表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/69

各々の事情

 診療所から少し離れた場所に、ナーシュを待つ人物がいた。


「だいぶ暴れてきたようですね。

 貴女が村の外に出るとは、どういう風の吹き回しですか?

 それも無断で」


 声を掛けてきたのはジャック。

 その言葉には非難めいた含みがあった。


「どうって?

 村の害になるような連中を放っておけないし、先遣の失敗が伝われば逃げる可能性もある。

 私一人で十分だから行ってきただけだよ」


 そんな言葉などどこ吹く風、当然のことをしただけだと言わんばかりのナーシュ。

 ジャックは首を振り、肩をすくめた。


「一人くらいは連れてきてくれないと困るんですよ。

 色々と尋問する必要があったでしょうに」

「大抵の事はこの前の男から聞けたはず。

 私の方でも、この辺りに他に仲間がいないことは確認してきたよ」

「彼らがそう簡単に吐くとでも?」

「確かに真実を聞けた保証はない。

 けれど、例え敵でも、それが外道だとしても、人として守られるべき尊厳はある。

 久しぶりだからか、君は羽目を外しすぎている。

 その趣味は周りに気取られると困るだろう。

 程々にしておくことだよ」


 ナーシュは諭すように、静かに反論する。

 そう言われ、ジャックは両手を上げた。


「仰る通り、重々承知していますとも。

 私も貴女も、理由は違えどここ以外ではまともな生き方ができない身ですからね」


 その降参とも取れる言葉を受け、にわかに張りつめていた空気が収まる。


「もう一度聞きますが。

 貴女がわざわざ出向いたこと、妙な意図はないんですね?」


 出だしのような皮肉交じりではない、真っ直ぐな問い。

 それに対してはナーシュも誤魔化す気を起こせず、真摯に答える。


「申し訳ないが、後ろ暗いことがないわけじゃない。

 だけど、皆の不利益に繋がるようなことではないと誓うよ。

 君も言った通り、ここ以外で生きていくのが難しいからね」


 ナーシュは会話を打ち切るように歩き出し、ジャックの横を通り過ぎていく。



「ナーシュ様」


 ジャックと別れ、村中央へと歩を進めるナーシュに再び声がかかった。

 珍しく顔を顰めたナーシュが、その主へと向き直る。


「改まった態度はやめろと言ったはずだよ、エルディナ」


 視線の先には、村のシスターであるエルディナが畏まっていた。

 普段のざっくばらんな態度は鳴りを潜めている。


「人目はないので問題ないでしょう。

 それよりも、何故貴女自ら曲者駆除へと出向いたのですか?

 御身が目的だとしたらどうするのです」

「だからこそ、自分で行ってきたんじゃないか。

 あの反応から察するに、取り越し苦労だったよ。

 それに、今の私が人間相手に遅れを取るはずもない」


 遭遇した時のリアクション。

 ナーシュを目的として動いていたのだとしたら、あまりにも淡白な反応だった。

 最期の尋問でも、怪しい受け答えは見受けられなかった。

 その報告に、エルディナは大きなため息を吐く。


「次回からはご自重ください。

 お体に差し障りはございませんか?」


 その過干渉にはげんなりするが、何度窘めても直らない。

 一応はナーシュの身を案じてのことなので、そこまで無下にもできない。


「診療所にロザリーが来てからジャックも余裕が出来たのか、最近は調子がいい。

 だから心配は不要だ」

「まあ、あの不器用な娘がお役に立っているのですか。

 世の中、何があるかわからないものですね」

「酷い言いようだね……

 私以外にも良くなったという人は多いよ。

 まあ、久しぶりに外に出て気分転換にはなったけど、流石に消耗は少なくないかな。

 ギルドで一休みするよ。

 君も油を売ってないで、仕事に戻るんだね」


 小さく伸びをして、再び村中央へと歩を進める。

 エルディナはその背を、お辞儀をしたまま見送った。




 診療所周辺の出来事とほぼ同時刻、冒険者ギルドの二階。


「結局、あいつらはハーシリムだったのか?」


 尋問の結果確認のため、ランツが村長の元を訪れていた。


「恐らくな。

 教育が行き届いてて、知らない奴とは話したくないって頑固でよ。

 最期には仲良くなれて喋ってくれたが、確度は怪しいと言わざるを得んな。

 できればもう一人、お友達を連れて来れればよかったが、ナーシュがすっ飛んで行っちまった」


 ナーシュは今回のようなやり方に不満を持っている。

 拠点強襲の際も、尋問は早々に終わらせただろう。

 だが、ランツはその気持ちを理解できなくはなかった。

 自分が相手の立場でここの尋問を受けることを想像すると、背筋が寒くなる。

 もう命はないが、残党は彼女の慈悲に感謝すべきだ。


「で、目的は?」

「周辺の注意をここに向けるってことらしい。

 資源の強奪とかはそのおまけだな。

 近々、他所で何か動きがあるかもしれん」


 つまりはただの目眩し。

 ナーシュが聞き出した、他の仲間はいないという話とも矛盾がない。


「それにしても、ルカがあのレベル二人相手に相打ちとはな。

 何が起こったんだ?

 あんたの事だから、ルカとロザリーについては調べ終わってんだろ」


 この村で過剰な詮索は御法度とされている。

 だが、トラブルを避けるため、村長は入植時に背後関係を徹底的に洗っていた。

 明確な悪意を持った入植者を排除するため。


「ルカについてはっきりしたことはわからん。

 だが、あいつの村の状況と周囲で起きた事件を突き合わせれば、予想はできる。

 けったくそ悪い話だ、知らん方がいい」


 そして視線を切り、手元にあった書類に目を通し始める。

 それ以上話す気はないという意思表示だった。

 その意を汲み取り、ランツは部屋を後にする。



 当初、周辺の盗賊駆除については、村に居合わせた冒険者にも依頼として協力を仰ぎ、広範囲で行う想定だった。

 だが、今回のように別の手練れが潜んでいた場合に備え、少数精鋭で一つ一つ潰していく作戦へと変更された。

 そのメンバーが、村北側の入り口に集っていた。

 ランツ、アンディ、ジャックの三人だ。

 ジャックが大きく伸びをした後、他のメンバーに話しかける。


「うーん、内側への外出は久しぶりですよ。

 お二人共、よろしくお願いしますね」

「ちゃんと話は通してあるんだろうね?」

「村長の許可は得ています。

 診療所には優秀な助手がいますし」

「情報収集も大事だが、あんまやりすぎんなよ。

 こっちが気分悪くなるからな」


 偵察、戦闘、情報収集の三点を考慮したチームだった。


「にしても、むさ苦しいチームだねぇ……

 もうちょっと人選何とかならなかったの?」

「じゃあレジーナさんも連れてきますか?

 貴方が土下座してお金を積めば、同行してくれるかもしれませんよ」

「それは勘弁して欲しいね……」


 ジャックのからかい交じりの提案を、アンディは全力で拒否した。


「くっちゃべってねえで、準備が出来たらとっとと行くぞ。

 アンディ、一つ目はどっちだ?」


 締まらない雰囲気の中、盗賊駆除作戦が開始された。

 三日も経つ頃には周辺から盗賊はほぼ一掃され、しばらくは他所との交易が活性、快適なものとなる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ