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魔術の基礎

「紅茶を淹れていただけるかしら。

 貴方の分もね」

「わかりました」

「終わったら、黒板をこちらへ移動させてください」


 村の元物置、もといアトリエに帰還。

 ルカの三日間に渡る粉骨砕身の働きで、中はすっきり片付いている。

 その後も何度か呼び出され、簡単な日常のサポートまで行っていた。

 ルカも魔術について看てもらっているため、それを負担とは感じてはいない。

 むしろ、新しいことを学べるいい機会だと考えている。

 紅茶の淹れ方も、柔らかくも厳しく指導され、ダメ出しされない程度には上達していた。


「どうぞ」

「ありがとう、貴方もお掛けになって」


 カティは差し出した紅茶を一口味わい、黒板に向き合う。


「では先ほどのことですが。

 貴方は魔術について全く知識がないとのこと。

 簡単にでも、一から説明した方がよろしいと思いますが、如何かしら」

「よければ是非、お願いします」

「では、本当に必要なところだけ……

 魔術を行使するために必要なステップは三段階。

 一つ、空気中に存在する魔素を取り込むこと。

 二つ、体内に取り込んだ魔素をエネルギーへと変換すること。

 三つ、そのエネルギーを利用して、目的の現象を起こすこと」


 口で説明しながら、黒板に簡単な図を描き込んでいく。


「二つ目の変換する力が、魔力と呼ばれます。

 体の消化力や吸収力に似たものと考えられ、当然個人ごとに差があります。

 ここで言われているエネルギーですが、魔術師ギルドでもあまり原理を解明できておりません。

 現状では、生成した主の意思に応じて、都合よく動いてくれるもの、とだけ」


 随分と都合のいいエネルギーがあったものだと思いながら。

 その説明を受け、以前聞いた話と齟齬があることが気になった。


「あの。

 以前に別の人から聞いた話では……

 変換したエネルギーのことを魔力と呼んでいたようなんですが」


 初めて外界へと潜り、魔獣に遭遇する前後で聞いた話だ。


「あら、世間ではそう認知されているのかしら。

 私の説明は、魔術師ギルドでの決まりごとに過ぎません。

 どちらが正しいかは置いておくとして、この場では説明した内容で進めますわね」

「わかりました。

 すみません、話の腰を折って」

「いいえ、そういった情報は魔術師ギルドとしても役立つものです。

 今後も忌憚なく述べてください。

 では話を戻して。

 生み出したエネルギーの用途は二種類。

 新たに何かを『生成』することと、元ある物を『操作』すること。

 先ほどの燃焼でいうなら……

 火を起こすための熱エネルギーは『生成』、空気中の可燃物や酸素を集めるためには『操作』していたわけですわね。

 そうして、通説の『現実に起こりうる現象の再現と操作』を行っていくことになります。

 結果だけ見れば、貴方は生成が得意で、操作は苦手なのかしら」


 直前に実践した内容になぞえられた解説で、すんなりと頭に入ってくる。


「ここまでが魔術そのものに関する初歩中の初歩、必要最小限となる説明になります。

 何かご質問は?」

「大丈夫です」

「では、ここからは魔術で目的の現象を起こす方法について」


 ここまで黒板に書いていた内容を消し、新しく書き始める。


「まずは、先ほどの後半。

 燃焼の三要素に沿い、それぞれを再現した後に組み合わせて火を起こしました。

 これは工程を分け、それぞれ細かくイメージすることにより、精度を向上させる方法になります。

 事実に基づいた手順で、それぞれの現象を確実に発生させていく。

 何より、自分自身で納得しやすいのがポイントですわね」


 事前に渡された二冊の、化学と錬金術に関する本。

 言われたように、それを熟読したことにより原理を理解し、そうなることが正解だと思って魔術を使っていた。


「そして前半、貴方が上手くできなかった方法。

 これは、結果だけを注視、イメージして現象を発生させようとする方法になります。

 すると、省略された過程を埋めるようにエネルギーが動き、結果へと向かって細かく現象を起こしていく。

 これは理屈など不要。

 必要なエネルギー量と、その現象を起こせるという、確固たる自信とイメージがあれば成立します」

「ちょ、ちょっと待ってください」


 ここまでの内容は、何の疑問も沸かずに理解できていた。

 だが、今の話は流石にそういうものなのかと流すことが難しい。


「自信とイメージって、それだけで魔術を使えるんですか?」

「現に、貴方は以前、魔術も、化学や錬金術も全く知らない状態で、魔術を使えていたのではなくて?」

「それは、そうですけど……

 でもそうだとしたら、何でもありじゃないですか」

「説明した通り、当然限度はあります。

 魔力で生み出せるエネルギー量、個人の資質、そして件の自信とイメージ。

 例えば、嵐を起こせと言われて、起こせる自信がありますか?

 その規模の全てを、鮮明にイメージできるでしょうか?

 仮にエネルギーが十分だったとしても、個の人間には限界があるのです」


 確かに、以前の自分は何も考えず、結果だけイメージして魔術を使っていた。

 そして、それは細部までイメージできる、規模の小さいものだった。


「あなたは魔術と向き合った際、小さくない疑問と不安を抱いてしまったのではないかしら。

 魔術を使えるようになった原因がわからないこと。

 その何もわからない力を、これから上手く使っていけるのか。

 その上達方法も何もわからない。

 そういった感情が、貴方の自信とイメージに影を落とし、スランプとなったのでしょう」


 当たっている。

 何故か使えるようになった力の、バックボーンのなさ。

 母から聞かされた危険性、その力を使うことへの抵抗、不安。

 使い続けるうちに襲ってくる頭痛。

 感情的には納得しきれていない部分もあるが。


「魔術の行使方法について、ここでは便宜上、前者を理論型、後者を感覚型とでも呼びましょうか。

 もちろん、その双方に強みと弱みがありますが、今回は割愛します。

 さて、私の今回の話はこれまで。

 何かご質問は?」

「今回の件とは関係ないんですけど、一つ気になることが。

 魔術の詠唱についてなんですけど、必要ないんでしょうか?」


 以前、修行の一環で手を出して無駄に終わった経緯がある。

 今回の説明でも、一切話が出てこなかったが、それなら魔術学校で見た光景は何だったのか。


「詠唱ですか。

 あれは、目的とする現象の詳細を、それらしく文字に起こしたもの。

 つまり、基本的には理解の浅い初心者にも原理を連想させ、魔術を使うという雰囲気に浸ってもらうための導線ですわ。

 補助的なもので、慣れた方にとっては大きな意味はありません。

 副次的な効果もあり、それを目的として用いることはありますが……

 それは少々踏み込んだお話になるので割愛させてくださいね」

「そ、そうですか……」


 ルカの肩が落ちる。

 詠唱を試みた時、効果に疑いの目を向け、その言葉の意味を意識せず、恥ずかしさを堪えていた。

 全く効果がなかったのもさもありなん。


「今回の説明については大丈夫です。

 長時間、わかりやすいご説明ありがとうございました」

「重畳。

 ではこれで、あなたの障害について取り除けたわけですが」


 そうだ。

 これで、ルカの魔術を看るという約束は終了になる。

 あとは自力で進んでいくしかない。


「貴方さえ良ければ、今後も私の元で学んでみませんこと?」

「……え?

 いいんですか?」


 予想外にして望外の提案に、ルカは目を丸くした。


「貴方は筋が良さそうですし、今回程度のことを教えたくらいで放流するのも気が引けます。

 もちろん、時間に余裕のある時にしか看れませんし、代わりとして引き続き雑用をお願いすることになるけれど」

「ありがとうございます、是非お願いします!」

「ええ、こちらこそ。

 今日はもういい時間ですし、ここまでにしましょう」



 その帰り、ルカは午前の巡回の報告のために冒険者ギルドへと立ち寄る。

 その対応したミリィが、ルカの様子に茶々を入れてきた。


「何、ご機嫌じゃない。

 またあの人の所に行ってたの?

 あんたって、ああいうのがタイプなんだ」

「な、何言ってんの!?

 そういうんじゃないって、カティさんに失礼だよ。

 修行が順調なだけだし」


 全くの見当違いなのだが。

 その反応を見て、ミリィはニヤついている。


「ふーん。

 その割には、似たタイプのナーシュさんには反応しないよねぇ」

「人の話を全く聞いてる?

 それに、性格が違いすぎる。

 ナーシュさんは……ちょっと変じゃん」

「だったらレジ姉は?

 年上だし、ちゃんとコキ使ってくれるよ」

「もうわかってて言ってるでしょ。

 そういう趣味はないし、レジーナは性格がアレすぎ」

「わかった、二人に会ったら言っとくから」

「ミリィさん、勘弁していただけませんか……」


 浮かれた顔をミリィに見られないこと。

 疲れた状態でミリィの戯言に付き合わないこと。

 今後、この二つを徹底しようと心に誓うことにした。


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