予想外の見舞い
ルカが入院してから、親しい人間が見舞いに訪れた。
それから数日後、暇を持て余している彼のもとに、意外な人物が訪れる。
「やあ、調子はどうかな」
ナーシュだった。
見舞いというには日が経っている。
ルカの反応を待たずにベッド横の椅子に座り、話を始めた。
「遅くなってすまないが、今日はお見舞いと謝罪と御礼と報告に来たんだ。
これ、林檎」
用件が多い。
お見舞いはわかるとして、残りの三件は何なのか。
「まずは謝罪。
今回の件は、村の周りに居付いた盗賊の駆除を怠っていたことが一つの原因と思う。
ここ最近忙しかったとはいえ、君の怪我は我々の怠慢が招いた結果だ。
申し訳ない」
そう言って、深く頭を下げた。
「いえ、そんなことないですって!
僕が前もって忠告されたのに、軽率な行動したのが悪いんですよ」
「うん、そうだね」
コロリと態度が変わり、頭が上がる。
やはりこの人物との距離感を掴むのは難しいと感じる。
「次は御礼。
あの二人の不届き者を撃退してくれて、感謝する。
戦士と魔術師の二人組だったようだ。
遭遇したのが他の人間、ボロルマだったとしても危うかっただろう。
よく生き残ってくれたよ」
撃退?
そんな記憶はない。
一方的にやられて気絶しただけだ。
だが……そうなった心当たりはあった。
そんなルカの反応を見て、ナーシュも首を傾げる。
「ん?
捕まえた男が君にやられたと言ったらしいけど、違ったかな」
「……足を切られて気が気じゃなくて、記憶が曖昧でして」
「なるほど。
で、最後の報告。
奴らの拠点について、捕まえた男が口を割ってね。
昨日潰してきた。
そこにいた頭っぽい奴にも聞いたけど、付近には他に仲間はいないらしいから安心していい。
その他の盗賊についても、その内大掃除が始まるはずだ」
そこまで言うと、用件は終えたと言うように立ち上がり、踵を返す。
呆気に取られながらも、その背に礼の言葉をかけるが反応はない。
ナーシュが診療所を出て行って少しの静寂の後、ロザリーが近寄って来た。
「あの人、怪我人が出ると毎回お見舞いに来るんですよ。
今回はさっき言ってた件で遅かったみたいですけど。
教会にもよく顔を出して、子供たちの相手をしてくれるんです。
フフッ、意外とこまめですよね」
ロザリーの言葉と笑顔に、気分が落ち着いてくる。
近寄りがたい雰囲気を感じていたナーシュだが、そんな一面があるとは。
「……時間があれば、ちょっと、つまんない話を聞いて欲しいんだけど」
「はい、大丈夫ですよ」
言うべきか迷っていた話だが──
先ほどの話もあり、誰かに聞いて欲しい気分だった。
それがロザリーなら、と、そのつまんない話を語り始める。
「僕、記憶喪失でさ。
十二歳くらいからの記憶しかないんだ」
静かに頷くロザリー。
普段であれば大げさな相槌が返ってくるところだが。
「母さんと二人で、マーレホタっていう村で暮らしてて。
理由はわからないけど周囲から距離を置かれてて。
母さんからは、なぜか魔術の危険性について過剰に言い聞かされていた。
その時、僕は魔術なんて使えなかったのにね。
今思うと、記憶喪失前に魔術を使ってて、何か問題が起こってたのかな」
だから、ルカもこれまで魔術を使うことを極端に控えていた。
だが、旅に出てこの村に居付いてから、母の言いつけが過剰なものであったと理解した。
「母さんは病弱で、二年前に他界した。
その村にいい思い出はなかったけど、他に行くところもないし、独学で狩りをして生活してた。
それで、さっきナーシュさんが教えてくれたのと似たような状況が起きてさ。
起きたら村に運ばれてた。
村の人は魔術だなんだと言ってて、もう怖くなっちゃって。
一応助けてもらったのに、なけなしの財産を持って逃げ出したよ。
その時にはもう、何となく魔術を使えるようになってた」
天を仰ぎ、一息つくと、診療所内に漂う薬品の独特な匂いが鼻を突いた。
言いたいことを軽く整理し、再び口を開く。
「ロザリーも過去に色々あったみたいだけど。
今は向き合って、その力を少しずつ村のために役立ててる。
僕も逃げずに向き合って、魔術を上手く使えてたりすれば。
今回みたいな問題も、もうちょっと上手く対処できたのかなって。
それで、これから村のために何かできるのかなって思ってさ」
状況が少し違えば、村から死人が出ていたかもしれない。
この村の人々には本当に良くしてもらっているし、ルカも村に愛着が湧いている。
自分に出来ることで、村に恩を返していきたい。
「うーん、ごめん。
何が言いたいかよくわからなくなってきた……」
「いえ、何となくわかりますよ!
わたしもまだまだですけど、皆さんの役に立てるよう一緒に頑張りましょう!」
先ほどまでの聞きに回っていた彼女から一転、診療所に大声が響き渡った。




