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非処女は聖女にあらず?~追放された私、隣国では聖女として溺愛されてます~  作者: コトリちゃん


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27 桜乃川りり

(皇太子ジークフリート視点)


 ロールケーキ……


 それを見て、思わず息が止まった。

 こんなの、この世界に生まれ変わってから初めて見た。


「心労回復(中)だと。ってか、心労回復とか珍しいな……」


 鑑定結果を見て、そのまま告げる。


 珍しい効果ではあるが、正直隠すようなものじゃない。

 危険でもないし。


 なのに開示不可。

 つまり本人は、無意識で魔法を使ってるってことだ。


 しかもハルトより魔力が高いとか、一体どんな女だよ。

 少し興味が湧いた。


 それにしても久々だな、こんな手の込んだ菓子を見るのは。


 この世界、菓子とかパンとか、正直ちょっと残念なんだよな。


 甘味はある。

 小麦も卵も砂糖もある。


 なのに、どうしてこうなる?

 最初は本気でそう思った。


 でも俺は、そこまで食に執着するタイプでもなかったし、甘いものが食べたくなったら自分で作ればいいだけだった。


 特にプリン。


 別に大好物ってわけじゃない。

 けど、昔、かわいい姪っ子に食べさせてやりたくて何度も作った。


 最初は上手く蒸せなくて、すが入ってボソボソになったり。

 逆に固まらないこともあった。


 上手く出来たと思ったら、今度はカラメルを焦がしすぎたりしてな……


 何度も作ったから、レシピだけは今でも頭に残ってる。


 そんな懐かしい記憶が頭の中を巡る。


 俺は妙な気持ちのまま、ロールケーキへフォークを入れた。


 ふわり。

 生地が軽い。


「……うま!」


 約二十年ぶりに食べるそれは、あまりに美味かった。


 いや、美味すぎた。


 口の中で溶けるスポンジ。

 優しい甘さのクリームに苺の酸味。その味が、嫌になるほど懐かしかった。


 思わず、目を閉じる。


 作った女の子の名前は“リリー”。

 胸の奥が妙にざわついた。


「あの、実はこちらも見て頂きたいのですが……」


 ゲラルドが取り出したそれを見た瞬間、心臓が嫌な音を立てた。


 透明な袋。


 この世界には存在しない、薄い“ビニール”の包装。


「はい。実は彼女と出会った日に預かったものです。彼女、“ニホン”という国から来たそうです」


「日本!?」


 気付けば、立ち上がっていた。

 窓の外、空が一瞬で陰る。



 コンビニ。


 電柱。


 車の音。


 そしてビニール袋を開ける、あの感触。


 もう二度と触れられないと思っていた、“向こうの世界”が一気に蘇る。



 日本から来た、リリー?


 嫌な予感がした。


 まさか。

 そんなはずない。


 でも――


 パン職人になりたい。

 それは、りりが小さい頃からずっと言っていた夢だった。


 俺は菓子パンを手に取り、叫んだ。


「鑑定!」


 表示された名前を見て、息が止まった。


 製作者:桜乃川りり


「……嘘、だろ」


 雷鳴が轟いた。


 ドゴオォン――ッ!!


 皇宮が揺れる。


 さっきまでの青空が嘘みたいに、外は土砂降りになっていた。


 けれど、室内はそれ以上に静まり返っている。


 ハルトもゲラルドも、完全に言葉を失っていた。


 一体どうして、りりがこっちの世界に?


 事故か?

 巻き込まれたのか?


 いや、そもそもーー


「りりは無事なんだろうな!?」


 気付けば、そんな言葉が口をついて出ていた。


 雷鳴が止まない。


 表情を変えないあのハルトが、珍しく動揺した顔をしている。


 ……まぁ、それは俺も同じか。


 幼い頃を含めても、さすがにここまで心を乱したことなどなかった。


「今からお前んとこ行くわ」


 立ち上がった瞬間、側近が青ざめた顔で前へ出る。


「お、恐れながら殿下! この後、外交会談が……!」


「くっ……!」


 そうだった。


 国内の貴族相手なら押し切れた。

 だが今夜は他国との会食だ。


 さすがに飛ばせない。


 クソ……!



「……明日行く」


「我が家に、ですか?」


 ハルトが珍しくぽかんとしている。


「ああ。明朝必ず行く。朝イチで行って、りりに会う!」


 皇太子である俺が、ここまで取り乱す姿など誰も見たことがないだろう。


 ハルトもゲラルドも、完全に固まっていた。



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