第36話 オストールからの客人
ウィルは戸惑ったように答えた。
「フィリーナ・ラチェット伯爵令嬢。私の婚約者です。あの、彼女が何か・・・?」
「先ほど彼女が口にされた言葉は我がオストール帝国の最重要機密の一つでしてね。なぜ、彼女はそれをご存じだったのでしょう?」
再び会場がざわついた。
リーナから見て皇太子より手前に立っているケイオスは非常に楽しそうな表情を浮かべている。
ああ、この人がこんな笑顔を浮かべたら逃げられない・・・。
(と先生の記憶が言っている・・・)
リーナはげっそりした気分になった。
一方、ウィルは困惑した表情を浮かべローランドに尋ねた。
「最重要機密とは・・・?」
ローランドはウィルの問いには答えず、厳しい視線をリーナに向けている。
後ろに立つギリアンもい殺しそうな表情をしている。
リーナが少しでも怪しい動きをすれば、腰元の剣で瞬殺されそうな雰囲気だった。
リーナはため息をついて覚悟を決めた。
「私がそれを存じ上げていた理由はきちんと説明させていただきます。ただ、大勢の前で話すには差し障る内容もございますので、別室でお話させていただいてもよろしいでしょうか?」
リーナの言葉にローランドはどうしようかと一瞬考えるそぶりを見せたが、そこにケイオスが割って入った。
「殿下。ぜひ、そうさせていただきましょう。大変興味深い話が聞けそうです。」
認識阻害が解けたリーナには銀色のエルフにしか見えないが、目立たない若い文官が皇子から発言許可も得ず自分の意見を通そうとする発言をしたことに周囲の重鎮たちはギョっとした表情になった。
ローランドはそれを気にする様子もなく頷いた。
「あなたがそう言うならそうしよう。レオンハルト陛下、場を設けて頂けますか?」
「ローランド殿下。接見の後はお部屋で小休憩いただき、夜に晩餐会の予定が組まれているのですが・・・」
シュタインマルクの官吏らしき人物が、慌ててローランドにこの後の予定を伝えたが、彼はそれを一蹴した。
「休憩は必要ない。部屋も簡素なものでいい。直ちに令嬢と話す場所を設けてくれ。」




