また行くしかないのか
この人族の調査に行ったのが、地球調査に行けと言われた一ヶ月くらい前だ。
振り返ってみれば、僕の転生してからの十何年間は、長くも短くもあり、楽しくも苦しい日々だった。
雑兵Aと呼ばれて、馬鹿にされるのも悲しいし嫌でもあった。
でも、それ以上に、ここで過ごした思い出にとって、雑兵Aという呼び名は少しの痛みみたいなものなんだ。
そして、僕が過ごしてきた魔王城を選ぶのか、妹がいる地球を守るのか。それを僕には選ぶことなんてできない。
「魔王様……」
僕の布団に入り込んだ魔王様に、語りかけるように言った。
一体、どうすればいいのだろうか。
調査を諦めることは、できないらしい。
だったら、少しでも時間を稼がなければ。いや、侵略そのものを無かったことにしなければいけない。
「そんなこと、どうやってすればいいの?」
僕がポツリと呟くと――
「できるよ、私がその方法を知ってるんだから。チ、ビ、ス、ケ」
寝ていたと思われた魔王様は、にっこりと笑顔でそう言った。
「魔王様!?起きてたんですか」
「うん、ずっとね。悩み事してそうな顔してたから。伊達に十何年間も一緒にいないんだから」
「その方法って……どうすれば、いいんですか?」
「ここだけの話ってわかった上なら言えるんだけどなあ」
「わかりました、他言無用ですね」
僕は、キッパリとそう言い放った。
両方とも、守るならそれしかない。
「よろしい。この魔王城には、九魔王兵と呼ばれる、通称ナイン・レギオンが存在しているんだ。魔人って言っても、色々な種類があるだろ? そのトップがいるんだよ」
魔人は確かに、そうだ。
一般的には、その種族つまり魔族に身を落としたものを、ここでは魔人と呼んでいるんだ。
まあ、僕も一応、魔人なのかな?
「そのトップが、次の侵略場所にはチビスケが調査した場所がいいと言っているんだ。そこでは、色々な権力関係があって、それを保つために私がいるの。だからと言って、私が言えばなんでも叶うわけじゃない」
つまり、魔王と言うのはほぼ肩書きみたいなものなのかな。
大変なんだな。
「で、ここでチビスケにそこで、潜入捜査をして貰おうと思う」
魔王様は、腕を組みながら自信満々にそう言った。
「潜入捜査!?そんな計画、いつから」
「今!」
「今!?」
「そんな、チビスケに悲しい顔されちゃね。事情は聞かない、でも気がかりがあるなら行ってきなさい。そこで、ここは侵略場所に相応しくないって証明してやって」
魔王様……やっぱり、この人に『魔王』という称号は似合わない。
「わかりました!僕が調査を引き受けましょう!」
「そう来なくっちゃ。期限は約一年かな、でも定期的に帰ってきてね寂しいから」
一年か……長いようで、きっとあっという間なんだろうな。
「でも、調査ってどうやって……」
「それは、全部任せるよ。あと、時空の歪みも消しといたから」
時空の歪みは、こっちの世界と地球との時間のズレだ。
こないだ行った時は、一瞬しかいなかったのに、こっちでは数日経ってたからな。
こうやってなんでもできる魔王様は、強さだけなら『魔王』より『神』なんだよな。
「こっちの時間の進み方と並行ですか?」
「うん、そうだね」
「わかりました。じゃあ、すぐにでもここを出ます」
「シルヴァとリーシュに挨拶していったら?」
「遠慮しときます。シルヴァはともかく、リーシュに言ったら多分付いてくるんで……」
リーシュは、ずっと本当に僕のそばに着いてくるからな。
シルヴァは、まあ大丈夫だろ。
今だって、ずっとハンモックで鼻ほじってエッチな雑誌を読んでるだけだ。
「それも、そうだね」
「準備してきます」
ーーー
そして、僕は黒いスーツに着替えた。
鏡の前に立ち、赤いスカーフをつける。
そのスカーフを見て、僕は微笑みながら、
「これで、完璧だな」
と呟いた。
「お前さん、なかなかいい面してんじゃねえか。出発かい?」
シルヴァが、知らぬ間に自室の扉の前に寄りかかっていた。
「うるせえよ、シルヴァ。お前はもう、おっさんなんだから前より老けたんじゃない?」
「クソガキが!相変わらず口は減らねえなあ。こっちは見送りに来てやってんのによ」
シルヴァは、怒ってるようにも見えるが、目には曇りのない綺麗な色をしていた。
「ありがとう、シルヴァ」
「やめろ、照れ臭い。俺は、酒臭い方がいいんだよ!」
「シルヴァ、何言ってるかわからんし、すっべってんぞ」
「別に笑いを取ろうなんてしてねえよ。お前の心に刻もうと思ってな、言葉を」
「それっぽい雰囲気にして、誤魔化すなよ」
と二人は、いつも見ている憎ったらしい顔を見て、
「「ハハハハ!ハハハ!」」
笑った。
「おーい、チビスケここに転移網は用意したよー」
「ありがとうございます!それじゃあ、行きますよ」
「一日に一回は帰ってきてね」
それは、調査じゃないですよ、魔王様。
「なるべく、そうしますよ」
「俺は、帰ってこなくても構わねえぞー」
「またな、シルヴァ」
「おう」
シルヴァは、その時だけ不器用ながらも笑顔を作っていた。
「頑張ってねーー!!アシュ!」
そして、僕は転移網へと魔王様に満面の笑みで手を振り入っていった。
魔王様がくれたチャンスを逃すわけにはいかないんだ。
今から、阻止してやるんだ。
「魔王軍の雑兵A、地球侵略を阻止します!」




