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魔族に関するレポート

魔族に関するレポート


──著者 匿名


本報告は、これまでの観察および伝聞に基づき、魔族の性質について整理した内容から一部を抜粋したものである。

未解明の点も多く、内容の一部には推測が含まれることを留意されたい。


■定義

 一般に魔族とは、魔力によって構成、あるいは強化された身体を持つ生物を指す。

 魔術を使用する生物を魔族と呼ぶ例も見られるが、これは厳密には誤りである。


■分類

 魔族は大きく以下の二種に分類される。


 ・魔獣

  人型以外の個体の総称。

  名称に「獣」とあるが、哺乳類に限らず、多様な生物群が含まれる。


 ・魔人

  人型の魔族。

  外見のみならず、行動原理においても魔獣とは明確な差異が見られる。


 現在確認されているのは、通常の生物が魔獣に変容する事例のみである。

 生殖機能については要検証。

 分布状況から推察するに大型、または知能の高い生物ほど変容しにくい傾向があると考えられる。


 なお、魔人の発生過程については直接の確認例がない。

 人間由来であるか否かを含め、検証が必要である。


■共通特性

 ・身体の損傷は魔力消費により短時間で修復される

 ・ただし修復には限界があり、与えた損傷は確実に消耗を強いる


 個体差として、以下の傾向が見られる。


 ・身体強化型

  高い硬度と膂力を持つが、魔術の使用は稀で、身体損傷時の消耗が大きい

 ・魔術偏重型

  強力な魔術を使用するが、肉体的耐久と継戦能力は相対的に低い

 ・バランス型

  上記二種の中間


 また、一部の個体は生態に応じて身体構造を変化させている。

 特に魔獣は外見から原型となった種の判別が困難な場合も多い。

 魔人以外を魔獣と一括りにする一因にもなっている。


■急所

 ・頭部

 ・頸部

 ・心臓部


 上記部位を破壊することにより絶命、あるいは活動不能に至らしめることが可能。

 ただし頭部から胸部にかけての防御が特に強固な個体が多い点に留意。


■危険性

 魔族は人間に対して極めて敵対的であるが、それ以上に特定の機械に対して強い反応を示す。

 数km離れた位置からでもその起動を察知し、最優先で破壊行動を取る傾向が確認されている。


 一般に体躯の大きさに比例して危険度は増す。

 ただし、体内の魔力量および濃度にも依存するため、目安程度に留めるべきである。

 一時的に複数の個体が一ヶ所に集まることがあるが、群れを形成した例は現在まで確認されていない。


■魔獣の特性

 ・行動や行使魔術は単純だが強力

 ・知能は元の生物に依存

 ・排除対象に対し、死亡するまで攻撃を継続する傾向


 損害を無視する前提であれば、有効打を与えられずとも人海戦術による消耗戦が可能である。


■魔人の特性

 ・純粋な性能は魔獣に劣るが、戦術行動を取り、多様な魔術を使用する

 ・人間と同様かそれ以上の知能を有する

 ・消耗時には撤退行動を選択


 以上から、討伐には綿密な計画と準備、そして有効打を与えられる戦力が必要となる。

 体格は人間と大差ない場合が多い。

 行動の厄介さと結果的に被る損害から、大型魔獣に匹敵する脅威と見なすべきである。

 個体数は極めて少ない。


 なお、言語に類似した発声を行う個体も報告されている。

 意思疎通が成立した例は確認されていない。


■付記(素材価値)

 ・爪、牙、皮、骨などは死後も特性を保持し、高値で取引される

 ・一方、肉や内臓は肉質が硬く、魔力の保持も難しいため価値は低い


 肉について、魔素濃度の高い環境下であれば魔力の保持も不可能ではない。

 一部地域では好事家を対象とした食材として扱われる例もある。

 ただし、人間が魔力を直接摂取した際の明確な効果は確認されていない。



─────────────────────────────────────



「いつもすまないね。

 こんなこと頼めるのはあんたくらいだからさ」


 日が完全に落ちた頃。

 教会宿舎の裏手で人目を避けるように、二人の影が動いていた。


「どうってことねえよ。

 俺も、あの人には世話になった口だからな」


 先導するエルディナに続き、大荷物を担いだボロルマが歩いて行く。

 運んでいるのは、数刻前に討伐された鹿の魔獣の肉。

 有用な部位を剥ぎ取られた価値の低い残滓は、基本的に村から離れた地中に埋められる。

 ボロルマはそうなる前に可食部を確保し、定期的に教会へと持ち込んでいた。


 教会関係者用の小さな氷室に肉を放り込み、ボロルマは腰を叩く。

 この肉は後々、酒場の女将に頼んで調理してもらうことになる。

 ナーシュに提供される料理に紛れ込ませ、口にしてもらうように。


 彼女はこの地に留まっていれば徐々に体調が回復するが、それは微々たるもの。

 魔獣の肉経由で魔力を摂取すれば効率が良いが、本人が頑なに忌避する。

 食えたものではない、食という数少ない楽しみを奪う気か、と。

 それでもその体調を思えばこそ、こうした回りくどい手段を採っている。


 当初は料理に一家言ある女将を説得するのに苦労したものだ。

 こんな硬い肉なんぞ調理できるか、と。

 それを何とか説得し、こうしてサイクルを回している。


「お疲れ様。

 ちょいと良い葡萄酒が手に入ったんだけど、一杯どうだい?」

「あんたからのお誘いとは珍しいな。

 ここらの葡萄酒にも散々文句言ってたはずだが」

「あの方や新入りに狙われてて、目を離すとすぐに搔っ攫われちまうからね。

 それに、この辺で作られる葡萄酒も、慣れれば悪くないもんさ」


 この肉を酒場に持ち込めば、女将からまた容赦ない嫌味が飛んでくる。

 それを一旦忘れ、今夜は二人して酒に浸る。




「女将、今日も異様に筋張った肉が混じってるんだけど……」

「あん?

 今日の下拵えは完璧……ああ、ナーシュじゃないか。

 悪いね、多分ギアースがヘマしたんだろ」

「彼の事情はよく知ってるから強くは言えないけど、責任者としてチェックが必要と思うんだけど。

 こんな初歩的なミスで店の評判を落とすのも不本意だろうし」

「ぐっ……気を付けるよ……

 ただ、全部ダメなわけじゃないだろ?

 お代はいらないから、悪いけど平らげとくれ」

「いや、料金はちゃんと払うけど……

 はあぁぁ……

 わかったよ、全部食べるよ……」


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