遅めの親睦 前半
ゴブリン退治を終えたイビーとルカが村に戻る頃には、夜も遅い時間になっていた。
冒険者ギルドの営業時間はとうに過ぎているため、作業報告は明日に持ち越しとなる。
空腹の二人は酒場を訪れた。
こちらはまだ営業中だが、時間も時間なので客は殆ど残っていない。
適当な席に着こうと歩いていると、数少ない客のいる席の一つから呼び止められた。
「珍しいのが帰って来たじゃねえか」
声を掛けてきたのはランツ。
その向かいにはアンディもいる。
「うわぁ、メンドクサそうなのに絡まれた…」
「おいおい、酷い言い草じゃないか」
「今から飯か?
まあ座れよ、アンディの長話にも飽き飽きしてたところだ」
二人の顔色を見るに、随分と出来上がっているようだ。
イビーが微妙な顔で『どうする?』といった視線を向けてきた。
ルカとしては同席を断る理由も特にない。
それにまだイビーとの距離を測りかねていたので、共通の知人がいた方が助かる。
漂ってくる酒臭さに目を瞑り、頷くことで意を伝える。
やれやれといった様子のイビーが席に向かうので後に続き、席に着く。
すぐにミリィが注文を取りに来たので、各々適当な料理を頼んだ。
「何だよ、景気悪い面してんなぁ」
「そらそうよ。
こちとら人手が足りないからって、長旅の直後にゴブリン退治に駆り出されたわけ。
そんで帰ってきたらご機嫌で飲んだくれてるのが二人いるじゃん。
不満の一つや二つは爆発するっての」
「あー、そいつはご愁傷様だな。
けど俺は村で待機を言い渡されてるんだぜ。
ここ最近、近くで魔獣騒ぎが結構出てきてるからよ」
「僕の方も以前から外界奥地の探索に出発する予定を伝えてたからね。
本来ならもう出発してるところなんだけど、ここ最近大雨続きであちこち地盤が緩んでるみたいだからさ。
安定を取って出発を後らせてたんだよ」
二人に恨みがましい視線が向けられるが、言い分はおかしくないので何も言えないようだ。
数秒の沈黙の後、ミリィが料理を運んできた。
「お待ちどお様。
イビーさんもお久しぶり。
奥さんとお子さんは元気?」
「あー、元気も元気。
でもこっちの村長からあれこれ頼まれて中々帰れてないからさー。
子供に親と認識されてないみたいで泣かれっぱなしだよ」
「えっ、イビーさん結婚してたんですか」
「そうだけど…
何その反応は?」
歳は恐らく二十半ば、ランツと変わらないくらいだろう。
確かに子供がいてもおかしくないが、意外と感じるのは周囲に独り身が多いからか。
「お前のチャランポランな態度から家族を養ってる姿が想像できねえんだろ」
「はいヘイトスピーチ頂きました、ランツ氏を事実陳列罪で告発しまーす」
「少しは否定したらどうなのよ…
勝ち目のない告発してないでさ」
客も少なく暇なのか、ミリィは仕事に戻らず雑談に加わっている。
周囲を見ると、空きテーブルは既に大半が片付けられていた。
「で、そのゴブリン云々はどうだったんだって?
その様子だと大したことはなかったのかな」
「まーね、戦士級と少しの取り巻きがいたくらいで他の群れも見当たらなかった。
南の方からはぐれてきたんじゃないかね。
処理もちょちょいで終わりよ、ルカもアシストしてくれたし。
あの初手の爆弾みたいのは魔術か何か?」
「あー、あれは魔術で手を加える用の爆弾ですね。
僕は魔術を使うのに時間が掛かるので、最小限で済むように色々試してる最中でして。
まあ、今回は効果がちょっと期待外れだったんですけど」
理論型魔術の再現工程を減らすため、お試しで作成した爆弾。
衝撃を契機に内部の火薬に着火するよう魔術を施して使う用途だったが、結果はいまいち。
音が大きい割に低威力で、材料費も馬鹿にならない。
「へえ、じゃああの魔術師のお嬢さんが来て一応スランプから脱出できたのかな」
「はい、まあ、おかげ様で。
前に言われた通り、独学でどうにかなる話じゃありませんでした…」
以前のスランプ中のように手探りで魔術を使い続けても、まともな成果は得られなかっただろう。
アンディの交渉とカティの出張には感謝するばかりだ。
「ほーん、ちゃんとした魔術師がこの村に来てるんだ。
女の魔術師ってことは、レジーナみたいな人だったりすんの?」
「そっか、イビーさんはまだ知らないんだね。
レジ姉とは全然タイプが違う人だよ」
「そうそう、比較することが失礼なくらい理知的な女性だね」
「まあそれはそうだろうが、あれはあれで面倒な女だろ」
酔っ払い組が好き勝手言い始めるが、イビーとルカは沈黙を守る。
横でミリィが面白そうな顔をして頷いているため。
後で本人に報告が行くのか、小さな強請りのネタになるのか。
彼らはその迂闊な行動のツケを払うことになるのだろう。




