やっぱり僕は雑兵Aなのかもしれない
「おい、雑兵A。お前から俺様に挑んでくるなんて、面白いことしてくれるじゃねえか」
「この雑兵Aがお前に勝つために勝負を挑んだんだよ!」
Z部隊の訓練の終わりに行われる、対人試合で僕は魔人に喧嘩を売ったのだ。
僕は、魔法も習得したし、基礎体力だって他のやつよりあることはわかっている。
だから、あいつらに雑兵Aというあだ名をなくしてもらおうじゃないか。
「結果は、わかりきっているがやってもいいぞ」
その魔人は、偉そうにそう言った。
「じゃあ、始めようよ」
「おう、お前なんかボッコボッコにしてやんよ」
そして、僕たちは睨み合いながらも位置についた。
対人といっても、試合場を借りるほどでもない。だから、こうやってすぐ始まってしまうのだ。
今まで、僕は誰とも組んだことがなかったから、やったことないけど。
「おい、雑兵Aがあいつと戦うらしいぞ!」
「かわいそうだな……ただ負けるだけなのによ!」
僕たちの試合を見物するために、他の魔人たちも集まってくる。
「使っていいのは、木剣と魔法だけだからな」
そして、僕たちは木剣を構える。
「では、始めるぞ。よーいスタート!」
勝てない相手ではない。
Z部隊にいる以上、そこまで強くないはずだ。
僕が雑兵Aなら、相手はモブAだ。
「先手、必勝だぜ!」
相手の魔人が僕の方へと真っ直ぐ突っ込んでくる。
突っ込んでくる速さも、軌道も読める。
シルヴァとは、比べ物にならないな。
「遅いな」
僕は、そう言って魔人の剣を軽々と避ける。
「なんだと!?雑兵Aのくせに!」
Z部隊のバッジで、戦闘能力を測れたら僕だって上位に組み込めただろうに。
まあ、でもこいつの剣を見た限り、負ける道理がないな。
それから、僕は相手からの攻撃をひたすら避けるだけだった。
「ちょこまかと逃げやがって!魔法を使わせてもらうぞ!」
そして、炎の球をこちらへと投げてくる。
その炎の速度も、威力も、大したものじゃないな。
「なんだよそれ、火の粉か?」
「くっそ!なんなんだよ!」
魔人は、慌てた様子で怒鳴り散らしている。
「もう、こっちから攻撃していいかな?」
そうして、僕は右手を前に出し構えた。
いけるぞ……あんなやつ蹴散らしてやる。
集中するんだ!前のように!
僕の右手に現れた大きな炎を、思いっきり放つ。
勝ったな。
あいつに、避けられるはずがない。
だがーー
その炎は、魔人に当たることはなく、軌道がずれ上空へと向かった。
「まさか、軌道を変えた!?」
「ハハハ!なかなか面白いじゃないか!俺の実力を舐めすぎたな!」
そして、魔人は再び魔法を繰り出そうとしている。
その魔法は、さっきよりも遥かに大きくなっていた。
そんな……実力を隠してたとでも言うのか。
さっきまで、火の粉を出してるだけだったのに。
「行くぜ!」
やばい、避けないと殺される。
その瞬間、その炎は僕が放った魔法の二倍ほどの速さでこちらにくる。
「くぅ!」
僕は精一杯の思いで横にそれた。だが、炎が大きかったせいか、わずかにかすってしまい、そのまま吹き飛ばされた。
「なんで……あんなやつに」
僕は、負けたのか?
力任せで、傲慢で弱そうなやつだったのに。
能力を隠してたんだ……明らかに、最初と最後で動きが別人だった。
「雑兵A、お前は場外に出たから負けだな。お前ら、勝ったぞーーー!!」
魔人がそう言うと、他の魔人も、
「「「「「うおーーーーーーー!!!」」」」」
と盛り上がりを見せていた。
ふっ……雑兵Aに勝てたのが、そんな嬉しいのかよ。
さっきまで、いなかったシルヴァがこちらへと近づいてくる。
「お疲れさん、負けちまったな」
「うるせえ……」
「そんなに向きになんなって。お前はこれからだろ、まだガキなんだから。俺からしたら、お前は一生ガキだがな」
「……」
「まあ、相手に一歩及ばずってところだな。俺は、トレーニングルームで待ってるから修行すんぞ」
そう言って、シルヴァは慰めながらここを出ていった。
よくわからないな……あいつは。
なにを考えているのかも。
それから、僕はあいつにも他の魔人にも対人を申し込んだ。
でも、あいつらに勝てることはまだ一度もない。
今も変わらず、雑兵Aだ。
ーーー
「魔王さん、あいつの力を抑える身にもなってくださいよ」
シルヴァは、めんどくさそうに言った。
「しょうがないでしょ、チビスケには目立たせるわけにはいかないんだから」
魔王様は、ため息をつくようにそう言った。
ここは、魔王様の玉座だ。
「それは、わかってるぜ……でも、あいつそのうちに俺を超えますよ」
「わかってる。それは、私が決めたんだから」
「今日だって、あいつの炎の球の軌道を変えるのも大変で……」
「まあ、最悪私も協力するよ」
「それは、助かるな」
「でも、チビスケには謝らないとね。わざと、負けさせるなんてことしたくないよー」
魔王様は、そう悲しげに言った。
「我慢するこったな。それはいいとして、今日は酒でも飲もうぜ」
「いいね!飲も!飲も!」
そう言って、二人は結局二日酔いになったらしい。




