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魔王軍の雑兵A、地球侵略を阻止します!  作者: 酒田 恵
一章

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2/32

地球調査、失敗です

 「僕はどうすればいいんだ……」


 妹を見ながら、届かないはずの声をあげる。


 昔のように戻りたいと願うように、僕は月へ手を伸ばした。


 すると、月に雲がかかった。


 三奈が、窓の向こうで小さく呟いた。


 「また、会いたい」


 「また、会いたい」


 僕と三奈の声が重なった。


 ダメだ……ここから離れよう。


 僕はもう三奈が知ってる兄じゃない。


 そう思い、僕はその場から逃げるように離れた。


 「三奈、十年以上経ってるはずなのに全然変わってないな……」


 この虚しさを紛らわせようと、笑顔を取り繕った。


 そして、雲に隠れた月を追うように空へと飛んだ。


 魔王様は確かに侵略予定と言っていた。


 僕は本当にどうすれば……


 頭を抱えながら、誰もいない上空で考えていた。


 「魔王様が侵略するってことは……日本が襲撃される……」


 この世界には、僕の家族がいる。


 異世界にも、僕にとって家族と呼べる人がいる。


 どちらも、僕にとって大切な存在だ。


 「……家族を守りたい」


 僕は魔王城へ繋がる転移網へ入った。


ーーー


 どう説明すればいいんだ……


 転移中の白い光の中で僕は必死に考えていた。


 堂々とここは侵略しちゃダメです!っていうのか……


 でも、


 「阻止しなければ!」


 そう言って転移から抜け、魔王様の王座へと着いた。


 僕は魔王様に正直に話すことにした。


 「魔王様!報告があります!」


 その声は、王の間に響く。


 「実は……侵略予定地について――」


 そう言いかけた瞬間だった。


 「うわぁーーん!!会いたかったよチビスケえぇぇぇぇーー!!」


 そう言って僕を抱きしめてきたのは、魔王様だった。


 「え、え!?」


 魔王様は大粒の涙と鼻水を垂らしながら幼い子供のように泣いていた。


 そして、僕のお腹に頭を擦り付ける。


 「長いよーー!なにかあったのかと思ったよーー!」


 抱きついた状態で僕に話してくる魔王様。


 「いや、なにも起きませんでしたけど……」


 「良かったーーー!!」


 「あの……魔王様。一体、どれくらいの時間が経ちましたか?」


 僕は、魔王様との会話に違和感を覚えた。


 なぜなら、地球にはほんの数時間しかいなかったから。


 「えっと……1……4……」


 魔王様は指で何かを数えていた。


 「大体、7日くらい」


 「7日!?」


 つい僕は大きな声が出てしまった。


 まさか……これは。


 「時空の歪みじゃないですか?」


 「うん、そうだと思う!」


 「僕はほんのちょっといただけなんですけど」


 「なるほど……そういうことね」


 魔王様はテクテクと自分の王席へと戻って座った。


 「魔王様……言いたいことがあります」


 「どうしたの?そんなにかしこまっちゃって」


 魔王様はさっきの涙と鼻水をティッシュで拭いていた。


 言わなければ……言わないといけない。


 「侵略場所を変えてください!」


 僕は深く頭を下げた。


 「わかった!」

 

 「本当ですか!?」


 「……わかったと言いたいところだけど」


 魔王様は困った様子で頭をぽりぽりとかいていた。


 「!?」


 僕は息を呑んだ。


 無理……!?


 「ごめんね。チビスケにはいつもお世話になってるけど、これだけは難しいかも……」

 

 魔王様は残念そうにそう言った。


 「そうですよね……」


 落ち込んだ僕を見て魔王様はこちらへと駆け寄って来た。


 「大丈夫!私がなんとかするから!ちょっと頭下げて」


 頭を下げると、魔王様は僕の頭を撫でてくれた。


 「ヨシヨシ……大丈夫だから」


 そうだ。


 この人からはずっとこうやってしてくれたんだ。


 昔は頭を下げる必要もなかったのに。


 これが『家族』っていうことなんだな。


 「わかりましたよ、魔王様。でも、お願いしますよ」


 「わかってる。わかってる。大丈夫だってチビスケ!」


 僕の背中を魔王様はパンパンと叩いてくる。


 「本当に頼みますよ……」


 魔王様に聞こえない小さな声でそう呟いた。


ーーー


 「はぁ……」


 僕は自室に戻り、ベッドで大の字になっていた。


 額に手を当てて、考えていた。


 「魔王様、大丈夫かな?」


 やっぱりあの人は心配なんだよな……


 妹。


 魔王様。


 時空の歪み。


 そして――次の侵略予定地、地球。


 「シャワー浴びるか……」


 シャワーを浴びながらもずっと考えていた。


 なんで、三奈が……


 姿が変わっていないのも時空の歪みってことか。


 じゃあ、僕が死んでから時間が経ってないのか。


 『次の侵略予定の場所は地球』


 その言葉が急に僕の頭に浮かぶ。


 前髪が視界を半分遮る。


 「くそ……」


 僕は壁に手を力強く打ちつけた。


 わかんねえよ。もう。


 体を拭き、服を着て、ベッドに飛び込む。


 「もう寝よ……」


 それ以上考える気力もなく、僕は眠りについた。


ーーー


 目を開け、毛布を取って起き上がろうとした。


 すると、そこには魔王様がいた。


 「むにゃむにゃ……」


 魔王様はなぜか僕のベッドで快適そうに寝ていた。


 「魔王様……ここで寝るのはやめてください」


 と魔王様の体を揺すった。


 全く……魔王様は。


 「もうちょっとだけ……」


 魔王様は無防備な姿で相変わらずだった。


 「まったく……いつの間にきたのやら」


 その瞬間、僕の脳裏に三奈の姿が浮かんだ。


 なんでだ……これは魔王様との日常のはずなのに。


 どうして今、思い出すんだ。


 そう、このやりとりは僕が死ぬ日の朝に三奈とやったのだ。


 「そうだった……」


 あの日も、こんな朝だった。


 妹に起こされて、眠い目をこすりながら朝食を食べて。


 それが、僕にとって最後の日になるなんて知らずに。


 「……あの日、僕は」


 そこで、言葉が止まった。


 なぜだ。


 思い出したくないはずなのに、今なら思い出せる。


 三奈が、まだ僕の妹だった頃のことを。


 今思えば、あそこから全てが始まったのかもしれない。


 「……あの日、僕は――」


 十数年前。


 僕が、まだ『兄』だった頃。

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