一掃
通常のゴブリンは大した相手ではない。
体格が小さい上に技術も拙く、戦闘経験のない成人男性でも武器を持てば倒せる程度。
それが一対一であれば。
問題となるのはその数。
広場にいるゴブリンは三体だが、恐らく奥の洞窟にも潜んでいるはず。
「どうします?
騒がれる前に三体とも仕留めるのは難しそうですけど」
「退治は可能ならって話だったし、まずは数を把握しよっか。
アイツらに騒がせて、穴の中の奴を引っ張り出そうかね。
それであんまり大量に出て来たら、場所だけ覚えといて一旦帰ろう」
「なるほど」
「ってわけで、こっちの居場所がバレないように嫌がらせできない?」
「えーっと、ちょっと待ってくださいね」
ルカは矢筒を漁り、一本の矢を取り出した。
先端には鏃ではなく、小さな球体が取り付けられている。
その球に魔術を施し、矢を番えた。
「ちょっと大きい音しますよ」
イビーに一言断り、空中へと矢を放つ。
矢は放物線の軌道を描き、丁度ゴブリンたちの中心へと落下。
地面に着弾すると破裂し、乾いた音と共に破片が撒き散らされた。
小さな破片を体に浴び、ゴブリンは大声を上げながら転げ回り始めた。
音に驚いたのか、周囲から鳥の鳴き声と羽ばたきが聞こえてくる。
「うおっ、すみませんちょっと音が大きすぎました…」
「いやいや上出来上出来」
程なくして、音を聞きつけたのか洞窟からゴブリンが姿を現した。
その数六体。
「計九体か、予想してたより全然少ないなー。
まだ残ってるのがいるかもしれないけど、あれくらいならやっとくか」
「わかりました…!」
「んじゃ、ちょっとしたらここから一発射ってね。
そしたらオレも突っ込むから」
それだけ言い、イビーは移動しようとする。
「ちょ、ちょっと待ってください!
その後はどうすれば…?」
「あー、初めに強く当たったらあとは流れで。
居場所が見つからないように移動しながら、柔軟かつ臨機応変に対応ヨロシク」
雑な指示を残し、姿を晦ませてしまった。
とはいえ考えてみれば、お互いのことをほとんど知らない。
ちゃんとした作戦を立てたとしても、まともな連携は難しいか。
気を取り直し、ルカは通常の矢を取り出した。
『人の形してるから抵抗あるかも』
イビーの言葉を反芻するが、今更だ。
あの場では言わなかったが、無意識とは言え既に人を殺している。
気持ちを整理し、弓を構えて息を吐く。
狙いは一番体格の良さそうなゴブリンの頭部。
息を吐き切ったところで、弦を離す。
放たれた矢は狙い通りの位置に突き刺さり、標的は吹き飛んだ。
ゴブリンの注意が矢の発射地点に向くと同時に、イビーが音もなく茂みから姿を現して疾駆。
「はっ!」
背を向けた群れの後方二体を斬り捨てた。
前後から攻撃されたゴブリンは完全に浮足立ち、動けずにいる。
このまま数を減らして終わり、そう思った矢先。
不意を突くように洞窟から大きな影が飛び出し、イビーに襲い掛かった。
側面から手に持った武器が振り下ろされるも、イビーは予測していたかのように後方へと跳躍して回避。
そのまま少し距離を取り、乱入者を見定める。
2m近い、ゴブリンとは思えぬ大柄な体格。
歪な斧と盾、あちこち破損している鎧で武装している。
そして他のゴブリンとは一線を画す圧力。
「戦士級ってとこか…
重役出勤とは羨ましい限り」
ゴブリンと言えど、このレベルになると上位の冒険者でも油断できる相手ではない。
取り巻きも含めると、その危険度は跳ね上がる。
戦士級が耳障りな咆哮と共に距離を詰め、右手に持っている斧を振り下ろした。
その一撃を左のククリで受け流しつつ踏み込む。
右のククリで逆袈裟に斬り上げるが、盾で防がれた。
勢いのままステップして左足を斬りつけ、側面へと回る。
瞬殺とはいかないものの、イビーは戦士級相手に苦戦する様子はない。
だがその戦いに、取り巻きのゴブリンが殺到する。
少数の人間がゴブリンと対峙した際の大半の死因がこのパターン。
上位種に時間を掛けている間に、取り巻きに囲まれて袋叩きにされる。
で背後のゴブリンがあと数歩という距離に到達した時、イビーが足で地面を強く踏み鳴らした。
それと同時に、ゴブリンが転倒した。
イビーは振り向きもせず、地に伏している首を跳ねる。
次に近づいてくるゴブリンも同じように、イビーの踏み込みと同時に転び、止めを刺される。
何もなかったはずの場所で転ぶ取り巻きを見て何かを感じたのか、戦士級はイビーから距離を取った。
よく見ると、地面に小さく不自然な起伏ができている。
盾を構えたままイビーの動きを警戒するが──
その後頭部に矢が突き刺さり、前のめりに倒れ込んだ。
イビーと戦士級の戦いの裏で、ルカは一体ずつゴブリンを仕留め続けていた。
自身が最後の一体だと気付かず、無防備に背後を晒した戦士級を仕留め、今回の仕事は完了となった。




