」
「「下石」」
根暗な声と元気な声が、ちょうど重なる。
「えーー、じゃあ下石でいいけど」
なんか、決めるのもめんどくさいからと、僕は下石ってことにしておいた。
「あっ、あと下石はなんで僕に殺気を出さないの?」
「いや、殺気って……別に良いんですよ。三奈さんは、高嶺の花っていう領域じゃないですし、見てるだけで良いんですよ俺は」
下石は、悲しげに下を向きながら言った。
キーン、コーン、カーン、コーンーー
昼休みの終了のチャイムが鳴った。
「ほら、チャイム鳴りましたよ行きましょう」
下石は、ゲーム機とイヤホンをポケットにしまって走った。
僕は、地面に投げつけた焼きそばパンの袋のゴミを下石が行ったあとに、こっそりと魔法で燃やした。
うん、魔法は使えるね。
それにしても、下石。
良いやつだな。
ーーー
「魔王ちゃん! アシュは、どこですか!」
リーシュは、魔王様の玉座へと無理やり押しかける。
「いや、知らないよ……」
魔王様は、アシュが地球へと調査に行ったことをリーシュに伝えずにいた。
「嘘、つかないでくださいよ!」
「ついてないってば」
リーシュの怒りっぷりに、魔王様も一歩後ろに下がっていた。
「もう、二日間くらい見てないんです!」
「ちょっと、旅行にでも行ってるんだよ……」
魔王様が言い訳するにも、残念ながら嘘は下手だった。
「わかりました!もう一回探します」
とリーシュは、剣を構えながら玉座を後にした。
「頼む!チビスケ帰って来てくれーーー!!」
魔王様は、そう一人で叫んだ。




