表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灰の星  作者: ウルフルマル


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/65

第1章 第1話 「灼熱の砂海」

太陽は容赦なく大地を焼いていた。


見渡す限り続く黄金色の砂丘。


吹きつける乾いた風が砂を巻き上げ、遠くに見える景色を陽炎で揺らしている。


かつて文明が栄えていた証なのか、砂に半ば埋もれた石造りの塔や朽ち果てた橋が、まるで墓標のように点在していた。


砂漠を横断する一本の交易路。


その上を、一隊の輸送隊がゆっくりと進んでいる。


荷車には木箱や水樽、布袋が積み込まれ、十数人の商人と数名の護衛が周囲を警戒していた。


この砂海では、一日の油断が命取りになる。


盗賊。


魔獣。


そして砂嵐。


何が襲ってくるか分からない。


だからこそ、誰もが緊張感を切らさず歩いていた。


……ただ一人を除いて。


「いやぁー! 今日も最高の天気だな!」


快活な声が砂漠に響く。


赤い髪を後ろで束ねたループス族の少女――レイラは、荷車の横を軽い足取りで歩いていた。


肩には、自身の背丈ほどもある巨大な戦斧を担いでいる。


「……暑くないのか、お前は」


商人の一人が呆れたように額の汗を拭った。


「暑い? これくらいで?」


レイラは首を傾げる。


「むしろ体がよく動くぞ?」


「お前だけだよ……」


隊列のあちこちから苦笑が漏れる。


「獣人ってみんなそうなのか?」


別の商人が尋ねると、レイラは腕を組んで少し考えた。


「いや、私を基準にするな。」


その一言に、一同は思わず吹き出した。


張り詰めていた空気が少しだけ和らぐ。


輸送隊には、こういう存在も必要だった。


その少し前方。


隊列の先頭近くを、一人の青年が静かに歩いていた。


風になびく金色のセミロング。


灰色の外套。


腰には一本の細身の剣。


青年の名は――ヴェスパー。


彼は周囲の景色を眺めるでもなく、ただ静かに前を見据えて歩いている。


「兄ちゃん。」


後ろから商人が声をかけた。


「さっきから黙ったままだな。」


返事はない。


「聞いてるか?」


ヴェスパーは足を止めることなく、小さく口を開いた。


「……風向きが変わった。」


「え?」


商人は空を見上げる。


雲ひとつない青空。


特に変わった様子はない。


「何かあるのか?」


その問いにヴェスパーは答えない。


ただ視線だけを、遥か前方へ向けていた。


「また始まったか。」


レイラが隣まで歩いてくる。


ヴェスパーは静かに頷いた。


「嫌な予感がする。」


「その予感、当たるんだよな。」


レイラは苦笑する。


これまで何度も、ヴェスパーの"勘"に助けられてきた。


いや、勘ではない。


彼の感知能力は、普通の人間では気付けない違和感を見抜く。


風。


熱。


気配。


砂の流れ。


全てを読み取る力。


だからこそ、レイラは彼の言葉を軽く受け流さない。


「当たらない方がいい。」


ヴェスパーは短く答えた。


「違いない。」


レイラも真顔になる。


ヴェスパーはゆっくりとしゃがみ込んだ。


砂へ手を伸ばす。


指先ですくい上げた砂が、さらさらと零れ落ちていく。


その下に、いくつもの足跡が残されていた。


人間。


獣人。


複数。


しかも。


「新しい……。」


レイラも足跡を見る。


「街道なんだから当たり前じゃないのか?」


「違う。」


ヴェスパーは静かに首を振る。


「輸送隊のものじゃない。」


「……。」


レイラの表情が変わった。


「敵か。」


ヴェスパーは答えない。


代わりに目を閉じる。


熱。


砂が蓄えた熱。


岩の熱。


人の体温。


その全てが、波紋のように意識へ流れ込んでくる。


そして――


彼の瞳がゆっくりと開いた。


「右前方。」


「何人だ?」


「……分からない。」


ヴェスパーは遠くの岩場を見つめた。


陽炎で景色が揺れている。


しかし、その揺らぎの向こうに。


ほんの一瞬だけ。


何かが動いた。


「見られている。」


静かな声だった。


レイラは戦斧の柄を握る。


その口元に、わずかな笑みが浮かぶ。


「面倒な相手か?」


ヴェスパーは目を離さず答えた。


「……たぶんな。」


「なら。」


レイラは肩で戦斧を軽く回した。


「暴れる準備だけはしておくか。」


その言葉と同時に。


遠くの岩陰で、一羽の鳥が驚いたように飛び立った。


ヴェスパーの瞳が細くなる。


風が止んだ。


砂が静まる。


世界が、一瞬だけ息を潜めたようだった。


そして――。


岩陰から、一筋の矢が放たれる。


その矢が太陽の光を反射した瞬間、ヴェスパーは叫んだ。


「伏せろ!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ