6匹 蛇視点
兄が即位し、屍蛇は南西の玉鋼へ向かう事になった。
周囲は、屍蛇を見限り離れて行った。今まで甘い蜜を吸おうとしていた人間たちが居なくなった。
すると屍蛇は、こんなにも過ごしやすく落ち着くことは初めてだと、肩の力を抜いた。それに、彼らの後々の反応を想像すると、笑いが漏れた。
「屍蛇様と離れるなんて……口惜しいですが、父には逆らえませんの」
周囲が結婚相手としてみなしていた蛇族の令嬢は、流れない涙を袖で拭った。
彼女に興味を抱いたことは無かったが、恨みに思ったこともなく「どうか、お幸せに」と屍蛇が言うと、嫌な顔をされ困惑している。
女性の気持ちは難しい。
皆が、ウララのように分かりやすければ良いのにと、思わず笑ってしまい、令嬢は更に怒り出した。
「貴女のせいで何年無駄にしたとお思い?まったく、貴方に合わせるのは大変でした。やっと解放されるわ」
彼女とは、当たり障りのない接触しかしていなかった。彼女が大変だったのは、聞き出そうとしていた、政治的な内輪話や、商売のために聞き出したい話が、諜報活動が下手すぎて聞き出せなかったことだろう。
この人には、向いていないのに、といつも哀れに思っていた。
悪意や、怒りの感情が表に出過ぎる。
「せいぜい、薄汚い田舎娘と仲良くなさって」
彼女が向かわされた先が、第四皇子のもとだったら、彼女の体の一部は、とっくに斬り離されていただろう。あるいは、これから先の未来がそうなるのだろうか、屍蛇は口を噤んで、力なく微笑んだ。
(私には、関わりのない事だ……あぁ、良かった。やっとこの監獄のような場所から出ていける)
屍蛇は、真に望んで玉鋼にやってきた。
もちろん、ここで果たすべき使命があってのことだ。そのすべては、計画通りであり、順調に事が進んでいた。もちろん、ウララとの婚姻も想定通りだった。
愛らしく、すこし抜けている。疑いを持たない性格。世間的にも、嘘偽りのない獣人として認識されている、鳥獣人。今の自分にとって、こんなにも適任はいない。追いやられた皇子と、押し付けられた花嫁。
(……上出来だ)
屍蛇は声を上げて笑った。




