誰だって魔法くらい使いたいよ
「じゃあ、今日は魔法について教えます」
シルヴァは、伊達メガネをかけながら先生風を演じているようだ。
僕が戦場に出て、早数日。今日もいつも通りの修行だ。
リーシュは、今日は魔王様と一緒に魔王城の周りを走って回るらしい。
頑張って生きて帰ってきてほしいね……
だから、欠席だ。
「なんでシルヴァは、今まで魔法を教えてくれなかったの?」
「シルヴァじゃありません。先生です。あと敬語を使いなさい」
めんどくさいなこいつ。
「先生、答えてくださいよ」
「『先生』が答えよお!まずだな、人族も魔人も、その他の種族も、生まれた時から魔力量が決まってるんです。でも、先生もお前もーー」
「先生!お前って誰ですか?生徒をそんな風に呼んでいいんですか?」
僕は、嫌味ったらしくシルヴァに言った。
「おっと……失礼。アシュ君と先生は、魔力量が不確定で未知数ってことなんです。つまり、努力をすれば、するほど魔力が増えるってことなんですよ」
シルヴァは、ふざけたような態度で言っているが、重要な情報を急に出してきた。
努力をすればするほど、魔力が増える。
つまり、それは無限に増やせるってことか。
これがいわゆる転生特典っていうやつなのだろうか。
知らんけど。
「だから、まずは魔力量を増やすことに専念しとけってことよ。はい、先生モードおしまい」
そう言って、自称先生はメガネをそこら辺にぽいっと捨てた。
「修行でやったろ。座禅を組むってのはな、魔力増加とか、魔力探知とか、そういう系を鍛えてくれるわけよ」
「ちゃんと、効果あったんだ」
「たりめえだろ。魔王様直々だぞ。まあ、まとめるとお前と俺は特殊な人間ってことよ」
シルヴァは、さっきの先生風にキメ顔で言った。
なるほどね、大まかなことは理解したけれども。
「それでだな、リーシュたんは元から魔力が多い子だからね。多いっていうか、多すぎるんだよね」
シルヴァのいつものだるそうな声ではなく、普通に喋っていた。
この人、当たり前のように『たん』って言ったよね。
普通に言ったよね。
これ、超えてはいけない一線だと思うんだけど。
「ねえ、先生ってロリコンなんですか?」
「そうですね……先生は、なんでもいける口です」
この男、気持ち悪い。
やっぱり、魔王様とチェンジで。
「まあ、それはいいとしてだな。本題に入ろうじゃねえか。魔法撃ってみるぞ」
ついに来たな……魔法。
ここで興奮するのは、ただの厨二病。
今は、冷静に行くぜ☆
「まず、上級魔法から行こう」
「えっ、いきなり上級!?」
「あのな、上級、中級っていうのは魔力の消費量の差だ。つまりだな、お前には、すでに上級を撃てる魔力が備わってるっていうわけよ」
「なるほど……」
「お前が魔力を操れるようになったのは、座禅を始めてからのことだ。まあ、簡単だ。とりあえず炎を撃つイメージでやってみろ」
シルヴァは、ちゃっちゃかと説明を済ませる。
炎撃つイメージって言ってもな、難しいな。
まあ、とりあえずやってみるか。
僕は、右手を前へと出してみる。
手に、なにかがくるような感覚がする。
「うわっ!」
その瞬間、手にポッと大きな炎がつく。
「放ってみろ。飛ばすような、感覚だ」
シルヴァの言う通りに、飛ばすようにーー
そして、その炎はトレーニングルームの壁に当たって弾けた。だが、壁には傷一つついていなかった。
「10点だ」
でも、すごい……これが魔法。
誰もが夢見る、叶えられないと思っていたものが、今まさにできた。
「じゃあ、もう一度撃ってみろ」
そして、僕は再び構える。
今度こそ、やってやる。
「そこで、座禅が生きるんだ。一瞬だけ集中してみろ」
シルヴァの言うことを、受け入れて実行してみることにする。
目を閉じて。
集中、集中、集中……
その時、僕の周りから、さっき手に感じたものと同じ感覚が集まってくる。
ーー『魔力』だ。
目を開けた瞬間、その炎は大きく膨れ上がり、爆発したかのように壁へとものすごい速さで衝突する。
「え?さっきと違う」
「だろ、俺の修行は生きてるんだぜ。足が痺れるだけじゃねえんだよ」
「すごい……」
「今ので40点ってところだな」
「くぅ……じゃあ、シルヴァがやってみろよ」
「ん? 俺か? 別に構わんが。壁は壊さないように調節するけど」
ハンモックで寝ていたシルヴァは、起き上がってこちらへと近づいてくる。
「壁は、壊さないように調節する」って……そんなこと、できるのか?
お腹を左手でかきながら、右手で小さな炎を出した。
「期待はずれじゃないか……って、あれ!?」
シルヴァが出した炎は、僕には見えない速度で壁を貫通してしまった。
「あっ……やっべ。壁、穴開いちゃったかも。今月は、酒とカジノで金がねえって言うのによお」
シルヴァは、ぶつぶつと言いながら壁を撫でていた。
マジかよ。
あんな、威力。
「俺の本職は剣士だが、魔法はこれくらいできないとな」
とシルヴァは、僕の背中をポンポンと叩きトレーニングルームを出ていった。
「でも、これは……新たな進歩だぞ。魔法、これさえあれば僕は――」
雑兵Aだって抜け出せるかもしれない!




