5 お迎えが来ました
ヒューは、私に寄りかかったまま眠っている。
とりあえずヒューの保護者さんが迎えに来るまで、私もここで待ってよう。
そうだ、あれを開けよう。
私は仕事バッグから、大神官がくれたあの推薦状を取りだした。
それにしても封蝋なんて初めて見るわ。
さっき受け取った時、実はちょっとだけ感動したんだよね。だってこんなの、物語の中でしか出てこないでしょ?
だからちょっと緊張しつつ封を開ける。
……さて、中身は――
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娼館ヒルデガルト支配人へ
齢二十歳の娘、ウッシを雇い入れよ。
髪色、瞳の色とも類稀なる黒のため、エグゼクティブクラス専用とする。
また非処女につき実地研修は不要とするが、マナーについては確認の上、必要に応じて習得させておくように。
皇太子リヒャルト
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……あー。
やっぱりね。
娼館って……あれでしょ?
いわゆる夜のお仕事だよね?
しかも、人を珍獣みたいに……
まぁ、皇太子が推すくらいだから、娼館『ヒルデガルト』はさぞ格式高いお店なんでしょうよ。
けどね、「非処女」ってなんの技能でもないからね!?
それだけで職業として薦めちゃうって、おかしいからね!?
ふん、なにが皇太子リヒャルトよ。
イケメンだった気はするけど、もうすっかり忘れたわ。
ってかこの国、ほんと大丈夫なの?
あっ、でも年齢は少しだけ若く見えてるらしい。王国歴435年生まれは今年二十歳と判明。
……まぁ、日本人は幼く見えるっていうしね。
さあて、どうしよっかなこの推薦状。
ヒューを起こさないよう気をつけて、私はもたれている壁のほうを振り返った。
レンガとレンガの間に塗られたモルタルが、所々に隙間を作っている。
ああ、あったあった。
ちょうど良さそうな細長い隙間を見つけて、身分証のプレートと封筒に戻した推薦状をゆっくりゆっくり奥まで差し込んでいく。
ググッ、と。
爪の先でさらにグググ~~~って。こんなもん、いりませんよーっと。
ふぅ、なんかスッキリ。
清々しい気分になって、隣で眠るヒューを見た。
ヒューは年相応にあどけない、まるで天使のような寝顔をしてたから、見ていてちっとも飽きなかった。
◆◇◆
「ヒュー!!」
「ヒュー様!」
突然目の前で掛けられた大声に、心臓が跳ねるほどビックリした。
どうやら私も眠りこけていたらしい。
目を開けて様子をうかがうと、見るからに上品な装いの男性が二人、訝しげに私を見下ろしている。
「ああ、ヒュー。無事で良かった」
そう言って、短髪の男性が私から引きはがすように、隣で眠るヒューを抱き上げた。
「……あれ、父様?」
抱っこで目を覚ましたヒューが、目を擦りながら呟く。
へぇ、この人ヒューのお父さんなんだぁ。
うん、似てる似てる。
色の薄い金髪に、アイスブルーの瞳が印象的なかなりのイケメンさんだ。
歳は結構若いよね?
二十代……半ば?
って、私と同じくらいじゃん。
なんて、座り込んだまま見上げていると、
「それで、その……貴女は、一体……?」
もう一人の男性が、めちゃくちゃ胡散臭そうな表情を隠しもせずに聞いてきた。




