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5羽

 その日は、突然訪れた。


 皇帝が崩御し、第一皇子が即位すると、屍蛇は南西の端の地方に、地方の治安維持の名目で追いやられることになった。

 

「屍蛇殿が、辺境に移される。封殺されるようなものだ」

「そう、なんだ。え?そこって食べ物が全然なかったり、凍える程寒かったりするのですか!?」


 ウララには政治はわからない。興味もなかった。しかし、大好きな屍蛇が空腹に泣き、寒さに震えるのは許しがたかった。

 ウララは激オコした。ぷんすかと自分の頭を叩いた。彼女の言動は、数世代遅れている。

 流行が地方に届き、廃れてから、やっと魅力に気付いた。

 今、都では質素かつ色味のない装飾品や服が流行っているが、彼女は鮮やかで可愛いもので攻めている。

 一言でいうと、ダサい。しかし、顔の愛らしさで何とかもっている。 

 

「屍蛇が苦しむなんて、そんなの駄目よ!」


 今すぐ新しい皇帝に文句を言いに行くと、走り出すウララの頭を、父が叩いた。


「話を聞けっ、屍蛇殿の行かれる地は、温暖で果実のよく実る、豊かな地だ」

「ええー!いいなぁ、行きたい」

 アプリコットブラウンの巻き毛を、くるくる指で巻きながら妄想の果物を食べる、ウララ。

「そうか、そうか、そうだろうな。では――縁談を申し込んでみようと思う」

「は?」

 つい可愛いこぶるのを忘れて、低い声が出た。


「都落ちする屍蛇殿に嫁ぎたいという女子はおらん。つまり、全く希望も可能性もなかったお前にも光が差したということだ」

 ウララの父は、彼女の行く末を案じていた。

 小型の鳥族は短命だ。ウララの母は、ウズラの獣人で、ウララが幼い時に亡くなった。

 娘もまた、長い一生ではないと思うと、彼女の望むように生きて欲しいと思っていたが、恋した相手は第三皇子、万に一つも可能性は無いと思っていた。ならば、心許せる相手との婚姻をと思い、エナガに打診したが「ウララは無いです」とすげなく断られ、頭を悩ませていた。


「うっわーお!」

 ウララは、喜びのあまり飛び上がった。

「わ、わたし……屍蛇のお嫁さんになります」

「気が早い!向こうには断る権利と理由が沢山あるのだ」

「……」

 応援しているのか、貶しているのか分からない父親の発言に、ウララが無の表情で動きを止めた。


「いいか、決して期待するな。他言も無用だ。駄目だったときに、とんでもない恥ぞ」

「はーい」


 そして、話はとんとん拍子で進み、ウララは二十二歳で屍蛇に嫁ぐこととなった。


 婚姻の儀式は、移り住んだ辺境の地、玉鋼で行われた。

 ごく身内だけの、質素を通り越して、しみったれた式になったが、ウララは盛大に喜んでいた。列席する親族になど目もくれず、ひたすらに隣に存在する屍蛇を上目遣いで見つめていた。


 もろもろの儀式が済み、ウララの待つ部屋へ屍蛇がやってくると、彼女の喜びは最高潮に達した。


「屍蛇さま!私、とっても嬉しいです」

 部屋に足を一歩踏み入れた屍蛇の周りを、浮足立って舞うようにウララが動く。


「ずっと、ずっと、大好きだったんです」

 街道の叩き売りよりも熱心に、いかに自分が屍蛇を好いているか説明を始めた。


「もう、全部、全部好きなんです。はじめてあった日から運命だと思ってたんです。でも、みんなが、そう思ってるのはお前だけで、屍蛇さまは、お前のようなアホには毛ほど興味はないとか、身分が違い過ぎて妾にすらなれないとか、酷い真実ばっかり言うんですよ。私だって分かってるのに。いくら愛らしい私だって無理だろうなって。でも恋する気持ちは自由なのって、幸せな運命の片思いを楽しんでるだけだったのに」

「そうか……」

「まさか、こんな日が来るなんて。私、頑張ります!ここの人たちと仲良くして、いっぱい働きます。農作物を荒らす虫なんて、一匹のこらず追い払うわ! 皆が届かない高い所の果物だってとれるし、羽根があれ食いっぱぐれないってゆうでしょう? 田舎の生活なら、この私にどーんとまかせて」


 勇ましく、腕を振ったのち、今度は恥ずかしそうにモジモジと顔を伏せ「それに……うずらの獣人なので、卵もいっぱい産みます……あっという間に、この玉鋼に屍蛇様の国ができます」


 ウズラの獣人は、多産だった。獣人の異種間の交配によりできた子は、どちらかの性質を受け継ぐ。

 よって、子は蛇獣人か鳥獣人のどちらかだ。記録によると、生涯、20人の子を産んだウズラ獣人もいるらしく、多産ゆえに短命ともいわれている。


 「ウララ、そのことだが……」

 屍蛇が、ウララの肩に手を置いた。



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