3羽
ウララの羽根は、小さい。長時間の飛行には向いていない。
渡りの際も、大型の翼を持つ鳥族の3倍も4倍も時間をかけて、休み休み移動する。平地では飛ぶよりも走ったほうが早い。しかし、高い塀に飛び乗るのはお手の物だ。
「だ、だれかーーーーー!」
血だらけになって倒れている護衛たち、矢を射られて悶えている女官。赤く血に染まった、白い玉砂利の地面。
(こ、これって、黒い人達に少年が襲われてるんだよね!?)
恐怖と戸惑いでパニックになったウララは、声にならない鳴き声で叫んだ。
「ぴよぉーーーーー!」
大きくは無いが、よく響き、同族の耳を刺激するものだった。何処からともなく、鳥族の呼応する声が聞こえ、皆が飛び立った。
凧のように空に舞い上がった、多くの鳥族。
「みんな助けてー!」
ウララの言葉に気をとりなをして、焦った刺客たちは、一斉に屍蛇に襲いかかった。しかし、その動きは動揺で乱れ、精細を欠いていた。
対する屍蛇は、冷静に立ち回り、1人、2人と地に沈めていく間に、宮廷に仕える鳥族の男たちが抜刀し集まって来る。
任務の失敗を悟った1人の刺客は、懐に手を入れ暗器を取り出した。キラリと光ったその閃光に、ウララが気がついた。
(ま、まさか……あの子に!? どうしよう、戦ってて気づいてない!?)
屍蛇へ放たれた、匕首。それと同時に突き動かされるように、ウララも塀から飛び立った。
「危ない!」
屍蛇の頭に巻き付くように落ちてきたウララの羽根が広がり、屍蛇の視界は塞がれた。
「どけっ」
彼がウララを引き剥がすように背後に投げ捨てた。すると彼らの目の前には、鳥族が守るように立ちはだかっていた。
もはや、立っている刺客はいない。
「……」
屍蛇の顔に安堵が広がった。周囲の者が「屍蛇さま!」「お怪我は!」と声をかけると同時に、屍蛇の背後で「いったあああ」とウララが泣き始めた。
屍蛇は、視界の隅に入っていた暗器が彼女を傷つけたのかと、その側にしゃがみ込み「大事ないかっ」と背中の羽根に手を置いた。
「痛い、凄く痛い。手も足も、ズリズリで血がいっぱい出てる!」
むくりと起き上がったウララは、投げ捨てられた恨みで、べそをかきながら屍蛇を見上げた。
(う、うわぁぁ、すごいカッコいい。冷たそうなシュッとした大人っぽいお顔。ちょっと怖くて、ゾクゾクするかんじ…………好き!)
鳥族の恋愛は、割と一目惚れが多い。同族間では、その気持ちがわかるので、展開の早い恋愛に支障はない。しかし、異種族となると軽率だと誤解されやすい。彼らは、一途なのだが。片思いになりがちだった。
「見せてみろ。他には怪我はないのか」
屍蛇は、擦り傷には目もくれず、暗器による傷を探った。
暗器には毒が仕込まれていることが多い。
「おでこも痛い。あーー、ち、血がたらぁって流れて来る」
「あぁ、そこはどうでもいい」
「どうでも良くないよ……痛い」
屍蛇は、ウララの羽根周り、長いふわふわの髪をめくった首周り、手足を調べたがキズはない。
すると視界に暗器を持った鳥族が「これでしょうか」と控えめにアピールしていた。
暗器は、二人に届く前に、駆けつけたものによって防がれていた。
「早く言え」
「えっ?」
「何でもない。お前のおかげで助かった。名は何という」
屍蛇が改めて、ウララを観察し始めた。




