学校でこそ、雑兵AいやモブAだよ
この学校生活において、重要なことはいかに目立つこともなく過ごすかだ。
なぜなら、単純に人間関係というものがめんどくさいというのもあるが、偽装している奴が目立つとバレるリスクが上がるかもしれない。
「僕は、高菜翔平です。好きなのは、ゲームです。お願いします」
と静まり返った教室に言った。
これこそ、完璧だ。
男子は好きであろうゲームを、あえて具体的に言わないことによって興味を分散させることができるのだ。
「じゃあ、高菜くんは後ろの席に座ってね」
と先生が窓際にある空いた席を手で示した。
女子は大丈夫なのかと思うかもしれないけど、論外だ。
この黒髪黒目で平均的な身長に顔立ち、面食いじゃない物好き以外は近づこうとしないだろうね。
席に座っている間は、男子はそっぽを向いているだけだが女子は三奈と僕をなぜか交互に見ていた。
いや、別に大丈夫だよね?変なことしたっけ僕。
「これでホームルームは終わりです。授業の準備をしておいてください」
先生がそう言って教室を去って行く。
ここで、話しかけられなければ安心だな。
僕は、本を読んでるようなフリをしながらぼーっとしていた。
だが、平穏とは何かのミスで崩れてしまうものなのかもしれない。
「おい、高菜!なんで、あの三奈さんと一緒にいるんだ!?」
「お前どういう関係だよ!」
「俺も狙ってたのにぃ……」
そう言いながら、クラスの男子たちが僕の席へと集まってくる。
忘れてた……
高校生の時も、中学生の時でも『三奈』がその学校の生徒じゃなくても、『みな』が狙うアイドル的存在の美少女として扱われてきたんだ。
三奈だけにね。
まあ、それはともかく。
僕の友達の大半が三奈が目的だったんだ。
「いや、転校生だから案内を」
惚けるように、周りに説明をするが誰に言っても通じなさそうな雰囲気に陥ってしまっていた。
「今日転校したのに、なんで三奈さんが一緒にいるんだよ」
「いや、三奈はーー」
「呼び捨て!?」
一人の男子生徒に急に胸ぐらを掴まれる。
マジで、勘弁してよ……どっちかというと僕は、その周りにいるなにも喋らない男子生徒Aになりたいのに。
「いや、本当にたまたまだよ。こんな奴が三奈さんに気をかけて貰えると思う?」
「三奈さんは、誰にでも優しく接するお方だぞ!そんなこともある!」
一人の眼鏡の男子生徒が、鼻息を荒くしながら言った。
もう、宗教か!
同じ学年じゃないから、知らなかったけどここまでとは。
でも、ここで一番言ってはいけないのは、三奈と一緒に住んでいるということだ。
「よおー、男子たちなに騒いでんの?」
そう言いながら、この獣の群れに自ら突っ込んできた。
「「「三奈さん!?」」」
男子生徒が、その声に見惚れるように後ろを振り返った。
「いや……三奈さんは転校生とどういう関係で?」
ダメだ!その問いは、答えたら終わる!
「一緒に住んで……っ痛!」
と三奈が口を開いた瞬間に、僕は彼女の足を思いっきり踏んだ。
「いやー、今日は空が澄んでるなー」
無理やり、誤魔化すように視線を空へと逸らされる。
「ん?曇ってるぞ」
その間に、三奈を抱えて屋上へと逃げた。
「あれ!?三奈さんと高菜がいないぞ!?」
「逃げられたんだ……」
ーーー
「三奈、一緒に住んでることを言っちゃダメだよ」
「足痛いよ……」
三奈は、上履きの先っちょを撫でるようにしていた。
「それは、ごめんなさい。でも、住んでるってバレたら大変なことになっちゃうし。殺されちゃうかもしれないんだよ!?」
「知ってる」
僕が、必死になって説明するなかで三奈はさっきと真逆に冷静そうに言った。
「え?今なんて」
「だから、知っててやったの」
「なんで?」
「面白そうだからに決まってるじゃん」
忘れてた。
三奈はドSの属性もあるんだった。
「今後そういうことをするのはやめてね。お願い!マジで殺されるからあの男たちに」
「努力してみるよ……っふ」
と三奈は一瞬不敵な笑みを浮かべた。
あっ、これやばい。僕の死期もなかなかに近いかもしれない。
なんなんだこいつ!昨日とは、態度が違うっていう次元の話じゃねえよ。
これ、別人格だよ。
まるで、前世の時みたいに……
いや、これが本性だった!
「ごめん、ごめん冗談だよ。翔平も騙されちゃダメだよ」
うん、冗談じゃねえから言ってるんだよ。
「ふーん、そうなんだ。これからは気をつけてね」
僕は、怒りを抑えるために拳を握りしめていた。
キーン、コーン、カンコーン。
と始業のチャイムが屋上にも鳴り響いている。
「翔平!授業、始まっちゃたよ!行かないと」
三奈は、走って教室へと戻っていった。
「はあ、モブ作戦は失敗に終わりそうだな……」
と僕も教室へと三奈を追いかけるように全力で走っていった。
ーーー
きつい。
ダメだ、警戒が全く解けない。こちとら、魔王の前にいる方が安心するくらいだ。
四時間目になっても、全く変わらねえ。
なぜ、こんなになっているかというと『視線』だ。
三奈と一緒に、登校しただけで周りの男子からは獲物を狩るような目で見張られている。
今だって、ノートを書いてるだけなのに殺気を感じる。
三奈という存在は、アイドルなのだ。
話せるだけで、ラッキーな存在。
そもそも男子とは関わらない三奈が、僕がいたことによって男子生徒たちに話しかけたのもあるだろう。
でも、前世では僕が兄だからと許されていたけどね。
ふざけんじゃねえよ、安泰の学校生活をどうしてくれるって話だ。
まあ、前世も合わせたら僕は三十歳を超えるおっさんなんだけどね。
悲しいことに。でも、心は高校生だから。
そんなことを考えながら、窓の外の空を眺めてペン回しをしていた。
頼む、魔王様!僕に平穏を!




