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苦労人友達

 カティの助手として、魔術師ギルドから同行してきたクヴィス。

 初日にアランダに来てすぐ、所用のためにルクシャーナにとんぼ返りしていた。

 その彼が、改めてアランダに到着。

 乗ってきた馬車には、追加の備品や嗜好品が積まれている。

 ルカはクヴィスと協力して積荷を運んでいるところだった。


「ルカがカテリーナ様の世話をしてくれているようで本当に助かったよ。

 そうじゃなかったら、過労で倒れていたところだ……」


 二人は初日に軽く顔合わせ済み。

 ルカがカティの下で教えを受けることになったのは、クヴィスが村を発った後。

 そのため、彼がその辺りの事情を知ったのはこの時が初めて。


「カテリ……?」


 聞き覚えのない名前にルカの動作が止まる。

 その反応でクヴィスは、自らの失態に気付く。


「あっそうだった……!

 ごめん、今のは忘れてほしい……」

「あー、うん。

 聞かなかったことにする」


 カテリーナはカティの本名だろう。

 本人が名乗らないものをわざわざ追求する気はない。


 記憶喪失からこの方、ルカは男友達を持ったことがない。

 ランツたちのように気軽に雑談できるような存在はいるが、年が離れている。

 そこに現れた同年代かつ同門のような存在。

 クヴィスも気さくな性格で、二人が打ち解けるのに時間は掛からなかった。


「それにしても君は幸運だよ。

 こんな場所でカティさんに師事できるんだから」

「その分コキ使われてるけどね……

 でもやっぱりすごい人なんだ」

「あの若さで、魔術学校で教鞭を執るほどの人だからな」


 確かに彼女の知識量は豊富で、聞けば大抵明確な答えが返ってくる。

 その説明も、前提知識のないルカでもすんなり理解できるくらいだ。


「その若さでそんな人の助手を務めてるクヴィスも、実はすごい人だったり?」

「いや、魔術学校卒業生の平均より上っていう程度の自負はあるけど……

 教師もその助手も、普通だともっと上の年齢で就くものだ。

 あの人の助手候補となった人は、自分より年少の下に付くことを嫌がった」


 カティがちらりと漏らしていたことを思い出す。

 魔術師ギルド、魔術学校での生活は息が詰まるようだったと。


「魔術学校の生徒はエリート意識が強いきらいがある。

 それも卒業前に大体は矯正されるんだけど。

 魔術師ギルドに加入して研究や教育に携わる人は拗らせたタイプが多い。

 結果として、学校を卒業したばかりの俺にお鉢が回ってきたのさ」


 村の一部では、彼女は年下の男を侍らせる嗜好があるのではと囁かれていた。

 そうではなく、こういう事情があったのだと伝えて誤解を解かなくては。

 主にミリィに。


「それでも栄進には違いないんじゃない?」

「まあ、最初の方は浮かれてたよ。

 上司も美人だったし、役得かなと。

 蓋を開けてみれば、さっき君も言ったようにコキ使われる日々。

 まさか身の回りの世話までさせられるとは。

 それに、とても手を出していいような女性じゃなかったし」

「はえー、苦労してんだねぇ……」


 滲み出る下心は置いておくとして、カティの人使いの荒さは身に染みている。

 魔術師ギルドの人間関係も相当面倒なようだし、心労もたまったことだろう。


「で、せめてオフで肩書を利用してブイブイ言わせてようと思ったらこんな村に……

 おっと失礼、住人の前で言うことではなかった」

「いや、当然の感想だと思うよ」


 ルカもここ最近で大都市に滞在する機会があった。

 色々と危険な目にもあったが、快適さは比べものにならない。

 その生活が当然だった都会生まれが田舎に飛ばされたら、それは不満もでるだろう。


「で、ルカはあの人から何を教わってるんだ?

 かなりすごいことも教えてもらったりしてるんじゃないか?」

「あー、うん。

 僕は完全に素人だからさ。

 入門用の本を貸してもらって、時々魔術を使うところを見てもらってるくらいだよ」


 ルカには一つ、カティから言い付けられていたことがあった。

 それは、魔術に関して見聞きしたことをクヴィスに漏らさない事。


 ルカが魔術を教えてもらう条件として、村人の魔術の開示があった。

 そのため軽々と話すつもりなどなかったが、助手相手でもダメらしい。


「それにしても、カティさんはクヴィスに対しては呼び捨てだよね。

 そんなに仲がいいの?」


 多少強引ながらも話題を逸らす。

 彼女は誰に対しても、ルカにすら敬称を付けて呼ぶ。

 現状その唯一の対象外がクヴィスだ。


「助手になってそこそこ経つからなぁ。

 仲はまあ、良い方だと思いたい」


 あれやこれやと雑談しながら作業を続け、最後の荷物をアトリエへと移動させる。


 クヴィスの話の端々から、改めてカティの身分の高さの片鱗を見た。

 思えば彼女の物腰の柔らかさと暴走振りから、随分と気安く接してしまっていた。

 だが、本来ならば軽々しく話しかけていい存在ではないのだろう。


「思い返せば、かなり失礼な態度取ってたかも……」

「ん、何か言ったか?」

「いやいや、ただの独り言」



「ふぃー、これで最後だ。

 手伝い助かったよ」

「どういたしまして。

 これからは二人で渡される仕事を分担していこう!」

「あー、いや、非常に心苦しいんだけど。

 多分しばらくはルカに任せることになると思う……」


 申し訳なさそうに俯くクヴィス。

 何故?

 そう問おうとしたところ、荷物運びが終わったことを察したカティが声を掛けてきた。


「お二人とも、ご苦労様。

 それとクヴィス、この資料を確認しておいて。

 明日一日体を休めたら、またルクシャーナまで行っていただきますので」


 ほらな?

 そういった疲れた表情で、ルカに目配せをした。


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