12 選ばれた聖女
(サーラ視点)
聖フロイライン国、大神殿祈りの間。
女神アルテミスの彫像を前に跪いて祈りを捧げるのは、異世界より召喚されたこの私。
聖女「サーラ」。
ほんとは沙亞良って漢字で書くんだけど。
昨日この世界にやってきて、大歓迎されたのは気分良いんだけどさぁ。
やたら早く起こされたんですけどぉ??
何気に、人使い荒くない??
「聖女様、朝のお祈りお疲れ様でした」
「早速ですが、本日から第三孤児院へ赴き、祈りを捧げて頂きます」
「果実水をどうぞ」
若い神官達に甲斐甲斐しく世話を焼かれて、これもまぁ悪い気はしないよ?
けど、何か思ってたのと違うんですけどぉ??
もうちょっと、こう……潤いっていうの?
「ねぇ、リヒャルト様はいついらっしゃるの?」
神官達は顔を見合わせて首を傾げる。
「え、皇太子殿下ですか? 我々は何も伺っておりませんが……」
もう、使えないんだからぁ!
だけどとにかく、祈りを捧げてさえいればいいわけよ。
ここの人たちは私を崇め奉るわけだし、ゆくゆくはあれでしょう?
リヒャルト様と結婚……
「っふ、ふふふ」
「ど、どうされたんですか、聖女様?」
「あっ、ごめんね。なんでもないからぁ」
だめだめ、妄想が行き過ぎて笑いが込み上げちゃったぁ!
実は一昨日、二年も片思いしてた人に思いきって告白したのにバッサリ振られてさぁ……
昨日は昨日で、確実だって言われてた推薦入試にも落ちるしさぁ……
いいことなんてなぁんにもなくて、ヤケになって道路に飛び出したんだけど、まさかこんなことになるなんてね。
どうせ何やってもうまくいかないって思ってたけど……
ほらね。やっぱり私って特別なんだ。
ふんふーん。
そういえば、勝手についてきた非処女のあの人、傑作だったよね!?
追い出されたらしいの。娼館送りなんだって、超ウケる!
何気に美人だったのも、正直ムカついたし。
人様の召喚に勝手について来るからそんな目に遭うんだよ、バァーカ!
そうそう、名前は「ウッシ」って私が決めてあげたんだぁ。
いくつか候補があったんだけど、わざわざ私が選んであげたの。
「マリアンヌ」とか「エリーゼ」とか。
色々あったけど、どうせなら日本人らしい名前のほうがいいじゃん!?
……私なりに、気を遣ってあげたってわけ。
って、そんなことより早く逢いにきてくれないかなぁ、リヒャルト様……
◆◇◆
(皇太子リヒャルト視点)
「大神官、聖女の様子はどうだ?」
「はっ、早朝より熱心に祈りを捧げておられます」
「そうか……来て早々、聖女も大変だな」
「ですが早速、王都の邪気溜まりに対流が生じております。
まぁ、そのために召喚したのですから、聖女様には頑張っていただかないと」
たしかにな。国庫を削って召喚術に必要な素材を集めたのだ。
それこそ召喚した甲斐があったというものだ。
「ところで、あの女はどうなった?」
「あの女、と申しますと?」
「とぼけるな、私がヒルデガルトに推薦したもう一人の女だ、黒髪の」
「ああ、彼女ならあの後まっすぐ娼館へ向かわせました。
今頃はヒルデガルトで仕事の説明でも受けているのではないでしょうか」
「ふむ……」
そうか、そうか。
聖女をどうこうするわけにはいかないからな。
処女神の御使いである聖女サーラには、生涯純潔を守って、我が聖フロイライン国に清い祈りを捧げ続けてもらわねばならん。
それにしても……異世界の女があんなに美しいとは思わなかった。
いや、見たことのないものや珍しいものに惹かれるのが、人の性というものか。
聖女のほかに妙齢の女を渡してくださるなど、天も粋なことをなさる。
名前はウッシだったか……この手で、どこまで乱れるか――試してみたいものだな。
エグゼクティブ専用にしたとは言え……ふむ、先に他の高位貴族に手をつけられては気分が悪いな。
……よし。
今夜あたり早速、ヒルデガルトを訪ねてみるか……




