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遅めの親睦 後半

「そういえば魔術学校って結構生徒いるんでしょ。

 あたし魔術師ってほとんど見たことないんだけど、卒業したらどうしてるわけ?」


 ミリィはいつの間にか椅子に座り、完全にテーブルの輪に加わっていた。

 言われてみれば、平均的な生活を送る上で魔術師と直接関わることはほとんどない。

 絶対数が少ない上に、魔術師をそれと認識する機会もないのだろう。


「冒険者とか暗殺者、あとは徴兵された工兵だろ。

 ここに駐留してた騎士団にも何人かいたよな。

 無理やり開拓に動員されたのか、この世の終わりみたいなツラしてた青瓢箪が」

「オレは大抵人身売買されてるって聞いたけど」

「いつの時代の話だよ…

 今は色々厳しいし、表立ってそんなことしてるのはほとんどいないって」

「大体製薬とか鍛冶とかの、錬金関係の仕事に就くって聞きましたよ。

 だから直接魔術師~ってわかるような場面は中々見ないって」

「へぇー、魔術ってそんなことにも使えるんだ」


 以前、カティから理論型魔術について教わった内容を思い返す。

 魔術で現象を再現する能力は、主に『規模』『強度』『持続』の三点で評価される。

 理論型魔術は再現速度で感覚型魔術に劣る分、これらが優れているらしい。

 そしてその内の一つでも欠ければ、魔術として極度に不安定となり、不発に終わる。

 『規模』は現象の大きさ。

 『強度』は外部干渉に対する抵抗力。

 『持続』は術者の手から離れた現象の減衰率の低さ。


 通常では生成困難な物質でも、魔術で補助すれば手が届く場合がある。

 そういった方法で生成された物質の品質は、魔術師の実力に左右される。

 特に重要視されるのは『強度』と『持続』。


「そういやジャックんとこの薬も、アイツが作ってるんだっけ」

「ですね。

 僕も最近、たまに修行ついでに手伝わせてもらってます」


 正確に測定したわけではないが、ルカはその『強度』と『持続』が比較的得意らしい。

 村で製薬できる人間がジャックのみという状況に懸念もあり、修行がてら取り組んでいる。

 ちなみに以前ロザリーも挑戦したようだが、失敗続きだったという。

 感覚型は傷を治す、氷を作るといった現象をワンステップで再現する。

 そのため応用が利かず、錬金術のような分野は理論型の専売特許のような状態だという。


「さっきから他人事ですけど、イビーさんも魔術使えるんですよね?

 ゴブリン退治の時に使ってたやつ」


 接近してくるゴブリンが寸前で転倒した現象。

 恐らくその原因となった地面の起伏を魔術で起こしていたと予想していた。


「ん、お目が高い。

 けど残念、アレは魔術じゃなくて精霊の力を借りただけ」

「せ、精霊…?」


 降って湧いたスピリチュアルな単語に、呆気にとられる。

 イビーの緩い態度からは、真面目に言っているのか判断できない。

 笑い飛ばしていいものかどうか。

 ルカがさり気なく助けを求めて視線を向けると、アンディが応じた。


「イビーの出身はハザル族っていう、大地の精霊を信仰している部族なんだよ。

 僕も昔集落を訪れて話を聞いたことがあってね。

 精霊から認められた戦士は、その力を借りることができるらしい。

 まあ傍から見たら魔術との違いはわからないんだけど。

 あと念のため、他のハザル族は普通だから。

 こんな風なのはイビーだけだから」

「後半の説明必要?」

「要るだろ、お前以外のハザル族の名誉のために」

「で、そのハザル族っていうのは百年ほど前の境界拡張の際に開拓者と邂逅したらしくてね。

 当時は共通言語が通じなくて──」

「めっちゃ早口になるじゃん」

「おいアンディ、小難しい話やめろ。

 酒が不味くなる」


 アンディの暴走を二人が止めに掛かる。


 精霊の力を借りる、その真偽は怪しいものではあるが。

 魔術は術者の体のそばで発動させ、それを射出するか設置するかが基本となる。

 そして体から離れれば離れるほど、飛躍的に難しくなっていく。

 小規模な地面の起伏とはいえ、あれだけ離れた場所に一瞬で発動させるにはどれほどの技量が必要となるのか。

 それが仮に精霊によるものだとすれば、納得できる部分もなくはない。


「精霊ねぇ、あたしも初耳だわ。

 たしかハザル族の集落ってここから結構離れてるけど、ここまで出張してくれるわけ?」

「大地の精霊だよ、どこにでもいるって。

 むしろ地元は土地が痩せてるから、こっちのが元気なくらいよ」

「えー、本当に見えてるの?

 大きさは?

 どんな形してるの?」

「カァー、最近の若者は信心が足りん」


 失礼かと思って聞かなかったことを、ミリィが無遠慮に投げつけていく。

 イビーも慣れているのか、特に疑われていることに不快感を示す様子はない。

 そんな中、厨房からそろそろ店仕舞いだという女将の声が聞こえてきた。

 ミリィがいそいそと席を立ち、片付け作業に戻る。

 残ったメンバーも料理を平らげるべく注力する中、アンディが立ち上がった。


「僕は一足先にお暇させてもらおうかな。

 ルカはこれからイビーに付いて行動するっていうし、色々勉強させてもらうといい。

 精霊云々はともかく、能力は便利なものだから。

 言葉足らずなところもあるけど、案外頼りになるし。

 じゃあランツ、支払いよろしく」


 手をひらひらと振りながら退店するアンディに、ランツが舌打ちした。


「まーたあのオッサンに何かの賭けで負けたんか。

 絶対何かやられてるんだから、もう辞めときゃいいのに」

「そうもいかねえ。

 サマ見破って、これまでの負け分利息付きで返してもらわねえとな…!」


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