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非処女は聖女にあらず?~追放された私、隣国では聖女として溺愛されてます~  作者: コトリちゃん


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24 報告案件

(ハルト視点)


 机の上には書類の山。

 普段はここまでじゃないんだが、先日ヒューを迎えに行くために聖フロイライン国への出入国手配でかなり手間を食った。

 今、そのしわ寄せが来ている。


 眉間を揉みほぐしていると、ちょうどメイドのハンナがお茶を持ってきてくれた。


 いつもなら紅茶の横にはショートブレッドやスコーンなどが添えられている。だが今日は、見たことのないものがテーブルに置かれた。


「これは?」

「ろーるけーき、というお菓子だそうです」


 なるほど。

 彼女が作ったものか。


 昨夜、彼女が作ったリリタン。

 あれには正直驚かされた。皇宮から取り寄せるものとは少し違ったが、あれはまさしくリリタンの味だった。


 そしてなにより美味かった……


 高位貴族の間でしか出回らないリリタン。

 未だ完全な再現に成功した者はいない。

 

「鑑定」


 皿ごと手のひらに乗せ、鑑定魔法をかけてみる。

 昨夜は彼女の目の前だったので鑑定は控えたが、今日はやってもいいだろう。


 〇~~~~~~~~○

 品名:ろーるけーき

 製作者:リリー、ティム

 材料:卵、砂糖、小麦粉、牛乳、バター、生クリーム、苺


 効果:*****

 〇~~~~~~~~○


「……ふむ」


 今回、ニホンゴという謎の文字は消えていた。

 まぁこれは、我が家で用意した材料を使っているため当然といえば当然なのだが。


 意外にも、彼女の名前が読める表記になっている。

 と思ったら、今度は伏字の箇所がある。


 「効果」とあるそこには、本来なら気力上昇だとか魔力回復などが表示される欄だ。だが、そこは開示されていなかった。


 つまり、俺の魔力では足りないということだ。


 彼女は一体……


 ちなみに俺の魔力値は二万近い。

 皇家の血を引く者として、決して低くない数値だ。


 なのに、この俺より魔力が多いというのか?


「……毒など入っておりませんよ?」


 ろーるけーきを前にして黙り込む俺に、ハンナが不思議そうに声を掛ける。


「……ティム?」


 ふと、製作者として並ぶ名前を読み上げる。


「ええ、リリー様が魔導具を上手く使えなくて、ティムが手伝ったそうですよ」


「若手の?」

「はい」


 ……魔導具を使えない?

 ああ、ニホンという国には魔導具がないのかもしれないな。


 鑑定魔法を解き、皿をテーブルに置く。


 ろーるけーきとやらにフォークを入れると、生地がまるで綿のようにふわふわしていた。


 そっと口に運ぶと――


「……?!」


 なんだこれは。


 口溶けのよい生地と、生クリームが一体となって消えていく。

 そこへ苺の酸味が加わり、自然と次の一口を求めていた。


「……美味いな」


 そして、やはりというべきか。

 さっきまで確かにあった頭痛が消えていた。


 二口、三口と食べ進めると、執務室に近づいてくる足音が聞こえた。


「ハルト!」


 余程焦っているのか、ゲラルドはハンナがいるというのに俺を呼び捨てにした。


「大変です! 報告案件です!」

「どうした?」


「彼女、ジークフリート殿下と同じでした! 測定球が割れたんです!」


 殿下と……?


「水晶が、割れた……?」

「ええ、ピシッと」


 ……おいおい。

 殿下以外で、そんな話は聞いたことがないんだが?


「明日、皇宮を訪ねることにする。手配を頼む」

「わかりました」


「報告がてら、この“ろーるけーき”という菓子も殿下に鑑定してもらおう。お前、これ、鑑定してみたか?」

「いえ、まだ」


 ゲラルドは首を振った。


 そりゃそうか。

 彼女の前で何度もあれをやるのは、さすがに失礼だからな。


「効果のところ、伏字になっているぞ」

「えっ、本当ですか?」


「鑑定」


 ゲラルドが、半分になった俺のろーるけーきへ鑑定魔法をかける。


「ああ、やっぱりニホンゴじゃなくなりましたか……本当だ。開示不可になっていますね」


「だろ? だが、明らかに回復系だ」

「ですよね?」


 ゲラルドの手から皿を取り戻し、俺は残りのろーるけーきを頬張った。


「……美味い」

「ですよね?」


 ゲラルドは、からかうような視線を向けてくる。

 何か言いたげだが、まぁそこは無視だ。


 仮に毒や害となる魔法がかけられていたなら、即座に感知されるよう屋敷全体に防衛術式が張られている。

 この公爵邸で悪事を働くことなど不可能だ。


 たとえ彼女の魔力量が俺を上回っていたとしても。


「ゲラルド、彼女から預かっているパンがあっただろう? あれも持って行って、殿下に鑑定してもらうぞ」


「え、あれはまだ……」


 まだ解析中、と言いたいのだろう。


「持って行くだけだ。お前もついて来い」

「……わかりました」


「それとゲラルド」

「はい?」


「彼女の滞在だが……」


 一週間という話ではあったが、どうしたらいいものか……


 危険というわけではない。だが、得体が知れなさ過ぎる。

 それはある意味、もっとも警戒すべき状況とも言えた。


「……やはり、引き続き屋敷で?」


 ゲラルドが俺の考えを察したように言う。


「ああ。少なくとも、殿下の判断が下るまではな」

「わかりました」



 殿下に鑑定してもらえば、開示できなかった“効果”についても判明するはずだ。

 ニホンゴとかいう謎の文字も、もしかすると殿下のお力なら何かわかるかもしれない。


 ジークフリート殿下は現在、我が国でもっとも魔力の多いお方だ。


 皇家にお生まれになった上、女神デメテルの加護まで受けていらっしゃる。

 そのお陰で、魔力値は三万を超えると言われている。


 この国では、女神デメテルの加護を受けるとその者の感情が天候へ影響する。

 まぁ、その事実を知っているのは、神殿と一部の高位貴族だけだが。


 殿下がまだほんの幼い頃、ここ帝都の天候も随分と荒れていた。

 だが、すぐに感情をコントロールできるようになられて、突発的に天気が荒れることは無くなった。


 もちろん、自然現象としての雨や嵐は普通に発生するのだが。



 そういえば――

 先日、やたら天気が荒れた時があったな。


 ……まさか、な。



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