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麗しきお茶会

「お待ちどおさま」


 ミリィが三つのカップに紅茶を淹れ、それぞれに配る。

 ロザリーも食器の用意を終えたところだった。


「ごめんなさいね、ゲストのお手を煩わせてしまって」


 カティのアトリエにて。

 室内にはルカの姿が見えず、客人であるミリィとロザリーが雑事をこなしていた。

 当のカティが動かないあたり、お嬢様が堂に入っている。


「いいのいいの、気にしないで」

「ご馳走していただく側ですから」


 準備が完了したため、二人も席に着く。


 今日は女子会という名目の集まり。

 参加者はカティ、ミリィ、ロザリーの三人。

 カティは助手のクヴィスに、魔術師ギルドからの帰りに菓子を買ってくるよう言い付けていた。

 その戦果たる果実酒漬けフルーツケーキがテーブルの上に鎮座し、それぞれに切り分けられる。


「う~ん、美味しい」


 大きなケーキの塊を頬張るロザリー。

 カティは診療所での一件後、ルカの治療箇所について観察を続けていた。

 結果、徐々に魔素の反応が消えていき、一週間ほどで違和感がなくなったという。

 魔術で補完した細胞が、体に適応したのだろう。

 小さな傷しか治せないのが惜しい。

 そうでなければ、経過毎の細胞を採取して詳細な調査もできたろうに。

 それ以来、時間のある時に度々診療所を訪れている。

 ジャックやロザリーと親睦を深めつつ、二人が魔術を使う場面に立ち会うため。


「こんな村じゃ、ちゃんとした甘い物なんて滅多にありつけないからねぇ……」


 一方ミリィは大事そうにちびちびとケーキを突いている。

 この時代、甘味料は貴重品である。

 アランダでも養蜂を営んでいるが、菓子に使うのは祝い事くらいのもの。


 ミリィは借金の都合でこの村にいると話しているが、それは建前のようだった。

 カティの事前調査から判断するに、彼女は前メニーゼフ領主の内偵の可能性が高い。

 とはいえ連絡役に近い立場と思われるので、そこまで警戒の必要はないはず。


「ナーシュ様も誘ったのですが、袖にされてしまいました。

 なのでケーキは余っていますし、遠慮なくおかわりしてくださいね」

「袖にねぇ……。

 そういえば、この前ランツにも塩対応されてたように見えたけど。

 何話してたの?」

「それは彼の能力を体験させていただけるようお願いした時でしょうね。

 どういう原理か知りたかったのですが、取り付く島もなく断られてしまいましたわ」


 本人は魔術を使えないらしいが、ならばどうやって魔術を無効化するのか。

 恐らく遺物によるものだろうと考えていた。


 遺物は聖遺物と異なり、由来不明ながら今の技術で再現できない特殊能力を持つものを指す。

 大抵が旧時代の技術の粋、魔族に対抗するために作られた装備だと考察されている。

 カティは遺物そのものに興味はないが、魔術に絡むものであれば話は別。


 昔、この辺りの開拓のために複数の遺物が持ち込まれたという話を聞いた。

 だが、カティは村でそれらしきものを見かけていない。

 騎士団の撤収と共に引き上げられたのだろうか。

 だとすれば、ますますランツの能力をこの目で見たかったのだが。


「ランツさん、結構親身になって話を聞いてくれる人だと思ってたんですけど」

「あれは変なとこで体育会系だからねぇ。

 体を張るようなとこ見せないと信用してくれないの。

 だから、あんたやルカへの態度が珍しい方なんだよ。

 第一印象が良かったんじゃないの?」


 ミリィの言う通り、カティはこの村に来て日が浅い。

 そして、この場にそぐわない上品な振る舞いが村人との距離を遠ざけている。

 まずは距離を縮めるところからだろう。



 そのまま話題は色々と移り変わり、あることないことで盛り上がっていく。

 そして話題は恋愛事情に。


「ではロザリーさんは、リミエヌルでお二人に助けていただいた形になるのでしょう。

 どちらかにときめいたりはしなかったのかしら?」

「え?

 うーん……」

「なははは!

 ま、まああの二人じゃ、乙女心には響かないよねぇ」


 ロザリーの言い淀みは、この場にいない相手を傷付けない答えを模索するもの。

 つまり脈無しだ。

 それを見て何がツボに入ったのか、ミリィが大笑いしている。


「ランツは女の子への気遣いなんて出来そうにないし、ルカは草食系ってレベルじゃないし。

 ちょっとカッコイイとこ見せられたって、異性として意識するのは難しいんじゃない?」

「そういうミリィさんはどうなんですか?

 例えば……ギアースさんとか!」

「はぁ~、話題逸らすならもうちょっと考えてよね。

 どんだけ年が離れてると思ってんの」

「あら、恋に年の差なんて関係ありませんわ」

「だとしても、ギアースさんはないって。

 パワハラ上司みたいなもんだよ、日頃から細かいことをグチグチ言われてさぁ」

「じゃ、じゃあカティさんは?

 助手の人といい感じだったりしないんですか?」

「クヴィスとはそんな関係ではありません。

 それに、彼は少々軽薄な人物なので。

 お二人も気を付けた方がよろしいかと」

「だろうね、今朝ナーシュさんに粉かけて返り討ちにされてたよ」


 頭を抱えそうになるカティ。

 戻って来て早々、何をやっているのか。

 監督不行き届きとして印象が悪くなりかねない。

 後で注意する必要がある。


「そ、それにしても。

 この村の殿方は、女性との縁があまりないようですわね」

「女性の絶対数が少ないですからね。

 若い人も、子供を除けば私たちとレジーナさん以外はみんな所帯持ちですし」

「いやぁ、案外村の外に関係持ってる人もいるんだよ。

 フリーが確定してるのはランツと先生かな。

 ランツは前に色街で病気もらって死にかけてから、右手で十分って日和っちゃったし。

 先生はなんかまあ……人体弄って満足してそうだよね」


 男女問わず施術後の妙に満足気な顔を思い出し、二人ともミリィの言に納得してしまう。


「ではルカさんは?

 とても外の女性と交友があるとは思えないのですが」

「あれはどうなんだろうね。

 そもそも年に比べて華奢だし、本当についてるのかな」

「小さいけど、ちゃんとついてましたよ」

「え?

 ああ、ロザリーは何回かルカの看病してたんだっけ。

 次からはもうちょっと、オブラートに包んであげてね……」


 ロザリーの堂々とした物言いに、言い出しっぺのミリィの方が赤面している。


「彼は男性と二人で行動することが多いのですよね?

 もしやその流れで、頼りがいのある先達に惹かれて男の方と……なんて」

「え?

 えぇ?

 ええぇ~……?」

「何を言うかと思えば……

 なるほど、そういう解釈もアリかもね」




 それからしばらくの間、三人から妙な視線を感じるルカだった。


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