スランプ脱出の一歩
ルカが先日渡された二冊の本を暗記……とまではいかずとも、熟読し終えた翌日。
実際に魔術を使うため、カティと共に村の西にある、木々に囲まれた小さな広場にやって来ていた。
「貴方は火の魔術を使っていたそうですわね。
まずは、これまで通りにそれを実践してください」
指示に従い、右手の人差し指を立て、その先に火が燃えている状態を思い描く。
数秒集中してイメージを膨らませて、溜めた力を解き放つ。
ボボッ……
火は発生したが、不安定に揺らめき、三秒も持たずに消えてしまった。
「すみません、今はこんな状態です……」
「わかりました。
詳細は後程ご説明しますが、今の貴方の魔術の使い方は少数派のもの。
それが貴方に合わなくなりつつあるため、現状に至っています。
ここからは、一般的な方法について実践してみましょう。
まずは、お渡しした本の内容についての確認です。
燃焼の原理については頭に入っているかしら」
「はい。
えっと……燃焼の三要素、可燃物と酸素と熱。
可燃物を加熱して分解されたガスに酸素が反応して、熱と光が出る現象……でしたっけ」
良くできましたと、カティが小さく拍手する。
彼女の言う通り、火の魔術を元々は使えていた。
そのため、興味を引かれたこともあり、燃焼についてはしっかりと記憶に定着していた。
「では……ルカさん、そこの枝を拾っていただけるかしら」
指示された枝を拾い上げる。
何の変哲もない、この辺りに群生しているアルド樹の枯れ枝。
「この時点で貴方の手に、可燃物と酸素が揃ったことになります。
可燃物はその枝、酸素は空気中に散らばっているものですが。
ということで三要素の最後、熱を魔術でその枝に発生させ、枝が燃えることをイメージしてください」
言われた通り、枝の先端に熱を起こすイメージを発現させる。
着火。
今度は可燃物という下地もあり、安定して燃え続け、枝が徐々に炭に変わっていく。
とはいえ、やり方は異なるがこの程度はスランプ後でもできていたことだ。
「よろしい、その火は消してください。
次は少々難しくなりますが、魔術で可燃物を用意してみましょう。
今回は空気中の塵、水蒸気、微粒子を指先に集めるイメージで」
見えないものをイメージしろと言われても、中々難しい。
とりあえずは、当てずっぽうに近い感覚で挑戦してみる。
「……やってみました」
カティが近付き、懐からマッチを取り出して火を点け、それを指先に近づける。
ルカの指先にはなんの反応もない。
「流石に難しかったかしら?
色々と試行錯誤しつつ、続けていきましょうか」
「はい」
目に見えず、存在を知覚できないほど小さな対象を集めることに四苦八苦しつつ。
そこからカティの助言を受けながら、見方と考え方を変えつつ挑戦すること十数分。
「おお」
ようやく、マッチからルカの指先へと火が燃え移った。
マッチの火と同程度の小さなものだが、安定して燃え続けている。
「大丈夫そうですわね。
ではこのまま、同じ要領で酸素を集めてください。
可燃物は維持したまま」
言われた通りにする。
可燃物の集約でコツを掴んだのか、徐々に効果が現れた。
小さかった火が、少しずつ大きく燃え上がっていく。
「はい、解除。
これでパーツは揃いました。
後はそれを組み合わせて、一から火を起こしてください」
可燃物を用意。
酸素を集約。
熱を生み出す。
「うわわ……」
三つの手順を踏むのにかなりの時間は要するものの、その成果として出現した火は大きく、安定していた。
それを見て、カティはにこやかに拍手をする。
「こちらの方法も向き不向きがあるのですが、貴方の性にあっていそうですわね。
今は一つ一つに時間が掛かっていますが、理解と練度を高めれば改善していきますわ」
「あ、ありがとうございます……!」
これまで数ヶ月、足踏みどころか悪化していた魔術の修行。
それが一からやり直しになるとはいえ、一週間程度で解決した。
さらには明確な上達の余地もある。
ルカの心中には、久方ぶりに光明が差していた。
「それで、先ほど言っていた、魔術の使い方の種類?についてなんですけど」
「ええ。
けれど、ここでは解説に集中できませんわ」
「あ、はい。
このまま物置にお邪魔させてもらっても大丈夫でしょうか?」
「……あそこはお借りしている建物ですが、今は物置ではありません。
アトリエとでも呼んでくださるかしら」
「す、すみません、気を付けます……」




