第18話 ルーファス
執務室に戻ると、冷めたお茶の傍らで笑顔を浮かべるルーファスに出迎えられた。口元は笑っているが、目が笑っていない。
「長い休憩でしたね。猪でもいたんですか?用意したお茶もすっかり冷めてしまいましたよ。」
不機嫌なルーファスは、正直面倒で非常に怖い存在だったが、今日のウィルはそんなことは気にならない。
「聞いてくれ!森でリーナに会ったんだ。」
「リーナ?」
「話をしたことがあるだろう。父上が殺された後、半年ほど魔女の森で一緒に暮らしていた人だ。」
それを聞きルーファスは盛大に顔をしかめた。
「その方って老衰で亡くなったんですよね?陛下がご自分でお墓を作ったっておっしゃってたじゃないですか。頭は大丈夫ですか?」
「違う。本人だ。魔女の指輪によってこの国の貴族の娘に転生して今は16歳の少女なんだ。」
ルーファスはますます目をすがめ、自分のつかえる王の顔を見つめた。
「美少女だったんですか?陛下がハニートラップに引っかかるなんて・・・」
ルーファスは手でこめかみを押さえため息をついた。
「嘘じゃないぞ。魔女の形見の指輪の話はクロードを含め誰にもしたことがない。リーナ本人しか知り得ないことを知っていたんだ。何よりショーンの結界が彼女をはじかなかった。」
真剣な表情で話すウィルの言葉にルーファスは目を見張った。
「転生なんて、本当にあり得るんでしょうか?」
「森の魔女自身が200歳越えだったというしな。天才的な魔術師だったんだろう。」
「なるほど。まあ、その話が本当だとして・・・、その方はこの国の貴族の娘なんですよね?家名は?」
「かめい?・・・そう言えば現在の名前は聞いてない。リーナって呼んだら普通に返事してくれてたから・・・。」
「じゃあ、今はリーナという名前じゃないんですよね?」
ルーファスが呆れたように言った。
「再会できたことが嬉しすぎて、そんなことは全く気付かなかった。よし、次に会う時はまず名前を聞こう。」
「次に会う約束をしたんですか?」
ルーファスが驚いた。
「ああ、来月の15日の日曜日だ。楽しみだなあ。」
主はすっかり”リーナ”のことを信じ込んでいるようだが、ルーファスはまだ懐疑的だった。
王の憩いの場である森の結界は王国一の魔術師が施したもので、普通の人間に解除できるものではない。
それに陛下とリーナしか知り得ないことを知っていたというが、精神に作用する魔術で陛下の深層心理を読み、話を合わせている可能性なども否定できない。
しかし、そんな高度な魔術を使える者だとしたら、自分たちは太刀打ちできるのだろうか?
ルーファスの父譲りの疑り深く慎重な性格は宰相向きといえるだろう。
とりあえず魔術師長とフォレス将軍に相談した方がいいな。
ルーファスは今日の仕事の後、2人との面会予約を取ろうと決意したのだった。




