おいおい、そこまでするのかよ
「学校って、どういうことですか?」
僕は、父さんと母さんの顔を交互に見ながら言った。
「だからな、高菜くんには三奈を守ってもらうんだ。だから、護衛的な感じ?」
父さんは、とぼけるように言った。
『護衛的な感じ?』じゃねえよ。
「お父さん!そもそも、どうやって学校に入るの?」
三奈も、戸惑った様子でいる。
それは、そうだろ。
いくら、守るとは言っても、そこまでするか。
「大丈夫だ。そこは、私がなんとかしておくから」
母さんは、自信満々に言っている。
「お母さん、どうやってそんなことをするの?」
「偽装よ。私にかかれば、そんなこと簡単よ」
父さんも母さんも、一応警察なのにな。
警察が嘘つくって、どうなんだよ。
「わかったか、高菜くん。明日から、学校だぞ」
「寝る部屋は、洸平の部屋を使ってくれていいわよ」
父さんと母さんは、早速紙に何かを書き始めていた。
「三奈、案内してあげて」
「わかった」
母さんに指示されて、三奈が僕を二階へと連れていった。
ーーー
「ここが、お兄ちゃんの部屋だよ」
三奈は、親切に部屋のドアを開けてくれた。
「お邪魔します」
僕は、部屋の中へ入る。
そこは、前世の時と、なに一つ変わってない部屋。
埃などがないのは、掃除をしてくれているからだろう。
こないだ、窓から覗いた時にはわからなかったけど。
なんて言えばいいのかわからないな。
窓から、満月ではない三日月が灯りのない部屋を明るくしていた。
「……ふっ」
僕は、この帰ってきたような安心感を噛みしめていた。
父と母、それに妹との真正面からの再会。
もう二度と無理だろうと、吹っ切っていたものが、またこうやって舞い戻ってきたのだから。
次第に、僕の目頭が熱くなってきた。
だが、三奈がいる前では泣くわけにはいかない。
「翔平さん、立ち止まられてどうしたのですか?」
三奈は、心配そうに俯く僕の顔をのぞいてくる。
「翔平さん……?」
「……いや、なんでもないよ!」
僕は、笑顔になった。いや、笑顔にしたのだ。
その笑顔を見ると、三奈は微笑みながら、
「似てる」
と呟いた。
「やっぱり似てる」
三奈は、どんどん僕に顔を近づける。
「どうしたんですか?」
「やっぱり、翔平さんはお兄ちゃんと似てるんです……その笑顔も裏になにか隠すようなところも」
「そうなんですね」
「双子みたいですよ!本当に」
三奈は、そう冗談っぽく言った。
やっぱり、三奈にはバレちゃうんだな。
「あっ、そういえば。まだ、仏壇にお線香あげてませんでしたよね?」
三奈は、首を傾げながらそう言った。
お線香……忘れてたな。
「わかりました。あげましょう」
そして、二人で一階へと降りていった。
「高菜くん、どうしたんだい?」
父さんは、コーヒーに五、六粒の角砂糖と三杯のガムシロップを入れて混ぜていた。
机には、たくさんの紙が散りばめられていた。
「今から、洸平くんの仏壇にお線香をあげようかと」
「そうか、ありがとうね」
父さんは、にっこりと笑った。
父さんは、変わっているが怖い人ではなく優しい人だ。
でも、糖尿病になるのはやめてね。
僕と三奈は、仏壇の前に正座で座り込んだ。
三奈は、仏壇にあるお線香を渡して、チャッカマンで火をつけてくれた。
「三奈さんは、やらないんですか?」
「朝やったんだけど、何回もやったってお兄ちゃんは喜ばないよ?だって、お兄ちゃんなら『線香より、お供え物をよこせ!』って言いそうだからね」
と三奈は苦笑いしながらも手に線香を持った。
僕は、線香を香炉に刺した。
それから、目を瞑って手を合わせる。
洸平という男は、死んだんだ。
今いるのは、アシュという男。
例え前世の僕でも、そいつは死んだ人間なんだ。
だから、前の僕は安らかに眠ってくれ。
そう思って、目を開けて手を戻した。
三奈も、僕が目を開けて少し経ってから、手を合わせ終えたようだ。
「三奈さん、なにを考えていたんですか?」
「『さん』なんてつけなくてもいいんだよ。翔平!」
「じゃあ、三奈で」
「呼び捨てかい!『ちゃん』とかじゃないの?まあ、私もだけど」
やっぱり、『さん』なんてつけるのはなんだかな。
違和感でしかない。
「なにを思ってたって?『お兄ちゃんと似てる人がうちに住むことになったよって、これからも私を守ってね』って願った。聞こえてるかな?」
三奈は、仏壇の僕の写真を見ながらそう言った。
「聞こえてるし、守ってくれるよ」
だって、『お兄ちゃん』はいなくとも『アシュ』っていう同じような人がね。
そうなのだ。確かに、洸平は死んだかもしれない。
でも、その洸平のことは、この僕が受け継いでいるのだから。
「そうだよね!きっと聞いてくれるよね!」
と三奈は僕の手を強く握りしめた。
「おい、そこ。いちゃつくんじゃない」
母さんが、こちらへひょこっと顔を見せながらそう言った。
「「はい、すみません……」」
ーーー
明日、どうしよう……
僕は、クローゼットの中にある制服を見ながら考えた。
「ていうか、なんでトラックに轢かれたのに制服が綺麗なんだ?まあ、いいか」
それより、いきなり学校だなんて。
弱ったなあ。




