6 パン職人(非処女)
「それで、その……貴女は、一体……?」
「あ、あのですね、私は――」
「リリーは女神様です!!」
私の言葉に、ヒューがすごいことを被せてきた。
「……は?」
ほら!
ヒューのお父さん、呆気に取られてるし。
「だってリリーは優しくてあったかくて……僕を元気づけてくれました!
まるで、女神デメテル様みたいでしょう?」
嬉しそうに語るヒューとは対照的に、彼のお父さんともう一人の男性は、ますます胡乱げな目で私を見下ろしてくる。
……すみません。
ヒューの発言には色々と問題がありますよね。
でも、まずは立たないと。長時間座っていたので正直おしりが痛い。
立ち上がって、パンパンと服をはたいて身なりを整える。
とりあえず、目の前の保護者二人にきちんと挨拶しなきゃ。
「あの、初めまして。私、りりと言います。
私がそこの通りを歩いていたら、この子がここでうずくまっていたので心配で声をかけたんです」
まず簡単に名乗って説明を始めると。
「ええっ? ヒュー様は目くらましの魔法をかけていなかったのですか?」
すっごい驚いてる。
この人が先生なのかな、ゲラルドさんだったっけ?
「いいえ、僕はちゃんとかけてましたよ、ゲラルドが教えてくれた魔法を。実際、他の人には見えてないようでしたし」
「でも、あなたには見えたのですか?」
ゲラルドさん(推定)が私に向かって問うので。
「ええ、まあ」
と曖昧に答える。
なんか、見えたらいけなかったのかな、やっぱり……でも、とにかく続きを話そう。
「あの、それでですね、声をかけたら彼、とても不安気で、なによりお腹を空かせていらっしゃいました。
だから私の焼いたパンをさし上げたんです」
「なっ!?」
「なんですって??」
二人揃って、ギョッとした顔でヒューを見た。
「ヒュー、知らない人間からもらった物を口にしたのか!?」
ありゃ、お父さん怒ってる?
あー、でもそっか、そうだよ。普通、知らない人から『お菓子あげるよ』とか言われても貰っちゃダメだよね。そんなの、日本でも常識だよ。
その上、私は異世界からやってきた怪しい女なんだし……
なんか、急にいたたまれなくなって、思わず俯いてしまった。
「父様、どうか怒らないでください。僕だって考えなしに口にした訳じゃありません。
もちろん食べる前に魔道具で確認もしましたし、何の問題もありませんでした。
それどころか、リリーのパンは世界一おいしかったんです!
食べたら、すっごく元気になったんですよ!?」
ヒューが身振り手振りで一生懸命説明してくれてる。
魔道具で確認とか、全然わからなかった。もしかしてあれかな、じーっと見てた時かな……?
それでも、お父さんとゲラルドさんは私への警戒を解かない。まぁ、当たり前だよね。
私は、これだけは言っとかなきゃと思って口を開いた。
「あ、あの、確かに初対面の私がご子息に勝手に食べ物を渡してしまって、考えが足りなかったかもしれません。
ですが、私はパン職人です。自分が作ったパンには自信を持っています。
安全で、安心できる材料しか使っていません。同じものがこちらにもありますから、ご心配であればどうぞお調べください」
私は、持っていた手提げバッグごとゲラルドさんに渡した。
まだ訝しげな目でこちらを見ながらも、ゲラルドさんは袋の中に手を入れた。
それから、くまさんのパンをひとつ取り出すなり、手のひらに乗せ――
「鑑定!」
とか、叫んだし!
途端にくまさんのパンが光り出す。
……うわ! これって魔法だよね??
密かに興奮してる私をよそに。
「これは……??」
と、ゲラルドさんの顔色が、さっと変わった。
――その瞬間。
こんな大事なタイミングで、私の頭の中であの「ピロピローン」って珍妙な効果音が鳴ったんだよね。
……え、今、大事な場面でしょ?
目の前には、例の通知が空気を読まずにシュッと出てきた。
=================
ステータス : ***、パン職人(非処女)
MP : ***
特記事項 : ***
=================
これ、他の人には見えてないんだよね?
っていうか、カッコ書きの非処女はまだ必要なの?
あっ、でもステータスが「パン職人」になってる!!
……これ、私が言った通りになるのかな?
でも、伏字のところはわからずじまいだわ。
……これって、一体なんなんだろ。
少しして、目の前の通知がシュッと引っ込んでった。
で、私のパンの鑑定はどうだったのかな?
目の前では。
「それは本当か?」
「はい。こんなことは私も初めてです」
「……ふむ」
っていうやりとりが、ヒューパパ(仮称)とゲラルドさんとの間でなされてた。
……何が起きたの?
ヒューだけが、パパに抱き上げられたままニコニコと嬉しそうだった。




