14 イケメン怖い
メイドのハンナさんに案内されて私は今、朝食用のダイニングルームへと向かってるところなんだけど……
朝食用って何?
……ってことは、ランチ用もディナー用もあるの?
そりゃね、この広さだもんね。
昨日倒れちゃったからお屋敷の外観は見てないんだけど、今歩いているこの廊下がすでに私の知ってるそれじゃないからね。
なんて言えばいいのかな。
明らかに高そうな、でもって品の良さそうな絵画や置物が、あちらこちらに飾ってあるの。
「リリー様?」
キョロキョロとまるで美術館感覚で歩いてたら、前を歩くハンナさんが立ち止まって待っていてくれた。
「すみません。なんだか、見とれてしまって……」
「ふふ、どれも美しいですものね。
実はせっかく若い女性のお客様がいらっしゃったので、今朝はガーデンテラスで朝食を召し上がっていただく予定でした」
一旦言葉を切り、少し残念そうに眉尻を下げてハンナさんは続けた。
「ですが、先ほど急に天気が荒れましたでしょう?」
「あれは、すごかったですね」
さっき、私が泣いてた時だよね。
窓に打ち付けるくらいの強い雨に、雷まで鳴ってた。
「じゃあ、さっきの雨で?」
「ええ、テラスもテーブルセットもずぶ濡れになってしまいまして……」
それは残念ですね、と答えると、
「女神様のきまぐれですから、仕方ありませんね」
って、ハンナさんは柔らかく笑った。
「女神様のきまぐれ?」
「はい。あ、リリー様は外国の方ですから、ご存知ありませんか?」
あ、外国人ってことは知ってるんですね。って見ればわかるか……
まぁ、本当は、異世界人なんですけどね。
「リッツェンでは、急な天気の変化をそのように言うのですか?」
「はい。お天気は女神デメテルの気分次第、という意味です」
へぇ、そうなんだ。
女神デメテルといえば、昨日倒れる直前にみた私のステータスにそんな名前があったような……
「リリー!!」
ダイニングルームの扉の前で、ちょうど反対側からやってきたヒューと出会った。
「体調はどう? 辛くない? 」
って、心配そうに私を見上げるアクアマリンの瞳が、あまりにも綺麗でついつい見入ってしまう。
ヒューパパとよく似た色だけど、ヒューの方がより鮮やかな水色をしてるのかな。
「うん。おかげ様でよく眠れたし、身体はもうなんともないよ。心配かけてごめんね」
「ほんとに? リリーが急に倒れて、僕すごくビックリしたんだからね」
ヒューはそう言いながら、朝食用のダイニングルームに私を案内してくれた。
「うわ、キレイ……」
大きな窓からは、雨上がりの朝陽が部屋いっぱいに差し込んでいた。
グリーンと白を基調にしたインテリアに、お庭で咲いてたんだと思うけど、あちこちに花が飾られている。
私が部屋の入り口で、その美しさに気を取られていると、
「リリーだってすごく綺麗だよ」
って、ヒューが言ってくれたの。
こんなに小さな男の子なのに、どうしてサラッと大人びたお世辞が言えるんだろうね。
「ふふ、ありがと」
マーメイドラインのワンピースにパーティ仕様のヘアスタイル。
私史上最高に気合いの入った装いで、正直居た堪れない思いもあったんだ。
でも、ヒューの一言で背筋がピンて伸びたよ。
と、そこへ扉が開いてヒューパパとゲラルドさんが入ってきた。
「あの、公爵様にゲラルド先生、おはようございます」
「おはようございます」
後ろに控えたゲラルドさんが挨拶に応じてくれた。
ヒューパパは、相変わらずの無表情で私を見ている。
「もう大丈夫か?」
わっ、ヒューパパに声を掛けられた。
そのアイスブルーの瞳は、見つめられると魅入られそうで少し怖いくらい。
だから、視線を襟元にずらして答える。
「はい、お陰様でなんともありません。あの、何かとご迷惑をお掛けしてすみませんでした」
ペコリと頭を下げてから、顔を上げる。
そうか、と答えてくださったヒューパパの印象は、気のせいかもしれないけどさっきより少しだけ柔らかく感じた。
「疲労と魔力酔いが原因だそうです」
「魔力酔い、ですか?」
ゲラルドさんが倒れた原因について教えてくれた。
「ええ、ちょうどリッツェン国内に入った途端でしたから。瞬間移動の魔法陣が起動するタイミングだったと思います」
って、よくわかんないけど。
「そうなんですね……」
聞いてもわからないことは、きっと考えても仕方ないのかな。それより、
「あの、公爵様。こちらの素敵なお洋服ですが……」
品のいいピーコックグリーンの生地は、光沢があるんだけど決してぶ厚いわけでなく、軽やかで着心地もいい。
きっと私のために用意してくださったんだと思う。
「……よく似合っている」
そう言って、何故かヒューパパはもう一歩こっちへ近づいてくると、その薄氷色の瞳でジッと私を見下ろした。
「あっ、ありがとうございます!」
お礼は相手の目を見てから、と親に教えられた。
だからめちゃくちゃ頑張って、恐ろしく整った顔のヒューパパにちゃんと目を合わせて伝えたんだ。
でもこれ、いつ逸らしたらいい?
「…………」
「…………」
ななっ、なんでヒューパパ、こんな見てくるの?
イケメンとのアイコンタクトとか、無理。怖い!
「父様?」
「なんだ?」
「リリーがあんまり可愛いからって、そんなにレディーを見つめてはダメですよ?」
「ああ、すまない……とりあえず、食事にしよう」
ヒューが声をかけてくれて、私はやっとその変な空気から解放された。
……いやほんと、イケメン怖い。




