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非処女は聖女にあらず?~追放された私、隣国では聖女として溺愛されてます~  作者: コトリちゃん
後日談

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聖女サーラの逆襲

(サーラ視点)


 ――やっぱり、おかしい。


 ずっと、この国ではそれが普通なんだと思ってた。


 女神アルテミス様は乙女神。

 だから聖女も絶対乙女であるべき。

 乙女であることは尊く、清らかで、守られるべきもの。


 召喚されてからずっとそう教えられてきたし、疑いもしなかった。


 でも。

 この前の一件以来、なーんか釈然としないんだよね。


「あの、殿下」


 私はもう、彼を名前では呼ばない。

 だってこの人、全然カッコよくないんだもん。

 外見じゃなくて、中身の話ね。


「……なんだ?」


 神殿の応接室で、私は正面に座るリヒャルト王子を見た。

 大神官と、神官たちも数人同席している。


「質問があるんです」

「……嫌な予感しかしないが、言ってみろ」


 リヒャルト王子は露骨に私を睨みつける。


 ほんと、感じ悪……。

 けど、まあいい。

 こっちだってもうあんたに興味ないし。


「どうして女性にだけ、純潔を求めるんですか?」

「……は?」


 リヒャルト王子が固まった。

 それから神官たちも固まっている。


「だから、この国は乙女信仰でしょう?」

「ああ」


「乙女こそ正義、ですよね?」

「……まあ、そうだな」


「じゃあ、男性は?」

「男性?」


「童貞じゃなくてもいいんですか?」


 ――シーン。


 応接室が、ものすごく静かになった。

 あれ?

 この世界では『童貞』とか言わないのかな?


「あの、補足しましょうか? つまり女性経験のない――」

「聖女様!!」


 大神官にすごい勢いで怒鳴られた。

 私は思わず耳を塞ぐ。


「何を大声でおっしゃっているのです!」


 リヒャルト殿下も真っ赤になっているし、神官たちは口元に手を当てて目を見開いている。


「だって、おかしくないですか?」


 私、真面目に聞いてるんだよ?


「乙女がそんなに尊いなら、男の人だって童貞のほうが尊いんじゃないですか?」

「なっ……!」


「乙女信仰を続けるなら、童貞信仰も始めましょうよ」

「始めるか!」


「どうして? 男性だけ自由なの、おかしくない?」

「そ、そういう問題では――」


「じゃあ、どういう問題ですか?」


 王子が言葉に詰まった。


 ほら。

 答えられないじゃん。


「ちなみに殿下は?」

「何がだ」


「童貞ですか?」

「聖女様!!」


 また大神官に怒鳴られた。


「そんな怒らなくてもいいじゃん」

「怒るに決まっています! 貴女には恥じらいというものがないのですか!」


 その後も、なんかぶつぶつ言ってるけど、めんどくさー。

 いちいち相手にしてらんないよね。


「ほら。これだよ、この国の問題は……。

 女性には平気で純潔を求めるくせに、自分たちが聞かれると怒るじゃん」

「……」


 王子も大神官も、みんな黙った。

 わかりやすい。


「女性は乙女じゃないと価値が下がるって感じなのに、なんで男性は関係ないの?」

「価値が下がるとは誰も――」


「ほら、あの人。リッツェンの聖女を追い出したじゃないですか?」

「……」


「非処女だからって見下して」


 リヒャルト王子が黙った。

 大神官も神官たちも、何も言えずにただ私を見ている。


 まあ、あの時は私だって、ざまあって思ってたんだけど。

 そんなこと、この人たちに言う必要ないもんね。


「それから、もうひとつ」

「まだあるのか!?」


「ありますよ。こっちも大事です」


 私はぐるりと全員を見回した。


「この国、娼館がありますよね? ほら、リリーさんに紹介状まで出してたじゃないですか?」


 また静かになった。

 でも、これは事実だ。


「男性は普通に行ってるんでしょう?」


 その言葉に王子は少し気まずそうに目を逸らし、大神官は咳払いをする。


「……まあ」


 大神官が王子の代わりに答えた。

 私は神官たちをじぃっと見回す。


 ……なんで全員、目を逸らすの?


 え。

 まさか行ってんの?


「じゃあ、女性向けは?」

「は?」


 王子が呆れたように言う。

 神官たちも一斉に私を見た。


「女性が、男性に接待してもらう店ですよ」

「そ、そんなものはない!」


「どうして?」

「どうしてって……」


「不公平じゃないですか。それって女性差別ですよ?」


 私は腕を組んだ。

 ソファに背を預け、ふんぞり返る。


 偉そう?


 そうよ。

 だって私、聖女だもん。


 偉そうじゃなくて、実際偉いんだもん。

 この際、なんだって言ってやるつもり。


「男性が女性にお酒を注いでもらって、接待してもらえるなら、女性だってイケメンに優しくしてもらいたいです」

「い、いけめん? なんだ、それは? お前は一体なんの話をしている?」


 リヒャルト殿下がものすごく嫌そうな顔をした。


「ホストクラブですよ」

「ほ、ほすと、くら……?」


「そう。ホストクラブ。格好いい男性が、女性のお酒を作ったり、お話を聞いたり、褒めたりしてくれるお店です」

「なに!?」


 部屋の中がざわつく。

 殿下は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしてるし、大神官は心臓に手を当てて今にも倒れそう。


「そんなもん、いらん!」

「なんで?」


「なんでもなにも、いらん!」

「男性向けにはあるのに? 別に本番をしようって言ってるんじゃないのに……」


「本番って、お前――!?」


 いやいや、なんなの? さっきからなに、この反応。

 娼館が普通にある国の人たちに、なんで私がこんなに驚かれてるの?

 そっちのほうがおかしくない?


「ホストクラブくらい、あってもいいじゃん」

「よくない!」


「女神様だって案外喜んでくれるかもよ?」

「喜ぶわけがない!」


「あ、じゃあとりあえず神殿の一角で――」

「神殿でやるな!」


「ええー?」

「乙女神アルテミス様の神殿だぞ!」


「だからこそ、乙女のために癒やしの場を――」

「それは違うだろ!」


 王子が間髪いれずに反論する。

 大神官も神官たちも呆れたように私を見つめているけど、誰も口を挟めない。


 まあ、ホストクラブについてはあとでじっくり考えるとして。


 私には、あとひとつ。

 どうしても確認しておきたいことがあった。


「あのー、女神アルテミス様は『女性は純潔を守りなさい』って、本当におっしゃったんですか?」

「……」


 誰も答えない。


「え。まさか……」


 私は大神官を見る。


「女神様、言ってないんですか?」


 大神官は少し困ったように神官たちを見回した。


「そのような御言葉が直接記されたものは……ありません」


「ないんですか!?」


 今度は私が叫んだ。

 神官たちが小さくなる。


「ただ古来より、そのように解釈されて……」

「出た。解釈」


 はぁ……思わず溜め息がこぼれた。

 もしかしたら、最初からここまで極端だったわけじゃないのかもしれない。


 長い年月の間に少しずつ解釈が変わって、いつの間にか行き過ぎた乙女信仰になっちゃったとか……。

 だからこの国、邪気が溜まってたんじゃないの?


「じゃあ女神様に直接聞けばいいじゃない?」

「そんなことができるわけ――」


「この前、普通に降りてきたじゃん?」

「……」


 全員が黙った。


 そう。

 降りて来たよね、アルテミス様。


 まあ、なんにもしゃべってはもらえなかったけど。


「……もう一度お呼びしてみます?」

「やめろ!」


 リヒャルト殿下が全力で止めた。

 私だって、本気で呼べるとは思っていない。


 でも。


「私もね、正直最初は、この考え方いいなって思ったんですよ」


 少しだけ声を落とした。


「私は聖女だから特別だって。乙女だから清らかで、価値があるんだって」


 でも、だから何?

 ここを追い出されたリリーさんのほうが、私なんかよりずっと価値があって、大切にされてて。

 なんかすごい羨ましかった。


「私だって、最初リリーさんが乙女じゃないって知ったとき……」


 口にすると、胸の奥が少しだけちくりとした。


「自分は聖女で、あの人は違う。だから私のほうが上なんだって。そう思いました」


 誰も何も言わない。


「でも、闇落ちした私を助けてくれたのは誰でした?」


 答えはわかっている。


「この国が“聖女じゃない”って決めつけた、あのリリーさんですよ」


 私は笑った。


「処女じゃないから聖女じゃないって、あなた達がここから追い出した人に、私もこの国も救われたんですよ!」


 それって。


「もう、答え出てません?」


 しばらく、誰も何も言わなかった。

 そして私は机の上に、一束の紙を置いた。


 ドサッ。


 リヒャルト王子が嫌そうに私を見る。


「……なんだ、それは」


「この国の教義を見直す案です」


「は?」


「とりあえず、行き過ぎた乙女信仰について七十八項目ほど問題点を挙げました」


「七十八!?」


「皆さん、今夜までに目を通してくださいね」


「はあ!?」


「あと、ホストクラブ案は別紙に」


「それは捨てろ!」


「ダメです。私、本気ですから」


「そんなもの、我が国には不要だ!」


 まったく……。

 これだから、国が発展しないんだよ。邪気ばっか溜めて……。


 私はこの国の女性がもっと生きやすい国にしようと思ってるんだ。

 だって、私はこの国の聖女だもん。


 とりあえず、私は言うだけ言って彼らに書類を押しつけた。

 応接室を出てから、廊下で一人、ぐっと両腕を天井に伸ばす。


 はぁ、疲れた。

 疲れたけど、言いたいこと全部言ったからスッキリしてる。


 次は、女性向け娯楽施設についてもうちょっと具体的に考えよう。


 ふんふーん……。

 まずはお店の名前、どうしよっかなー。

 ……あ。


騎士(ナイト)倶楽部』


 とか?

 うん。いいかも!


 今度、騎士団にスカウトへ行ってみようかなー。




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