酒場で聞き込み
「あっ、バレた?」
酒場の騒がしい雰囲気は、僕とリーシュが入ったことによって静まり返っていた。
「兄ちゃん……見ねえ顔だな。冒険者か?」
その、いかにも荒くれ者っぽい格好をした男がこちらを睨む。
それに対抗するようにリーシュは、威嚇するように睨みつけている。
「えっとですね、冒険の最中でしてここに寄りました」
「そうか、そうだったか」
男の顔が険しくなっていく。
これは、やばい。
「ようこそ!我が家へ!いやー、他所のもんと会えるなんて光栄だぜ!よろしくな」
その男は、僕に握手を求めるように手を差し出してくる。
「ありがとうございます」
と握手を交わした。
「ふぅーーー!!」
「新しい仲間が来たぞーーー!!」
「最高じゃねえか!」
酒場はさっきと一変し、賑わいが戻っていった。
あぶね……バレたかと思った。
マジで、殺されるかと思った。
「おい、どうだ俺たちのパーティと一緒に飲まないか?」
とさっきの男が僕の背中をポンポンと叩く。
この人たちなら、大丈夫そうだな……
優しそうだし。
リーシュは警戒を解いていいないっぽいけど。
「ご一緒、させていただきます。ほら、リーシュいくぞ」
「そう来なくっちゃ」
と、席へと連れていかれた。
そこには、まだ年若い僕と同じくらいの子たちが座っていた。
「ねえ、君名前はなんていうの?私はソフィア、よろしく」
最初に、話しかけてくれたのは魔法使いっぽい女の子だ。
リーシュが、猫の威嚇するような態度を取るので、肘でトントンしてやめさせる。
これは、本名使わないほうがいいよね。
今後のためにも、
「ラッシュです。よろしく」
「よろしくラッシュ、俺はちなみにカイだ。そんなに畏まらなくてもいいんだよ」
そう言ってくれたのは、剣士というかリーダーっぽい人だった。
「よろしく……カイ」
久しぶりに、人の温かさというものを味わった気がするな。
「そっちの嬢ちゃんは?」
さっきの男が、酒を飲みながら聞いてくる。
「マーナです。よろしく」
リーシュは、僕が偽名を使ったことを察してくれたようだ。
「俺は、ロックスだ。てな感じで、自己紹介はお終いだな。あとは、カイが説明を頼む」
「わかった。僕たちは、三人で、パーティを組んでるんだ、みんな幼馴染で」
って、さっきの荒くれ者は幼馴染ってことは同じ年齢!?
どう考えても、40過ぎたおっさんにしか見えないな。
「そして、このパーティの夢は冒険しながら魔王の首を討ち取ることだ!」
カイは、立ち上がり、意思を表明するかのように言った。
その言葉に、僕とリーシュは反応してしまった。
「どうしたの、二人ともそんな驚いた顔して」
ソフィアは、不思議そうに僕たちの顔を覗く。
「いや、別になんでもないよ」
それは、そうだよね。
やっぱり、そうなってしまうんだ。
魔王様は、別に悪い人じゃなくても魔王軍と言うのは、邪悪な存在なんだ。
この現実を、受け入れなければいけないんだ。
リーシュ、我慢してくれ。
「ところでさ、三人聞きたいことがあるんだけど」
「なんでも言えよ!」
荒くれ者のロックスは、腕の筋肉を見せつけながら言った。
「変なこと聞くんだけどさ、魔王軍って、どう思う?」
「うーん、魔王軍ね。僕たちの周りにもやっぱり魔王軍に被害を及ぼされたり、死んでしまった人も多いんだよね。世間一般、悪い奴らって言うのが常識だよな」
カイは、真剣に話している。
悪い奴らか……他の部隊が何をしてるか知らないけど、魔王城に攻めようとする姿は何度も見てきた。
「それは、そうよね。あなたたちは、どう思う?」
ここで、リーシュが興味津々で質問する。
「俺は、悪い奴らもいるし悪くない奴もいると思うぜ。だって魔王軍で生まれたから悪い奴って言われるのは可哀想じゃねえか」
ロックスは酒のせいで酔っているのか、カイとソフィアは『正気か?』とでも言いたげな顔をしている。
ロックス、お前の言ってることは正しいぞ。
「そうかもしれないわね。私は、いろんな人から魔王軍は悪だって言われて育てられてきたけど、そういう考え方もできるわね……」
ソフィアは一拍置いてからそう答えた。
「これは、難しい問題だな」
カイも頭を悩ませるようにそう言った。
でも、『世間一般で魔王軍は悪い奴ら』という印象が消えることは、今後ないだろうな。
「ごめん、変なこと聞いちゃって」
「いいよ、全然。私たちだって考えたいし」
ソフィアはそう言ってにっこりと笑った。
本当に、優しい人たちだな……
それから、僕たちは夜中まで、たわいのない会話をした。
リーシュが不機嫌そうな顔をしたので早めに抜けさせてもらったが。
「リーシュ、どうしたんだ?」
「……あの人たち、いい人だった」
「それはよかった。調査報告はどうする?」
「魔王軍の印象は、世間一般では悪いってことだな」
「そうだな、まあ帰るか」
そして、僕たちはカタティア王国を後にした。
「それにしても、パーティに勧誘された時は困ったな」
「ちょうど、私たちと同じ年齢くらいだからじゃないかしら」
「それもあるけど、まあ、バレなくてよかったな正体」
「そうね。でも、あの人たち魔王討伐とか言ってたけど」
リーシュは顔を顰めながらそう言った。
「まあ、その時に魔王軍でしたって種明かしすればいいじゃん」
「アシュは本当にお気楽ね。魔王軍討伐を企んでいるのは、あのパーティだけじゃない。国そのものがそう考えている場合もあるのよ」
「まあ、その時はその時で考えよう」
「ふっ、そうよね」
リーシュは、小さく微笑んだ。




