第39話 ケイオス達との対談
「ケイオス様は先生に紫の石のついた金の指輪を渡しましたよね?」
リーナに尋ねられ、ケイオスが頷いた。
「あの指輪が作動したのです。」
「どういうことだ?」
ケイオスが眉をひそめた。
「えっ?先生から聞いたことがあるのですが、あれは蘇りの指輪なんですよね?」
「あれは私がマリーンに贈ったエルフの魔道具の一種だが、そんな効果はないぞ。彼女の金の髪と私の紫の瞳を併せ持ったデザインが気に入ったから彼女にプレゼントしただけだ。」
「え?死んでも次の生で記憶が残るための指輪なのよって、先生がおっしゃってましたが・・・?」
リーナの言葉にケイオスはしばし考え込んだ。
「似たようなことは言ったような気がする。私たちの友情の証に、たとえいつか死することがあろうとも次の生でも私のことを覚えていることを願って、今際の際までこの指輪をつけていて欲しいと。」
ん?
ニュアンスが微妙に違う・・・。
「あれ?じゃあ、私が記憶をもって転生したのは指輪のせいじゃなかったんですか?」
慌てるリーナにケイオスが答えた。
「あの指輪はエルフの魔道具だし、何かしらの魔術が作動した可能性はある。しかし後から魔術が付加されていたとしたら、それはマリーンによるものだろうな。」
「先生によるもの?」
「”老い”に襲われた時、これからお前に降りかかるであろう災難を予想し、その時はすぐに死んだとしても改めて次の生を生きられるようマリーンが指輪に魔術を込めた可能性はある。」
「・・・」
ケイオスの言葉を聞いてリーナはハッとした。
今まで考えたこともなかったが、マリーンほどの魔女であれば、もしかして壺が割れた時、自分だけは”老い”から逃げることが出来たのかもしれない。
自身の身体でかばってくれただけでなく、あの一瞬の間にリーナのためにそんな魔術を付加させていたかもしれないなんて・・・。
マリーンはリーナにとって恩人であり、師であり、そして母でもあった。
彼女のことを想い、こらえきれない感情が溢れてきた。
「せ、せんせい・・・、先生、先生・・・」
リーナは顔を覆い、マリーンのことを思いだし涙を流した。
すすり泣くリーナにケイオスが声をかけた。
「むろん、マリーンが指輪に何らかの魔術を付加していたとしても、お前が死ぬときに指輪をつけていなければ魔術は発動しなかったはずだ。自分でつかみ取った運もあるだろう。」
「先生が亡くなった時、身に付けていた装飾品とあの指輪だけが残ったんです。他のものはお墓に一緒にいれましたが、あの指輪は先生が肌身離さず身に付けていたものだったから形見にしたかったんです。」
未だに涙の止まらないリーナを見て、ケイオスはバツが悪そうな顔をした。
「さっきは怒鳴って悪かったな。お前もマリーンを大切に思っていたことはよく分かった。」
リーナに謝罪するケイオスを見て、ローランドとギリアンは目を見開き驚いた。
大国オストールが誇る偉大なハーフエルフは傲岸不遜で、誰にも屈しない男だ。
それが例え皇帝だとしてもだ。
彼が謝るなんて・・・
そしてこの男に執着されることが、リーナにとって悪夢の始まりになるなど、この時は誰も思っていなかったのであった。




