第6話 降りかかった災難と師匠の記憶
リーナの意識が戻った時、身体中に砂が付いており、黒い布が身体の上にかかっていた。
口の中まで砂が入りじょりじょりしている。
「何これ?」
布をはぎ取り身体を起こそうとした時、初めてリーナは自分の異変に気付いた。
身体が重い・・・
そして布を掴んだ自分の手を見て、ヒッと声をあげた。
しわしわの老婆のような手だった。
腰の痛みを我慢し、ゆっくり起き上がった。
よく見ると黒い布はマリーンが先ほど着ていた服だった。
「先生は?」
そう呟いた瞬間、リーナの頭の中にマリーンの記憶がなだれ込んできた。
※
マリーンがまだ20代だった頃、長年付き合った大好きだった恋人に突然別れを告げられた。
理由を尋ねると、彼は驚くべきことを言った。
「新しく好きな人が出来たんだ。彼女は君より若くてセクシーなんだ。」
若さなんて言われたら勝てるわけないじゃない・・・
ひどく落ち込んだマリーンは、しばらくしてから魔女として若さを追求する研究に没頭し始めた。
塗り薬、飲み薬、皮膚強化魔法から始まって、最終的に行き着いた方法は魔法の壺に”老い”を閉じ込めるというものだった。
その壺はハーフエルフの魔術師の友人から貰った貴重なエルフの魔道具で、壺がいっぱいに満たされるとそれ以上は”老い”を閉じ込めることは出来ない。
一つしかないものだったが、まだまだ容量は半分以上残っていた。
元カレも若い女もとうの昔に年老いて亡くなり、今となっては、もはや若さへの執着は無くなっていた。
不老長寿のハーフエルフの友人に付き合って、なんとなく惰性で生きているような状態だった。
そうした長い人生に飽き飽きしていた時に、リーナという娘(弟子)を得た。
リーナやその子供達を見守って生きよう。
新しい人生の目標が見つかり、楽しく毎日を過ごしていた矢先に悲劇は起きた。
換気のために開けた窓から鷹に追われ逃げていた鳥が魔道具部屋に入り込み、件の壺にぶつかったのだ。
壺は壊れ、閉じ込めていた”老い”が元の持ち主へと帰ろうとした。
危険を察知したマリーンは、リーナを助けようと彼女に覆いかぶさった。
結果、200年分の”老い”を吸収しマリーンの肉体は朽ちて砂となり、マリーンの身体で補いきれなかった”老い”がリーナへと襲い掛かったのだ。




