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非処女は聖女にあらず?~追放された私、隣国では聖女として溺愛されてます~  作者: コトリちゃん
本編

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45 所有権

(王子リヒャルト視点)


 再び、リッツェンから回答が届いた。


 先日送った照会に対する返答だという。

 あの女の真実を知って、リッツェンの公爵も己が愚かさを知ったことだろう。


 私は封蝋を解かせ、側近から文書を受け取った。


 さて、さて。

 何を書いてきたのやら……


 ===============


 照会のあった黒眼黒髪の女性について、以下のとおり回答する。


 貴国が先の文書において侮辱的に言及した当該女性は、現在、魔法大国リッツェンの庇護下にある。

 彼女は我が国にとって、また私個人にとっても、かけがえのない存在である。

 よって今後一切、彼女に対する捜索、諜報、接触、接近、その他いかなる干渉も認めない。

 これに反する行為が確認された場合、我が国は当該行為を魔法大国リッツェンに対する明確な敵対行為とみなし、外交上、法的、ならびに軍事上の対抗措置を取る用意がある。


 以上を、皇太子ジークフリート・ヴィルヘルム・フォン・リッツェンの名において通告する。


 ===============


「……は?」


 私は、思わず声を漏らした。


 文書はこれまで、外交部を通してやり取りしてきたはずだ。

 それがなぜ、皇太子直々の名で届く?


 しかも、何だ。


 我が国にとって。

 また、私個人にとっても。

 かけがえのない存在?


「……あの女、ついには皇太子まで手玉に取ったか!?」


 文書の末尾に記された名を睨む。


 ジークフリート・ヴィルヘルム・フォン・リッツェン。

 魔法大国リッツェンの皇太子。


 なるほど。

 公爵だけでは飽き足らず、皇太子までも虜にしたということか。


 艶やかな黒髪に、黒い瞳。

 遠目に見ても、たしかに目を引く女ではあった。


 だが、あの女の真の価値は容姿ではなかったようだ。


 男を惑わせ、庇護者を作り、あまつさえその国の皇太子に軍事的対抗措置まで口にさせる。


 なんという手管だ。


 返す返すも、人を付けずに神殿から追いやったことが悔やまれる。


 あの時、すぐに捕らえておくべきだった。

 聖女ではないと、ろくに調べもせずに追放したことがこんな結果になろうとは。


「……いや」


 まだ遅くはない。


 リッツェンがここまで強硬に出るということは、あの女にはそれだけの価値があるということだ。


 穢れた身でありながら、公爵と皇太子を同時に狂わせるほどの何か。


 あの女は我が国の国費で召喚した異世界人だぞ!?

 その所有権は我が国が持つに決まっているだろう!

 

 私は文書を握りしめた。


「調べろ」


 控えていた側近が、びくりと肩を揺らす。


「あの女が今どこにいるのか。どのような魔力を持つのか。すべてだ」


「し、しかし殿下。リッツェンは明確に、捜索や諜報を禁じております」


「だから何だ!」


 私は側近を睨みつけた。


「所有権はこちらにあるのだ。

 厚かましい主張をしているのはどっちか、はっきりさせてやろうじゃないか」


 リッツェンの皇太子が何を考えているのかは知らない。

 だが、あの女を返すつもりがないことだけはわかった。


 ならば、別の手を考えるまでだ。


 ――コンコン


 執務室にノックの音が響く。


 側近に確認させると、入ってきたのは大神官だった。


「どうした?」


 この男が、なんの前触れもなくやってくるなどよっぽどのことだ。

 聖女になにかあったのか。


「殿下、聖女が……祈りを止めました」


「……は?」


 側近が大神官をソファに案内し、座らせる。

 私も対面のソファに腰かけて、話を聞くことにした。


「なぜ、そんなことになった?」


 聖女を召喚して三週間余り。

 その翌日から、さっそく王都の邪気が浄化されているとの報告を受けていた。


「それが……なぜか聖女は、殿下と結婚するものと思いこんでおりまして……」


「は?」


「殿下に相手にされないと、拗ねておられるようで……」


「はぁ?」


 さっきから私の口からバカみたいな声しか出てこない。


「もちろん伝えました。聖女は一生を女神アルテミスへの祈りに捧げるのが役割だと」


 そうだ。

 我が聖フロイライン国の女神アルテミス。

 それにお仕えするのは、清らかな乙女でなければならない。


 聖女サーラには生涯独身を貫き、神殿で慎ましく暮らしてもらわなければならぬのだ。


 なにをどう勘違いして、私と結婚などと夢をみているのか。

 あのように品性を欠く女など、聖女でなくても抱く気にならん。


「そしたら彼女がですね、その、祈ることも食べることも止めてしまいまして……」


「……はぁ」


 今度は口から重いため息がもれた。

 一体、なにが気に入らぬというのだ。


 最初、彼女の祈りはたしかに効いていた。

 品性に欠けようとも、彼女は間違いなく我が国の聖女だ。

 召喚時のステータスでも、女神アルテミスの加護がついていた。


「……そういえば、もう一人の女。あの女のステータスはほとんどが開示不可であったな?」


 私の質問に、大神官は不思議そうな顔をした後、記憶をたどるように目を閉じた。


「……ええ、たしかに。ほぼ伏字で、”非処女”という情報だけが開示されていましたね」


「強制開示でも伏字になる理由、考えられることはあるか?」


「……そう、ですね。別の女神の保護下にある、ならば……」


 言いかけて、大神官が口を閉ざした。

 その顔からみるみる血の気が引いていく。


「……もしや、我々は二人の聖女を召喚したのではないでしょうか」


「はぁ!?」


 ああ、また間抜けな声が口をついて出た。


「あの女性は、もしかしてリッツェンの聖女として迎えられているのでは……?」


 なに?

 それは……それならば、なおさらおかしな話になるな。


 我らが召喚した異世界の女。

 あの女が仮にリッツェンの聖女だったとして。


 なぜ我々が無礼者のように言われねばならんのだ。

 

 先ほどの通告文が頭の中に浮かび上がる。


 我が国にとって。

 また、私個人にとっても。

 かけがえのない存在。


 ハッ!

 調子に乗るのもいい加減にしろよ。


 私は立ち上がる。

 そして大神官に言った。


「聖女には現実を突きつけておけ。

 生涯独身で祈りを捧げるしか道はないのだと」


 さて、私も考えねばならんな。

 あの女が隣国の聖女かどうかはどうでもいい。


 引き渡すも匿うも自由だが、一体誰のおかげでその”かけがえのない存在”を手にすることができたのか、思い知らせてやる必要があるな。



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