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非処女は聖女にあらず?~追放された私、隣国では聖女として溺愛されてます~  作者: コトリちゃん


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3 キレイなお子様

 通りをしばらく歩いたところで振り返る。

 神殿の建物は、その尖った屋根だけが見えていた。


 ふぅ……

 なんか疲れた……


 そりゃそうか、仕事帰りだったわ。

 ホントなら帰宅して試作のパンでもつまみながらワインでも飲んでる頃なのに。


 立ち止まったついでに街の様子を観察する。

 まだ日は高く、昼を過ぎたくらいかな……


 石畳の道に、レンガの建物。

 見慣れない景色なのに、不思議と”外国に来たみたい”って思った。

 華やかさはないけど、いろんなお店が並んでて通りを歩く人たちも老若男女で溢れてる。


 神殿でのイメージが悪かったけど、この街はちゃんと人が生きてる感じがする。

 あ、でも若い女性たちが頭から布をかぶってるのは……そういう文化なのかな?


 あー、うん。


 さっきからチラチラ見られてるのはそういうことかもしれない。

 それか、黒い髪が目立つのかも。


 私は仕事バッグから、冷房対策でいつも入れてるショールを取り出した。

 周りの娘さんを見つつ、真似て巻いてみる。

 よし、だいたいこんな感じかな。


 さてと、職業紹介所ってどれくらいで着くんだろ。


 っていうか、そもそもこの推薦状もあやしいよね。

 だって、人の名前も生まれ年も勝手に決めちゃうような人たちだよ?

 私の何を見て、職業を薦めるって言うのさ……


 あの人たちが私について知ってる情報って「非処女」ってことだけじゃん――いやな予感しかしない。


 よし、開けてみよう。

 その結論に至り、どこか座れるとこないかなぁと周囲を探してみると。


 ん??


 建物と建物の間に、小さな男の子がうずくまっているのが見えた。


 迷子?

 けれど周りの人は気づいてないみたい。


 どうしても気になって、私はその子に駆け寄った。


「僕、大丈夫?」


 話しかけると、男の子はバッと顔を上げた。   

 とても驚いた表情で、今まで泣いてたのかまつ毛がぬれている。


「お姉さん、僕が見えるんですか?」


 ……え?

  なに、その怖い質問。


 ちょっと待って。

 君、見えちゃいけない存在なの?


 一瞬背筋がゾッとする。

 でも私、霊感なんてないんだよね。


「うん、ちゃんと見えてるよ。君は迷子なの?」


 男の子の目線に合わせて正面に座り込むと、何故だかまた、泣き出しそうに顔を歪めた。


 四、五歳かな?

 その割に話し方がしっかりしてるから、どこかいい所のお坊ちゃんなのかもしれない。


「僕、魔力が制御出来なくて……今日も朝から訓練があって、頑張ってみたんですけど……」


 ダメでした、と言いきるかきらないかで、彼の水色の瞳から大粒の涙が溢れ出た。


 今、魔力って言ったよね?


 ていうかこの子、めちゃくちゃ綺麗な顔してる。


 明るめの金髪に、アイスブルーの瞳。

 着てる服は上品だし、きっと家の人も探してるよね?!

 

 男の子が、ポロポロと涙を零す様子がなんとも切なくて、抱きしめてもいいのかなと悩んでると、


 ぐぅ~~

 と、お腹がなる音。


 わ、私じゃないよね? 

 

 男の子を見ると、可哀想なほど顔を真っ赤にして(うつむ)いてしまった。

 項垂(うなだ)れた首筋までも赤い。


 そういえば、私いいもの持ってる!

 実は仕事カバンの他にも、手提げのサブバッグを持ってるの。


 まぁ、このサブバッグにあの女子高生のぬいぐるみがひっかかった結果、こんな所まで来てしまったわけだけどね。


 中には、今日焼き上げた試作のパンが五つ入ってる。

 私はその中から、クマさんのパンを取り出すと男の子の手に乗せてあげた。


「え、これ……は?」


「菓子パンだよ、私が作ったの。中に甘いクリームが入ってるんだけど、甘いの好き?」


 私は男の子が不思議そうに見ている中、ビニール袋からクマさんのパンを押し出して、食べやすいようにしてあげた。


 男の子は「かしぱん……」と呟いたまま、しばらくパンを眺めた。


 やがて、意を決したようにガブリとかじりつく。


 その瞬間、男の子の表情が――変わった。

 パァっと、顔が明るくなった。


「おいしい……! すごく、おいしいです……!」


 興奮しながらも、子供らしく喜んでくれてる。

 言葉遣いは丁寧だけれども。


「隣に座っていい?」


 男の子が頷くのを待って、私も、建物の壁に寄りかかる男の子のとなりに腰掛けた。


 男の子は黙々とかじりついている。

 中にはカスタードクリーム。

 クマさんのお顔はクッキー生地を乗せたりチョコペンで描いたりしてる。

 子供たちが喜ぶかなぁと思って作ったから、この子が食べてくれて私も嬉しい。


 思わず男の子の頭を撫でると、彼は一瞬固まった後、ふにゃりと柔らかく笑った。


 こういうの、久しぶりかも。

 誰かが美味しそうに食べてくれるの、見てるだけで嬉しいってやつ。


 幸せそうにパンを頬張る男の子の姿に、私の心もすっかり満たされていた。


 ……でも。


 この子との出会いが、すべての始まりだったなんて。

 この時の私は、まだ知らなかった――。



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