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灰の星  作者: ウルフルマル


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第3章 第8話 「巡礼者門 中編」

「ノア君」


名前を呼ばれた瞬間。


ノアの胸の奥で、何かが弾けた。


耳から入った声ではない。


頭の内側へ直接落とされたような、冷たい音だった。


鼓動が一つ遅れる。


視界が白く染まる。


王都の鐘が、遥か遠くで鳴っている。


それなのに、その振動は地面でも空気でもなく、ノア自身の骨を伝っていた。


『ノア』


もう一度。


今度はアルベリクの声ではなかった。


優しい声だった。


遠い昔。


まだ世界が灰に覆われていなかった頃のように、懐かしく聞こえる声。


ノアの大きな兎耳が震える。


「兄……ちゃん?」


返事をしかけた、その時。


肩へ強い熱が触れた。


「ノア」


ヴェスパーの声だった。


短く。


だが、はっきりとした声。


「俺を見ろ」


ノアは息を詰める。


目の前に、ヴェスパーがいる。


金色の髪。


炎を映した瞳。


肩へ置かれた手から、温かな熱が流れ込んでくる。


いや。


流れ込んでいるのではない。


ノアの中から引き出されかけていた熱を、元の場所へ押し戻している。


外へ奪われるはずだった鼓動が。


胸の奥へ帰ってくる。


「聞こえるか」


ヴェスパーが尋ねる。


ノアは震えながら頷いた。


「うん……」


「誰の声だ」


「兄ちゃんの……」


「違う」


ヴェスパーは断言した。


「お前の兄は、お前から返事を奪うために名前を呼ばない」


その言葉が。


ノアの胸に刺さった。


偽物の声が、もう一度囁く。


『ノア』


優しく。


寂しそうに。


返事を待つように。


ノアは唇を強く結んだ。


腰に下げた木彫りの狼を握る。


兄が残したもの。


その硬い感触を確かめながら。


ノアは小さく言った。


「違う」


偽物の声が揺らぐ。


「兄ちゃんじゃない」


鐘の音が途切れた。


ノアの身体から力が抜ける。


セレスが背中を支え、ゆっくりと地面へ座らせた。


「呼吸を続けてください」


「大丈夫です。ここにいます」


「胸の痛みは?」


「少し……」


「耳鳴りは?」


「まだする」


セレスはノアの首筋へ指を当てる。


脈は速い。


だが、止まりかけていた鼓動は戻っている。


ヴェスパーの手には、赤い光が残っていた。


炎ではない。


周囲を焼く熱でもない。


手のひらからノアの肩へ伸びる、ごく細い残火。


外へ広がろうとせず。


ノアの熱だけを包み込み、胸の奥へ帰している。


アルベリクは、その光を見つめていた。


柔らかな笑みは崩れていない。


しかし。


銀縁の眼鏡の奥で、彼の瞳だけが僅かに細められていた。


「興味深い」


アルベリクが呟く。


「他者の熱へ触れながら、混ぜ合わせない」


「奪わず」


「支配せず」


「本人の中へ戻す」


ヴェスパーが彼を睨む。


「残火を知っているのか」


「名前だけは」


アルベリクは穏やかに答えた。


「黒い翼の研究記録に、何度か登場していましたから」


アステルの顔が強張る。


レイラの手が戦斧を握り直した。


「王都評議会が、黒い翼の記録を持ってるのか」


「王都には、多くの記録が集まります」


「答えになっていない」


「答えは、受け取る側の理解によって形を変えるものです」


「都合のいい言い方だな」


レイラが吐き捨てる。


アルベリクは怒らない。


むしろ、彼女の反応すら観察しているようだった。


イリスは地面の灰へ描かれた地図を足で崩した。


もう遅い。


アルベリクは全て見ている。


それでも。


これ以上残しておく理由はない。


「いつから聞いていたの?」


イリスが尋ねる。


「どこから、という方が正確でしょうか」


アルベリクは人差し指を立てる。


そして。


ミレイアを指した。


彼女の胸元では、埋め込まれた星環結晶が青白く明滅している。


「ミレイア司祭が接続を弱めた時からです」


「弱めたのに?」


「光を暗くすれば、消えたように見える」


「ですが、繋がっている限り道は残っています」


ミレイアが俯く。


「申し訳……ありません」


「謝るな」


ヴェスパーが言った。


「あなた方の作戦は、全て王都へ伝わりました」


ミレイアは続ける。


「第七星渠も」


「検問所の構造も」


「残火を使うことも」


「私が……伝えました」


「自分で伝えたわけじゃない」


ノアが苦しそうに言う。


セレスに支えられながらも、アルベリクを見ている。


「取られたんだ」


「ミレイアの音から」


アルベリクの視線が、再びノアへ向く。


ヴェスパーはその間へ立った。


「次に名前を呼べば」


残火が指先へ灯る。


「今度は声だけでは済ませない」


周囲の温度が上がる。


王都騎士たちは動かない。


だが、十九人の手が同時に剣の柄へ置かれた。


同じ角度。


同じ速さ。


まるで鏡に映した一人の騎士が、十九に分かれたように。


アルベリクは片手を上げた。


それだけで、騎士たちの手が止まる。


「誤解なさらないでください」


「私はノア君を登録しようとしたわけではありません」


「なら、何をした」


「門の機能を少しだけお見せしたのです」


レイラが一歩踏み出す。


「子どもの頭に死んだ家族の声を流し込むのが、機能の説明か?」


「死者とは限りません」


その一言で。


空気が凍った。


ノアの顔が上がる。


「……何?」


アルベリクは彼を見た。


「君が兄と呼ぶ人物が、本当に死亡したと確認されているのですか」


ノアの指が、木彫りの狼へ食い込む。


「やめろ」


ヴェスパーの声が低くなる。


「可能性をお伝えしただけです」


「今、それを言う目的は何だ」


「希望を持っていただくためです」


「希望は餌じゃない」


ヴェスパーの周囲で、空気が揺らぐ。


景色が歪む。


蜃気楼。


アルベリクの右側に立っていたヴェスパーの姿が薄れ。


次の瞬間には、左側へ現れている。


騎士たちの剣が一斉に抜かれた。


銀の刃が夜へ並ぶ。


レイラも戦斧を構える。


アステルの周囲で地面の石が浮き上がり。


イリスの袖口から細い鋼線が伸びる。


セレスはノアを庇いながら、空いている手で医療用の短刀を抜いた。


戦いが始まる。


誰もが、そう思った。


しかし。


アルベリクは動かなかった。


ヴェスパーの剣が。


彼の喉元で止まっている。


切っ先と皮膚の間は、指一本分。


アルベリクは瞬きすらしない。


「なぜ避けない」


ヴェスパーが尋ねる。


「あなたは斬らないからです」


「試すか」


「斬れば、ここにいる騎士たちはあなた方を襲う」


「それだけではありません」


アルベリクの声は穏やかなままだった。


「明朝、巡礼者門へ集まる三百二十七名が、危険人物の協力者として拘束されます」


ヴェスパーの瞳が揺れる。


「関係ない人間だ」


「王都の安全を守るためです」


「俺たちと、あの人たちに何の関係がある」


「同じ時間に、同じ門を通ろうとした」


「それだけで十分です」


レイラが歯を食いしばる。


「人質にする気か」


「人質ではありません」


「保護対象です」


「言葉を変えれば正しくなると思ってるのか」


「正しさとは、共有された認識です」


アルベリクは答える。


「多くの者が保護だと認めれば、それは保護となる」


「一人が拘束だと叫んでも?」


ヴェスパーが問う。


「星環は、多数の意思を記録します」


「多数が安心するために、一人の自由を制限する」


「王都では、それを必要な選択と呼びます」


「その一人が消えた後も?」


「……」


「記録だけ残して」


「王都の意思として使うのか」


初めて。


アルベリクの笑みから、温度が消えた。


ほんの一瞬だった。


だがヴェスパーは見逃さなかった。


「ローデン・ヴァイス」


ヴェスパーは、その名を口にする。


「彼も多数のために消されたのか」


「彼は失踪しました」


「王都が消したんじゃないのか」


「証拠はありますか」


「あるから、俺たちをここまで来させた」


ヴェスパーは切っ先を下げない。


「第七星渠を知っている俺たちを」


「止められるのに止めない」


「お前は俺たちに、そこへ行かせたい」


アルベリクは沈黙した。


焚き火の炎が揺れる。


彼の眼鏡へ、赤い火が映る。


「素晴らしい」


やがて。


監察長は再び微笑んだ。


「オルディス研究官が、あなたへ関心を持つ理由が分かりました」


その名に。


ヴェスパーの熱が大きく揺れた。


アステルの呼吸が止まる。


「オルディスは王都にいるのか」


「さて」


「答えろ」


「彼がどこにいるかを知ることと」


「彼が何をしているかを知ること」


「あなたは、どちらを望みますか」


「両方だ」


「欲深い」


「捨てたくないだけだ」


ヴェスパーの返答に。


アルベリクは僅かに首を傾ける。


まるで、理解できない言葉を聞いたように。


「誰も捨てない」


「美しい言葉です」


「ですが」


「一人を救うために十人が死ぬ時も、同じことを言えますか」


「選ばないことは、選択を放棄することです」


「全てを救おうとする者は、最後に全てを失う」


ヴェスパーは答えなかった。


答えられなかったのではない。


その問いを。


軽い言葉で否定してはいけないと思ったからだ。


一人を救うために十人が死ぬ。


それでも一人を救うと言えば。


十人を捨てることになる。


十人のために一人を差し出せば。


その一人を捨てることになる。


誰も捨てない。


その願いは。


時として、誰よりも残酷な迷いを生む。


「迷っていますね」


アルベリクが言う。


「それでいい」


ヴェスパーは答えた。


「誰かの命を数える時に、迷わない方がおかしい」


「王都は迷いを減らします」


「星環が、多くの意思を集め」


「最も犠牲の少ない答えを選ぶ」


「だから間違えない?」


「少なくとも、一人の感情より公平です」


「消した人間の声まで使って決めることが?」


アルベリクは目を細める。


「死者にも、王都を守る責任があります」


ノアの兎耳が伏せられた。


「死んでも?」


「この世界に生まれた以上」


「人は何かを残します」


「技術」


「知識」


「記憶」


「そして意思」


アルベリクは王都を振り返る。


白銀の城壁。


夜空へ伸びる星脈中枢塔。


「王都は、誰の人生も無駄にしない」


「亡くなった後も」


「追放された後も」


「その意思は都市の一部として生き続ける」


「本人が望んでいなくてもか」


ヴェスパーが尋ねる。


「生きている者は、自分の命を完全には所有していません」


「家族に」


「街に」


「国に」


「未来に」


「誰もが少しずつ属している」


「だから使っていい?」


「だから無駄にしてはならない」


違う言葉。


違う理屈。


だが。


ヴェスパーは、海底観測炉で聞いたオルディスの思想を思い出していた。


一人では世界を救えない。


だから繋ぐ。


統一する。


同じ方向へ向かわせる。


誰も捨てないために。


個人を、全体の一部へ変える。


オルディスとアルベリク。


方法も立場も違う。


しかし、その思想の奥には同じものがある。


一人の意思より。


全体の継続を優先する考え。


「お前たちは」


ヴェスパーが言う。


「誰も無駄にしないんじゃない」


「誰も逃がさないんだ」


アルベリクの笑みが止まった。


完全な無表情。


それは一瞬だけだった。


すぐに、元の柔らかな顔へ戻る。


「明日」


アルベリクは一歩下がった。


ヴェスパーの剣先から離れる。


「予定通り、巡礼者門へお越しください」


「第七星渠へ入るつもりなら」


「止めないのか」


「止める必要がありません」


「なぜ」


「ローデン・ヴァイスも、同じ道を選びました」


ミレイアが顔を上げる。


「監察長……」


「そして彼は、戻ってこなかった」


アルベリクは灰の上へ目を落とす。


先ほどイリスが崩した地図。


線は消えている。


それでも彼には。


道が見えているようだった。


「第七星渠は、王都へ入るための秘密の道ではありません」


「何だ」


「王都が」


アルベリクは言葉を区切る。


「不要と判断したものを流すための道です」


誰も声を出さなかった。


「どういう意味だ」


「ご自身でお確かめください」


アルベリクはミレイアを見る。


「司祭」


彼女の身体が強張る。


「夜明けまで、ここへ残ることを許可します」


「……処罰は」


「ありません」


ミレイアの瞳に、僅かな安堵が浮かぶ。


だが。


アルベリクは続けた。


「必要な情報は、すでに全て受け取りましたから」


安堵が消える。


「それに」


彼は銀色の仮面へ視線を向けた。


「あなたが、どちらを選ぶのか」


「私も興味があります」


「私に……選択を?」


「もちろんです」


「王都は、全ての市民へ選択肢を与えます」


「帰還するか」


「夜明けに帰還するか」


ミレイアの指が震えた。


二つの道。


行き先は同じ。


アルベリクは穏やかに微笑む。


「それでは、明日」


彼が背を向ける。


十九人の騎士たちも、一斉に剣を収めた。


同じ音が重なる。


一人では出せないほど、整った音。


歩き出したアルベリクの後ろを、騎士たちが追う。


その時。


ノアが声を上げた。


「待って」


アルベリクが足を止める。


振り返らない。


ノアはセレスに支えられながら立ち上がった。


「あなたの中の音」


風が吹く。


焚き火の火の粉が舞う。


「一つは、あなたの音じゃない」


アルベリクの肩が僅かに動いた。


「何の音かな」


「分からない」


ノアは耳を澄ませる。


苦痛に顔を歪めながら。


それでも聞くことをやめない。


「でも」


「生きてる人の音じゃない」


沈黙。


アルベリクは、ゆっくりと顔だけを振り返った。


「では」


眼鏡の奥。


彼の瞳に、一瞬だけ青白い輪が浮かぶ。


「死んでいる者の音でしょうか」


王都の鐘が鳴った。


その響きと重なるように。


アルベリクの中から。


数え切れないほどの声が笑った。


ノアは両耳を塞ぎ、膝をつく。


「ノア!」


セレスが抱き留める。


ヴェスパーが振り返った時には。


アルベリクと騎士たちは、暗闇の向こうへ消えていた。


夜明けまで。


誰も眠らなかった。


ノアは野営用の寝具へ横たわり。


セレスが隣で脈を測り続けている。


耳鳴りは残っている。


それでも、意識ははっきりしていた。


「兄の声は、もう聞こえますか」


セレスが尋ねる。


ノアは首を横に振る。


「消えた」


「そうですか」


「でも」


木彫りの狼を胸元で握る。


「本物だったらって、思っちゃった」


セレスは何も否定しなかった。


本物ではない。


忘れなさい。


そう言うことは簡単だった。


だが、ノアが一瞬でも抱いた希望を。


間違いだと切り捨てることはできない。


「思ってもいいのです」


セレスが言う。


「信じたい気持ちは、弱さではありません」


「でも、返事しそうになった」


「返事をしませんでした」


「ヴェスパーが止めたから」


「それでも、最後に決めたのはノアです」


ノアは木彫りの狼を見る。


「僕の声だった?」


「はい」


「ちゃんと?」


「あなた自身の声でした」


ノアの耳が、僅かに持ち上がった。


少し離れた焚き火の前。


ヴェスパーたちは輪になって座っていた。


中央にはミレイアがいる。


銀色の仮面には、先ほど入った亀裂が残っていた。


右目の近くから。


頬に向かって細く伸びている。


「アルベリクは、第七星渠で何が起きるか知ってる」


イリスが言う。


「しかも、私たちを止める気がない」


「罠だな」


レイラは即答した。


「その可能性が高い」


「なら、行かないか?」


「行かなければ白銀門か巡礼者門で登録される」


イリスは地図を描き直しながら答える。


「街道を戻っても追跡される」


「灰都への支援を止められる可能性もある」


「王都に入らず、ローデンの記録も調べられない」


「進んでも罠」


「戻っても包囲」


レイラが顔をしかめる。


「随分歓迎されてるな」


アステルはミレイアを見る。


「第七星渠へ流される“不要なもの”とは何ですか」


「分かりません」


ミレイアは小さく答えた。


「教会内部でも、第七星渠は封鎖区画です」


「司祭でも入れない?」


「星環教会の上位司祭と、評議会の監察官だけが通行できます」


「あなたは第一巡礼司祭だったはず」


イリスが尋ねる。


「巡礼司祭は、外から人を迎える役目です」


「王都の奥を見る権限はありません」


「迎える者には見せないのか」


ヴェスパーが呟く。


王都の美しさ。


整った街並み。


平等な配給。


無料の治療。


安全な暮らし。


巡礼者が最初に見るのは、希望だけなのだろう。


その希望の下に。


何が埋められているかを知らないまま。


「アルベリクは何者なんだ」


レイラが尋ねる。


「王都評議会直属監察長」


ミレイアが答える。


「評議会と教会、その両方を監査する権限を持ちます」


「星環に繋がっているのか」


「登録はされています」


「普通の登録?」


「……分かりません」


ミレイアは亀裂の入った仮面へ触れた。


「星環の中では、通常、互いの存在を僅かに感じます」


「騎士」


「司祭」


「一般市民」


「接続の深さは違っても」


「誰かが、そこにいると分かる」


「でもアルベリクは?」


ノアが寝具の上から尋ねた。


ミレイアは彼を見る。


「感じたことがありません」


「星環を通じて声は届く」


「命令も届く」


「彼は私たちの記憶を読む」


「ですが」


「彼自身の熱紋を、誰も見たことがない」


イリスが眉をひそめる。


「星環から情報を取るのに、自分は見せない?」


「はい」


「随分公平だね」


「彼は例外です」


ミレイアの声には。


恐怖と共に、教え込まれた敬意が残っていた。


「王都では、彼を“空席の監察官”と呼ぶ者もいます」


「空席?」


「星環の中に、彼の席がないから」


アステルが呟く。


「席がないのに」


「星環の声を使える?」


「はい」


イリスは考え込む。


「繋がっていないんじゃない」


「接続先が違う可能性がある」


「どういうことだ」


レイラが尋ねる。


「私たちは星環の端に繋がる」


「でも彼は」


イリスが王都中央の塔を見る。


「中心に直接繋がってるのかもしれない」


星脈中枢。


青白い光を放つ巨大な塔。


もしアルベリクが。


市民たちと同じ輪へ入っているのではなく。


輪そのものへ繋がっているのだとしたら。


彼の中から聞こえた無数の声にも、説明がつく。


「ローデンは、アルベリクの前任だと言っていたな」


ヴェスパーが言う。


「はい」


ミレイアは頷く。


「ローデン監察官が失踪した後」


「アルベリク様が任命されました」


「二人は知り合いだったのか」


「同じ評議会監査局に所属していました」


「仲は?」


「分かりません」


「だがローデンが消えて、アルベリクがその席に座った」


レイラが言う。


「怪しすぎるだろ」


「簡単すぎる」


イリスは首を横に振った。


「分かりやすい犯人を前に置いて」


「その奥を見せないためかもしれない」


「アルベリク本人が仕組みを作ったとは限らない」


「だが利用はしてる」


ヴェスパーが言った。


「それは間違いない」


ミレイアが俯く。


「私を」


その声は、ほとんど聞こえなかった。


「何だ」


ヴェスパーが尋ねる。


「私を置いていってください」


全員が彼女を見る。


「第七星渠へ入る時」


「私は同行しません」


「なぜ」


「私がいる限り、全ての情報が星環へ漏れます」


「接続を切る方法は」


セレスが尋ねる。


「ありません」


「結晶を取り除けば?」


ミレイアの手が胸元へ触れる。


「一つではありません」


「胸部」


「首筋」


「脊椎」


「頭部」


「全部で十二個」


アステルが息を呑む。


セレスの表情が険しくなる。


「頭部にも?」


「はい」


「どの位置ですか」


ミレイアは仮面の額へ触れた。


「ここから」


指を後頭部へ滑らせる。


「ここまで」


「神経に沿って埋め込まれています」


「無理に外せば」


「死亡します」


セレスは否定しなかった。


診察していない状態でも。


その危険性は明らかだった。


「だから置いていけ?」


ヴェスパーが尋ねる。


「はい」


「その後は」


「王都へ戻ります」


「調律される」


「……はい」


「嫌なんだろ」


ミレイアの指が止まる。


「個人の感情より」


「答えてくれ」


ヴェスパーの声は強くない。


だが、逃げることを許さなかった。


「嫌なのか」


ミレイアの呼吸が浅くなる。


銀色の仮面。


教会の顔。


感情を隠し。


星環の声を正しく伝えるためのもの。


その仮面の下で。


彼女は長い間。


自分の言葉を失ってきた。


「嫌です」


初めて。


はっきりと答えた。


「戻りたくありません」


声が震える。


「怖い」


「また、何かを削られる」


「今度こそ」


「何が嫌だったのかも」


「誰を助けたかったのかも」


「全部、分からなくなる」


亀裂の奥から。


涙が流れる。


「でも」


「私が皆さんと行けば」


「星環に道を教えることになる」


「だから」


「置いていってください」


誰もすぐには答えなかった。


ミレイアの願いは。


自分を見捨ててほしいというものだった。


仲間を守るために。


自分を差し出す。


それは、犠牲を強制されてきた者が。


自ら選んだように見える、最後の選択だった。


「駄目だ」


ヴェスパーが言った。


ミレイアが顔を上げる。


「あなたは」


「また、誰も捨てないと?」


「ああ」


「理想だけでは」


「理想じゃない」


ヴェスパーは彼女の前へ膝をついた。


「俺の都合だ」


「え……」


「俺が、後悔したくない」


「一人を置いて進んで」


「仕方がなかったと、自分に言い聞かせたくない」


「だから方法を探す」


「それは」


「正しい選択ではありません」


「正しいかどうかは分からない」


「ただ」


ヴェスパーはミレイアの仮面を見る。


「自分で選べと言った俺が」


「お前の選択肢を二つに減らすわけにはいかない」


戻って調律されるか。


残って捕まるか。


その二つだけではない。


同行する。


逃げる。


接続を隠す。


別の道を作る。


失敗するかもしれない。


それでも。


最初から道を閉ざしてはいけない。


「星環との道を、残火で囲う」


ヴェスパーが言う。


セレスが顔を上げる。


「ミレイアさんの接続だけを隠すのですか」


「ああ」


「エドの星環を乱した時とは逆に」


「切らずに」


「向こうから見えなくする」


イリスが端末を取り出した。


「接続自体は残して」


「信号だけを内側へ戻す?」


「できるかもしれない」


ヴェスパーは自分の手を見る。


「ノアの名前を呼ばれた時」


「外へ引かれた熱を戻せた」


「同じように」


「ミレイアから流れ出る情報を、本人の中へ戻す」


「彼女の身体への負担は?」


セレスが尋ねる。


「分からない」


「試すなら、今です」


ミレイアが言った。


「門の中で初めて使うより」


セレスは少し迷い。


やがて頷いた。


「異常を感じたら、すぐに止めます」


「はい」


ミレイアは仮面を外そうと手をかけた。


だが途中で止まる。


指が震えている。


「外さなくてもいい」


ヴェスパーが言う。


「ですが、結晶の位置を」


「見える範囲で十分だ」


「怖いなら、無理に見せる必要はない」


ミレイアはしばらく黙っていた。


そして。


ゆっくりと留め具を外した。


銀色の仮面が外れる。


初めて見る素顔。


白銀に近い淡い髪。


整った顔立ち。


だが。


額から右頬にかけて、青白い結晶の筋が皮膚の下を走っていた。


右目の周囲には、細い輪のような刻印。


首筋にも。


脈を囲むように結晶が埋め込まれている。


美しい装飾ではない。


彼女を星環へ繋ぎ止める鎖。


レイラが僅かに顔を歪める。


アステルは自分の身体に残った実験痕へ、無意識に手を置いた。


ミレイアは視線を落とす。


「見苦しいでしょうか」


「どこがだ」


レイラが即答した。


「こんなものを埋めた連中が見苦しい」


ミレイアは驚いたように彼女を見る。


レイラは気まずそうに顔を逸らした。


「早く始めろ」


ヴェスパーはミレイアの前へ座る。


「手を借りる」


彼女が右手を差し出す。


冷たい。


体温が低いわけではない。


熱が身体の中へ留まらず。


星環へ流れ続けている。


「目を閉じて」


ミレイアは従った。


ヴェスパーも呼吸を整える。


周囲の熱が見える。


レイラ。


大きく、荒々しい火。


イリス。


細く枝分かれし、絶えず動く熱。


セレス。


一定の間隔で静かに巡る熱。


アステル。


中心へ引かれながらも、潰れずに灯る青い火。


ノア。


小さく速く。


遠くの音へ反応する繊細な熱。


そして。


ミレイア。


彼女の熱は、無数の細い糸に分かれていた。


胸。


首。


背中。


頭部。


十二の結晶から外へ伸び。


王都の方向へ吸い込まれている。


一本へ触れる。


その瞬間。


ヴェスパーの頭へ、無数の声が流れ込んだ。


『巡礼司祭ミレイア・ノルン』


『規律を遵守せよ』


『個を抑制せよ』


『迷いは苦痛を生む』


『選択は対立を生む』


『星環へ委ねよ』


ヴェスパーの呼吸が乱れる。


声だけではない。


記憶が見えた。


白い部屋。


まだ幼いミレイア。


椅子へ固定されている。


泣きながら、誰かの名前を呼んでいる。


頭部へ結晶が差し込まれる。


鐘が鳴る。


少女の悲鳴が。


やがて祈りの言葉へ変わっていく。


『私は星環の一部です』


『私は皆と共にあります』


『私の迷いは不要です』


「ヴェスパーさん!」


セレスの声。


意識が戻る。


ヴェスパーの手が強く震えていた。


鼻から血が一筋流れている。


「止めます」


「まだだ」


「負担が大きすぎます」


「まだ、見えてない」


「何が」


「ミレイアの熱だ」


声と記憶。


命令と痛み。


その全てに覆われ。


彼女自身の火が見えない。


だが。


消えているわけではない。


ノアの時と同じだ。


奪われようとしても。


本人の中へ、必ず残っている。


ヴェスパーは外へ伸びる糸を切ろうとしなかった。


一本ずつ。


辿る。


逆方向へ。


王都から。


結晶へ。


結晶から、神経へ。


神経から、心臓へ。


そして。


その奥。


星環の光に覆われた、小さな熱を見つけた。


白い部屋で泣いていた少女。


騎士たちを救うために、鐘を鳴らさなかった司祭。


ヴェスパーへ、輪を壊してほしいと願った人。


「いた」


ヴェスパーが呟く。


残火が揺れる。


外へ燃え広がるのではなく。


ミレイアの中心へ向かって収束する。


「戻れ」


命令ではない。


願いでもない。


ただ。


彼女自身の熱へ向けた言葉。


「お前の中へ」


十二本の糸が赤く染まる。


青白い光が抵抗する。


星環から声が押し寄せる。


『接続異常』


『熱紋流出停止』


『対象を確認』


『巡礼司祭――』


「名前を呼ぶな」


ヴェスパーの残火が強くなる。


炎は上がらない。


だが、周囲の景色が歪む。


ミレイアの熱が。


外へ流れることをやめた。


切れてはいない。


十二本の道は残っている。


ただ。


王都へ向かっていた流れが。


全て本人へ帰ってくる。


ミレイアの胸が大きく上下した。


「熱い……」


「痛いか」


「違います」


目を閉じたまま。


彼女の頬から涙が流れる。


「私の身体が」


「こんなに温かかったことを」


「忘れていました」


ヴェスパーは手を離した。


同時に。


身体が大きく傾く。


レイラが腕を掴む。


「おい!」


「大丈夫だ」


「血を流しながら言うな」


セレスがすぐにヴェスパーを座らせる。


「頭痛は?」


「少し」


「吐き気」


「ない」


「視界は」


「見えてる」


「指は何本ですか」


「三本」


「二本です」


「……少し見えてない」


「横になってください」


ミレイアは自分の胸へ手を置いていた。


星環結晶の光は消えていない。


それでも。


先ほどまで王都と同じ間隔で点滅していた光が。


今は彼女の心臓に合わせて明滅している。


「聞こえません」


ミレイアが呟く。


「何が」


アステルが尋ねる。


「星環の声が」


「完全に?」


「遠くにあります」


「でも、私の中には入ってこない」


「向こうから見えてるか」


イリスが端末を確認する。


「星脈反応は残ってる」


「切断扱いにはなってない」


「でも情報量が急に減った」


「成功した?」


ノアが尋ねる。


ヴェスパーは寝具へ横になりながら答えた。


「一人なら」


「一人なら?」


「明日は六人とミレイア」


レイラが眉をひそめる。


「七人分を同時にやる気か」


「そのつもりだ」


「今、一人で倒れかけたんだぞ」


「同じ方法は使わない」


ヴェスパーは目を閉じる。


「今は、ミレイアの熱を探すところから始めた」


「明日は最初から覚えておけばいい」


「全員の熱を」


ノアが身体を起こす。


「僕が教える」


「音がずれたら」


「すぐに」


セレスは反対しようとした。


だが。


ヴェスパーとノアの顔を見て。


言葉を止める。


「条件があります」


「何だ」


「限界を超える前に止めること」


「門の中でもです」


「でも」


「失敗したら、私たちは拘束されるでしょう」


「それでも」


セレスは全員を見た。


「生きていれば、次の方法を探せます」


「死んだら終わりです」


レイラが頷く。


「今回はセレスが正しい」


「今回は、とは何ですか」


「いつも正しい」


「なら結構です」


イリスが小さく笑う。


緊張に満ちていた空気が、ほんの僅かに和らいだ。


ミレイアは外した仮面を見つめている。


「明日」


彼女が言う。


「私は、皆さんと行きます」


ヴェスパーが目を開く。


「決めたのか」


「はい」


「戻らない?」


「戻るかもしれません」


ミレイアは亀裂の入った仮面を持ち上げる。


「でも」


「命令されたからではありません」


「私が戻ると決めた時だけ」


彼女は仮面を着け直した。


亀裂から右目だけが見えている。


「明日は、私が巡礼者門の案内をします」


「そして」


「真名確認の前に、第七星渠を開きます」


「開けられるのか」


「司祭権限だけでは不可能です」


「では?」


ミレイアは杖のない右手を見た。


「アルベリク監察長が」


「今夜、私の権限を書き換えました」


イリスの表情が変わる。


「いつ」


「彼が私へ帰還を命じた時です」


「私の星環へ」


「第七星渠の開門権限が追加されています」


誰も言葉を発しなかった。


偶然ではない。


アルベリクは。


彼らの計画を知った後。


わざわざ道を開ける権限を、ミレイアへ与えた。


「完全に誘われてるな」


レイラが呟く。


「ああ」


ヴェスパーは王都を見る。


「それでも行く」


「なぜですか」


ミレイアが尋ねる。


「ローデンが何を見たのか」


「アルベリクが何を見せたいのか」


「両方確かめる」


「罠だと分かっていても?」


「罠の形が見えているなら」


ヴェスパーはゆっくりと身体を起こす。


「踏む場所は選べる」


夜が明けた。


王都の東から日が昇り。


白銀の城壁を、淡い金色へ染めていく。


巡礼者門へ続く街道には。


すでに長い列ができていた。


荷車を引く人間。


杖をついた老人。


幼い子どもを抱く獣人の母親。


大きな角を持つ亜人。


傷だらけの傭兵。


故郷を失った難民。


病人を乗せた担架。


誰もが。


王都の中にある何かを求めている。


安全。


食料。


仕事。


治療。


家族。


新しい人生。


列に並ぶ人々の首には、木札が下げられていた。


自分の名前を書いたもの。


亡くなった者の名前を書いたもの。


文字を知らない者は、絵や印を刻んでいる。


「すごい人数……」


アステルが呟く。


「これで一日分?」


レイラが尋ねる。


ミレイアは頷いた。


「巡礼者門は、毎日夜明けから正午まで開かれます」


「通常は千人前後が入城します」


「全員が登録を?」


「はい」


ノアは耳を伏せていた。


「みんな、嬉しそう」


列の先では。


白い衣を着た教会の案内人が、笑顔で人々へ声を掛けている。


温かい食事が用意されています。


病人は優先して治療を受けられます。


子どもには教育が与えられます。


仕事のない者には役割があります。


誰も一人にはなりません。


王都は、あなたを歓迎します。


嘘ではないのだろう。


王都へ入れば。


本当に食事が得られる。


治療も受けられる。


安全な寝床も与えられる。


だからこそ。


星環へ名前を渡すことを。


代償だと感じない者もいる。


「救われる人もいる」


セレスが言った。


「はい」


ミレイアは答える。


「王都に来なければ、亡くなる人もいます」


「星環が全て悪いわけじゃない」


アステルが呟く。


「多くの命を救っています」


ミレイアの言葉に、迷いはなかった。


「だから」


「止めればいいという話ではありません」


ヴェスパーは列を見る。


母親に抱かれた子どもが笑っている。


老人が、城壁を見上げながら涙を流している。


遠くから辿り着いた者たちが。


ようやく救われると信じている。


「壊せば終わるなら、簡単だった」


ヴェスパーが言う。


「必要とされているから」


「変えるのが難しい」


その時。


巨大な鐘が鳴った。


城壁全体が振動する。


巡礼者たちが一斉に顔を上げる。


白銀の門に刻まれた星の紋章が。


青白く輝き始めた。


案内人たちが両手を胸元で組む。


「星の輪は、全ての者を迎えます」


一人が唱える。


巡礼者たちも続く。


「星の輪は、全ての者を迎えます」


「名は、あなたが存在した証」


「名は、私が存在する証」


「名を捧げ」


「輪へ帰り」


「私たちは、独りではなくなる」


声が重なる。


数百人。


同じ言葉。


同じ祈り。


だが。


その声は、騎士たちのように完全には揃っていない。


早い者。


遅れる者。


声の小さい者。


意味を理解していない子ども。


涙で言葉に詰まる者。


まだ。


一人ひとりの声だった。


ヴェスパーは胸へ手を当てる。


自分の熱を確かめる。


その後。


仲間たちを見る。


レイラ。


イリス。


セレス。


アステル。


ノア。


ミレイア。


「手を繋ぐ必要はない」


ヴェスパーが言う。


「ただ、離れすぎるな」


「どのくらい?」


イリスが尋ねる。


「俺から十歩以内」


「熱が乱れたら?」


「ノアが教える」


ノアは緊張しながらも頷く。


「名前を呼ばれても」


ミレイアが全員へ言う。


「絶対に返事をしないでください」


レイラが戦斧の柄へ触れる。


「抜くなよ」


ヴェスパーが言う。


「向こう次第だ」


「昨日セレスと約束した」


「覚えてたのか」


「全部聞いてた」


セレスがレイラを見る。


「約束は守ってください」


「分かってる」


レイラは大きく息を吐く。


「でも、斧を奪おうとしたら殴る」


「素手でも駄目です」


「面倒だな、王都は」


列が動き始める。


白銀の城壁の下。


巡礼者門が、ゆっくりと開いた。


扉の奥には。


白い光に満たされた長い通路が続いている。


地面。


壁。


天井。


全てに細い星脈線が走っている。


その形は。


巨大な生き物の喉のようにも見えた。


人々が一人ずつ。


その中へ飲み込まれていく。


「行きましょう」


ミレイアが言った。


彼女は再び司祭として歩き出す。


だが。


昨日までとは違う。


騎士たちと同じ歩幅ではない。


ほんの少しだけ。


自分の速さで歩いていた。


第一検問。


所持品確認。


白い石で造られた広間には、十二の受付台が並んでいる。


巡礼者たちは荷物を開き。


危険物を分けられ。


王都内へ持ち込めない物を預けている。


「次」


検査官が呼ぶ。


感情の薄い声。


ヴェスパーたちが受付台へ進む。


検査官はミレイアを見る。


「第一巡礼司祭」


「灰都からの招待者です」


ミレイアが証書を渡す。


検査官の目が青白く光る。


星環を通じて情報を確認している。


「記録を受理」


「武器を提出してください」


レイラの眉が動く。


「一時保管です」


検査官が続ける。


「入城許可後、封印を施して返却します」


「今、持っていくのは誰だ」


「管理局です」


「その管理局の誰だ」


「管理局です」


「人の名前を聞いてる」


検査官は瞬きしない。


「管理局が責任を負います」


レイラの手が戦斧から離れない。


セレスが小声で言う。


「約束」


「分かってる」


レイラは不満そうに戦斧を受付台へ置いた。


重い音が響く。


検査官の手元が僅かに揺れた。


「重量超過」


「武器だからな」


「王都基準を超えています」


「私の基準では普通だ」


「返却時に運搬補助具を」


「いらない」


隣でイリスが小さく笑う。


自分の銃を机へ置く。


だが。


袖の内側に隠した鋼線と小型端末は残している。


検査官の視線が彼女の腕へ向いた。


一瞬。


イリスと目が合う。


「他に武器は」


「ないよ」


検査官は数秒見つめ。


やがて視線を外した。


「次」


アステルの術式具。


セレスの医療用短刀。


ノアの小さな護身用ナイフ。


全てが並べられる。


最後に。


ヴェスパーが剣を外した。


ガルムから受け取った古い剣帯。


長く使われた革。


黒陽炎に焼かれた跡。


検査官が剣帯へ触れた瞬間。


受付台の星脈線が赤く光った。


警告音。


周囲の検査官たちが一斉に顔を上げる。


「高熱因子を検出」


騎士が二人近付く。


ヴェスパーは動かない。


「剣ではない」


セレスが言った。


「剣帯に残った熱です」


「所有者は?」


検査官が尋ねる。


「俺の師だ」


「氏名を」


ヴェスパーは答えない。


ガルムの名を。


王都へ渡す理由はない。


検査官の目が青白く光る。


「氏名を回答してください」


「必要ない」


「高熱因子保有者は、王都安全法に基づき登録が必要です」


「ここにいない人間だ」


「関係者として記録します」


「断る」


警告音が強くなる。


レイラの手が空を掴む。


戦斧はすでに預けた。


「だから先に武器を取ったのか」


騎士たちが剣へ手を伸ばす。


ミレイアが一歩前へ出た。


「灰巡りの遺品です」


検査官が彼女を見る。


「死亡者の遺品に残った熱紋は、巡礼法第九条により記録対象外となります」


ヴェスパーが僅かに目を動かす。


ガルムは生きている。


ミレイアは嘘をついた。


検査官の目が明滅する。


星環へ確認している。


数秒後。


警告音が止まった。


「例外規定を確認」


「通行を許可します」


剣と剣帯には、青白い糸が巻かれた。


他の武器にも同じ封印が施される。


ヴェスパーが剣を腰へ戻す。


糸から僅かな冷たさを感じた。


「抜けば?」


レイラが小声で尋ねる。


「警報が鳴るだろうね」


イリスが答える。


「切れるか?」


「今試さないで」


一行は次の通路へ進む。


背後で。


検査官が小さく呟いた。


「黒陽炎因子」


ヴェスパーが振り返る。


だが。


検査官はすでに次の巡礼者を見ていた。


第二検問。


身体確認。


第三検問。


犯罪記録。


第四検問。


所属確認。


質問は同じだった。


生まれた場所。


過去に暮らした都市。


所属組織。


王都へ来た目的。


誰かが答えるたび。


壁の星脈線が淡く光る。


イリスが嘘を混ぜると。


光が一瞬だけ揺れた。


だが警告は鳴らない。


「嘘を見抜いてる?」


レイラが小声で尋ねる。


「完全には」


イリスが答える。


「事実じゃなく、本人がどう認識してるかを見てる」


「どういう意味だ」


「自分で本当だと思ってる嘘なら通るかも」


「面倒だな」


「王都は事実より、認識を管理したいんだろうね」


第五検問。


星脈汚染。


そこは。


他の部屋とは違っていた。


中央に、円形の台座がある。


周囲には十二本の白い柱。


天井から無数の細い輪が下がっている。


青白い光が。


水面のように部屋を満たしていた。


アステルが足を止める。


呼吸が浅くなる。


重圧因子の残片が入った鞄。


そして。


彼女自身の身体に残る、黒い翼の術式痕。


全てが反応している。


「大丈夫か」


レイラが尋ねる。


「はい」


答えながら。


アステルの指が震えている。


「無理なら戻る」


「戻れません」


「なら別の道を探す」


「ここまで来ました」


アステルは円形の台座を見る。


過去の実験室。


中央へ立たされ。


周囲から力を流し込まれた記憶。


形が似ている。


だが。


今は一人ではない。


「行けます」


彼女は自分で一歩を踏み出した。


検査官が台座の横へ立つ。


「一名ずつ中央へ」


ミレイアがヴェスパーを見る。


ここから。


残火の作戦が始まる。


ヴェスパーは目を閉じた。


仲間たちの熱を探す。


レイラ。


強く燃える火。


イリス。


細く鋭い熱。


セレス。


規則正しい温かさ。


アステル。


中心へ沈みながら、消えない光。


ノア。


速く揺れる、小さな鼓動。


ミレイア。


星環へ向かう道を、本人の中へ戻された熱。


六人。


そして自分。


全員を一つにしてはいけない。


同じ火で包めば。


星環と変わらない。


必要なのは。


それぞれの熱が、それぞれの場所へ帰るための壁。


「ノア」


「聞こえてる」


少年は大きな耳を立てる。


「レイラの音、大きい」


「悪かったな」


「イリスが細くなってる」


「少し息をゆっくり」


イリスが呼吸を整える。


「セレスは安定」


「アステルが……揺れてる」


ヴェスパーは残火を広げる。


火は仲間たちの間を繋がない。


一人ずつの周囲へ。


薄い膜となって広がる。


「開始します」


検査官が装置へ手を置く。


青白い光が強くなる。


最初はレイラ。


彼女が台座へ立つ。


十二本の柱から光が伸びる。


身体をなぞり。


熱を読もうとする。


ヴェスパーはレイラの火を、胸の奥へ戻す。


光が彼女の外側を滑る。


警告なし。


「汚染反応なし」


次はイリス。


細い熱が。


光から逃れるように揺れる。


「右へずれてる」


ノアが言う。


ヴェスパーが残火を調整する。


イリスの熱が中心へ戻る。


「汚染反応なし」


セレス。


ノア。


ミレイア。


一人ずつ。


装置を通過する。


ヴェスパーの額から汗が流れる。


視界が僅かに霞む。


「大丈夫ですか」


セレスが尋ねる。


「ああ」


「嘘ですね」


「まだ動ける」


「質問を変えます」


セレスはヴェスパーの脈を見る。


「あと何人持ちますか」


「二人」


残っているのは。


アステルとヴェスパー。


アステルが台座へ立つ。


青白い光が。


彼女の身体を包んだ。


最初の数秒。


反応はなかった。


だが。


鞄の中の重圧因子が震える。


アステルの背中に残る術式痕が。


黒紫色に光った。


警告音。


「星脈汚染を検出」


柱から光の鎖が伸びる。


アステルの手首。


足首。


首元へ向かう。


過去の拘束と同じ形。


アステルの目が見開かれる。


身体が動かない。


「器を固定」


記憶の中の声が蘇る。


『逃げるな』


『お前は力を受けるための器だ』


『個人の意思は不要だ』


「アステル!」


レイラが叫ぶ。


アステルは答えない。


光の鎖が手首へ触れる。


その直前。


残火が割り込んだ。


赤い揺らぎ。


鎖は燃えない。


破壊もされない。


だが。


触れる対象を見失ったように、空中で止まる。


「アステル」


ヴェスパーの声。


「今、どこにいる」


彼女の瞳が揺れる。


「実験室……」


「違う」


「でも、鎖が」


「俺たちの声が聞こえるか」


レイラが叫ぶ。


「アステル!」


イリス。


「戻ってきて」


セレス。


「呼吸をしてください」


ノア。


「あなたの音、まだあるよ!」


ミレイア。


「あなたは器ではありません」


声が届く。


一人ずつ。


違う声。


違う呼び方。


違う温度。


アステルの指が動いた。


「私は」


光の鎖が近付く。


「私は、器ではありません」


重力が弾けた。


台座の周囲に浮かんでいた光の輪が、一瞬だけ歪む。


アステルは自分の足で。


台座から降りた。


警告音が鳴り続ける。


検査官たちが動く。


「対象を隔離します」


騎士が四人、入口から入ってくる。


レイラが封印された戦斧へ手を伸ばす。


「待て」


ヴェスパーは台座へ向かった。


「次は俺だ」


検査官が止まる。


「異常対象の隔離が優先されます」


「検査は一人ずつだろ」


「規則により」


「規則なら、俺の順番を終えてからにしろ」


ヴェスパーは台座へ立った。


騎士たちが僅かに迷う。


その間に。


ミレイアが検査官へ言う。


「灰巡り一行は、共同審査の対象です」


「全員の検査が終わるまで、判定を保留してください」


検査官の目が青白く光る。


確認。


数秒。


「共同審査を承認」


騎士たちが一歩下がる。


アステルへの光の鎖も止まる。


「ヴェスパーさん」


アステルが言う。


「大丈夫だ」


ヴェスパーは中央へ立つ。


残火は。


すでに六人を包んでいる。


自分の熱を隠す余裕は、ほとんどない。


「ノア」


「聞いてる」


「俺の音は」


ノアの表情が変わった。


「二つある」


「何?」


「ヴェスパーの中に」


ノアは耳を強く立てる。


「いつもの音と」


「黒い音」


ヴェスパーの胸の奥で。


何かが脈打った。


海底観測炉。


残火を得た時。


黒陽炎の因子へ触れた瞬間。


そして。


ガルムの胸に埋め込まれた結晶と共鳴した記憶。


検査装置が起動する。


十二本の柱が。


一斉にヴェスパーへ光を放つ。


青白い光が身体をなぞり。


胸の奥へ入る。


残火では隠し切れない。


深い場所。


ヴェスパー自身も知らない熱へ。


装置が触れた。


全ての光が。


一瞬で黒く染まった。


警告音ではない。


これまで聞いたことのない。


低い鐘の音。


床が震える。


壁の星脈線が消える。


天井から下がっていた輪が、一斉にヴェスパーへ向いた。


『黒陽鍵』


声が響く。


検査官の声ではない。


星環そのもの。


『第二因子を確認』


『残火適合』


『中枢接続を開始』


ヴェスパーの身体が宙へ浮いた。


「ヴェスパー!」


レイラが駆け出す。


だが、見えない壁に弾かれる。


イリスの鋼線も。


アステルの重力も。


光の輪へ届かない。


ヴェスパーの胸元に。


黒い星環が浮かび上がる。


残火が。


仲間たちから引き剥がされようとする。


「切れる!」


ノアが叫ぶ。


「みんなの音が離れる!」


ヴェスパーは歯を食いしばる。


自分を守れば。


仲間の熱が星環へ晒される。


仲間を包み続ければ。


自分の中へ、星環が入ってくる。


二つの道。


どちらかを選べと。


王都が迫る。


一人か。


六人か。


アルベリクの問いが蘇る。


――一人を救うために十人が死ぬ時も、同じことを言えますか。


「ヴェスパー!」


レイラの声。


「切れ!」


イリスが叫ぶ。


「私たちは自分で何とかする!」


「残火を戻してください!」


セレスも言う。


「あなたまで失ったら意味がありません!」


アステルが手を伸ばす。


「私たちを守るために」


「自分を捨てないで!」


ノアの声が。


最後に届く。


「ヴェスパー!」


「僕たちは一人じゃない!」


その言葉に。


ヴェスパーの目が開いた。


一人で全員を守る。


その考え自体が。


どこかで間違っていた。


守られる者は。


何もできない存在ではない。


レイラには戦う力がある。


イリスには道を見つける知恵がある。


セレスには命を繋ぐ技術がある。


アステルには自分で立つ意思がある。


ノアには本物の声を聞き分ける耳がある。


ミレイアも。


すでに自分の道を選んだ。


「ノア」


ヴェスパーが言う。


「全員の音を」


「一つずつ呼んでくれ」


「え?」


「俺が守るんじゃない」


残火が揺れる。


「全員で戻す」


ノアは一瞬迷い。


すぐに頷いた。


「レイラ!」


「いる!」


「イリス!」


「ここにいる!」


「セレス!」


「はい!」


「アステル!」


「います!」


「ミレイア!」


彼女の身体が僅かに震える。


「……ここにいます」


「ヴェスパー!」


ノアが最後に呼ぶ。


ヴェスパーは。


自分自身の名を聞いた。


星環からではない。


偽物の声でもない。


仲間が呼ぶ名前。


「俺もいる」


残火が広がった。


だが。


それはヴェスパー一人から伸びた炎ではなかった。


六人の熱が。


それぞれの場所で強く灯る。


赤。


橙。


白。


青紫。


淡い金。


青白い光。


異なる熱。


異なる鼓動。


混ざらない。


一つにならない。


それでも。


互いの存在を確かめ合い。


星環から自分の熱を取り戻す。


『同期不能』


『熱紋統合失敗』


『個体差を排除できません』


星環の声が乱れる。


「排除するな」


ヴェスパーが言った。


黒い輪へ手を伸ばす。


「違うから」


残火が指先へ集まる。


「俺たちは一緒にいられる」


黒い星環へ触れる。


音もなく。


輪が割れた。


検査室の光が消える。


ヴェスパーの身体が落ちる。


レイラが飛び込み。


その身体を受け止めた。


「重い!」


「悪かった」


「無事ならいい!」


非常灯が赤く点滅する。


全ての扉が閉まり始める。


「今です!」


ミレイアが叫ぶ。


検査室の奥。


壁に埋め込まれた星の紋章へ手を置く。


青白い結晶が光る。


『開門権限を確認』


『第一巡礼司祭ミレイア・ノルン』


『第七星渠への接続を――』


声が止まる。


『権限追加者』


一瞬。


検査室全体へ、アルベリクの声が響いた。


『アルベリク・クロイツ』


壁が左右へ開く。


その向こうに。


下へ続く暗い階段が現れた。


冷たい風。


水の匂い。


そして。


古い灰の匂いが吹き上がってくる。


「急いで!」


ミレイアが言う。


レイラがヴェスパーを肩へ担ぐ。


「歩ける」


「今は黙れ」


イリスが受付台から武器を掴み取る。


封印糸は残っている。


だが構っている時間はない。


セレスがノアの手を取り。


アステルがミレイアを支える。


警報が鳴り響く。


閉じていた入口の向こうから。


数十人の騎士の足音が聞こえる。


一行は階段へ飛び込んだ。


最後にミレイアが星の紋章から手を離す。


壁が閉じ始める。


隙間の向こう。


検査室へ王都騎士たちが雪崩れ込む。


その中央に。


白い礼装の男が立っていた。


アルベリク。


彼は追ってこない。


閉じていく壁の向こうで。


ヴェスパーたちを見つめている。


そして。


穏やかに笑った。


まるで。


予定通りだとでも言うように。


壁が閉じた。


光が消える。


一行は。


第七星渠の暗闇へ落ちていった。


階段は長かった。


どれほど下ったのか。


地上の警報は、もう聞こえない。


代わりに。


水が流れる音が近付いてくる。


壁は白い石から、黒い金属へ変わっていた。


旧文明時代の構造物。


星脈を運ぶための管が、何本も壁の中を走っている。


だが。


その多くは壊れている。


管の隙間から。


青白い液体が滴り落ちていた。


「これは水?」


アステルが尋ねる。


イリスが指先へ少量取り、端末で調べる。


「水に近い」


「でも熱紋反応がある」


「人の?」


「分からない」


ノアの耳が震える。


「声がする」


全員が止まる。


「どこから」


ヴェスパーが尋ねる。


ノアは壁を見る。


「全部から」


水路を流れる液体。


壁の中を走る管。


床の下。


天井。


暗闇の奥。


あらゆる場所から。


小さな声が聞こえる。


名前。


何千。


何万。


呼ぶ声。


呼ばれる声。


謝る声。


泣く声。


笑う声。


「これが」


ミレイアの声が震える。


「不要と判断されたもの……?」


イリスが壁の管へ光を向ける。


内部に。


小さな結晶が流れている。


一つ一つに。


文字が刻まれていた。


人の名前。


「熱紋記録」


イリスが呟く。


「星環から削除された人たちの記録を」


「ここへ流してる」


「削除されたのに、残ってる?」


セレスが尋ねる。


「消せないんだ」


イリスの顔が険しくなる。


「人の記憶や熱を、完全には消せない」


「だから王都の外へ捨てるために」


「この水路を使ってる」


ノアが一歩。


暗闇へ進んだ。


「待て」


ヴェスパーが止める。


「誰かいる」


「声か」


「うん」


他の声とは違う。


同じ言葉を繰り返していない。


名前を呼んでいない。


彼らへ向けて。


はっきりと話している。


『灰都から来た者たちへ』


古い通信装置のような、掠れた男の声。


通路の先で。


赤い光が一つ点いた。


『この記録を聞いているなら』


『君たちは、名前を渡さずに門を越えたのだろう』


イリスが端末を構える。


「記録音声」


「発信源は奥」


声が続く。


『私の名は、ローデン・ヴァイス』


全員の表情が変わる。


『王都評議会監査局』


『元・第一監察官』


『私は、星環の内部で起きている熱紋消失事件を調査した』


『そして』


一度。


音声が大きく乱れる。


『アルベリク・クロイツの正体へ辿り着いた』


ノアの耳が持ち上がる。


『最初に警告する』


『二つの声を持つ男を、決して信じてはならない』


ヴェスパーたちは顔を見合わせる。


アルベリク。


彼の中にいた、生きていない何か。


『彼は星環を操っているのではない』


『彼こそが――』


音声が途切れた。


赤い光が消える。


「何だ」


レイラが叫ぶ。


「続きを流せ!」


返事はない。


代わりに。


通路の奥から。


水を引きずるような音が聞こえた。


一歩。


また一歩。


誰かが。


こちらへ歩いてくる。


イリスが銃を構える。


レイラは戦斧の封印糸を力任せに引きちぎった。


アステルの周囲に重力が集まり。


セレスはノアを背後へ下げる。


ヴェスパーも剣を抜く。


封印糸が赤く燃え落ちる。


暗闇の中。


人影が現れた。


痩せた男。


ぼろぼろの白い外套。


片方の腕には、何本もの星脈管が刺さっている。


顔の半分を青白い結晶が覆い。


足を引きずっている。


その胸元には。


監察官の紋章が残されていた。


「ローデン……?」


ミレイアが呟く。


男は顔を上げる。


片方だけ残った瞳が。


ヴェスパーたちを見る。


「遅かったな」


掠れた声。


先ほどの記録と同じ声だった。


「だが」


男の背後で。


第七星渠を満たす無数の名前が。


一斉に囁き始める。


「まだ」


「王都に食われてはいないようだ」


ローデン・ヴァイスは。


自分の胸へ刺さった星脈管を握り。


苦しそうに笑った。


「よく来た」


「名前を捨てられた者たちの墓場へ」


その瞬間。


ノアが悲鳴を上げた。


「違う!」


ヴェスパーが振り返る。


ノアはローデンを指している。


大きな耳が、恐怖で震えていた。


「その人の声」


「奥からも聞こえる」


全員の視線が。


目の前のローデンへ集まる。


男は動かない。


だが。


さらに深い水路の奥から。


もう一人のローデンの声が響いた。


『近付くな』


『それは私ではない』


目の前の男の笑顔が。


ゆっくりと歪んだ。


青白い結晶に覆われた口元が開く。


そこから。


アルベリクと同じ。


無数の声が漏れ出した。


「さて」


「君たちは」


「どちらのローデンを信じる?」

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