第29話 顔見世の儀
「ただ今より新成人の顔見世の儀を取り行います。新成人の方々はホール中央に集まり、入り口でお渡しした札の番号順に整列して下さい。」
前の壇上で会場を仕切っていた男性が声をあげた。
札には成人になる者の中で身分の高い順番に番号が振られていた。
リーナは5番。
まあまあ上位の方である。
1番の人から国王の前に歩み出て挨拶をするのだ。
壇上には国王が座る豪華な椅子の設置が始まっている。
椅子の準備が終わり新成人が綺麗に整列したのを確認した後、再びラッパの音が響いた。
「国王レオンハルト・ウィルフレッド・シュタインマルク陛下のおなりでございます。」
椅子の後方の豪奢な扉が開かれ、一人の男性が現れた。
リーナはもとよりホールにいる人間はみな頭を下げているため国王の顔は見えない。
椅子に腰かける音が聞こえた後、王が口を開いた。
「皆の者、頭を上げてくれ。」
んっ?この声、どこかで聞いたような・・・?
リーナはそんなことを思いながら頭を上げ、壇上に座る王の姿を見た。
ウィル??
驚き目を見張るが、王とは目は合わない。
他人の空似かしら?
よく似てるわね・・・。
不躾とは思いつつチラチラと国王を盗み見た。
しかし豪奢な礼服を纏い髪を綺麗になでつけた国王の姿は、じっと見ているとウィルと全く違う人に見えてきた。
違う人よね?
リーナが考え事をしている間に、儀式は粛々と進んでいた。
「次は5番。ラチェット伯爵令嬢。」
司会の男性の声にリーナは慌てて国王の御前に進み出た。
「フィリーナ・ラチェットでございます。よろしくお願いいたします。」
決められた礼と挨拶を行い、リーナは元の位置へ戻った。
国王は軽く頷いただけで表情は全く変わらなかった。
近くで見ても本当によく似ていたけど・・・。
私を見ても眉一つ動かさなかったし、やっぱり別人なんだわ。
世界には自分によく似た人が3人いるっていうしね・・・。
ウィルのことは忘れてダグラスに尽くそうと決意した矢先、ダグラスの想い人の令嬢に会ったり、ウィルによく似た王様に会ったり散々である。
最後の新成人の挨拶が終わると、国王が再び口を開いた。
「新成人の諸君。皆がつつがなく成人の儀を終えることができ私も嬉しく思っている。これから君たちが、このシュタインマルク王国を支える貴重な人材になってくれることを期待している。今日はおめでとう!」
国王の言葉に、盛大な拍手がホールに鳴り響いた。
ああ、いろいろあったけど、やっと終わったー。
リーナはすっかり疲れてしまい、最大の山場であった顔見世の儀を終え、すでに帰る気まんまんになっていた。
「さて、今日ここに集まった諸君に一つ報告したいことがある。私個人に関することだ。」
会が終わったと思っていたら、国王のお言葉が続いていた。
王様個人?
ああ、きっとアイシャ様との婚約を発表されるのね。
そう思いリーナはダグラスの方をチラッと見た。
ダグラスは王の方をじっと見ながら表情が強張っていた。
兄さま、かわいそう・・・
そのままダグラスを見ていたら、会場に大きなどよめきが起こった。
リーナもそのどよめきにつられるように皆の視線の方に目をやると、国王が壇上から降りてくるのが見えた。
あれ?アイシャ様との婚約報告じゃないのかしら?
何をされるんだろう?
婚約報告だけなら壇上で発表すれば終わる話である。
リーナは不思議に思って国王を見つめていたが、なんと彼は真っ直ぐにリーナのいる方に向かって歩いてきた。
えっ?とリーナが思う間もなく、彼はリーナの前で跪いた。
「フィリーナ・ラチェット伯爵令嬢。私と結婚して欲しい。」
会場からはこの日一番のどよめきが起こった。




