2匹 蛇視点
中元の皇帝は、蛇族だ。後宮には、皇帝をはじめとする、多くの皇族が暮らしている。
今、まさに命の危機に陥っている第三王子、屍蛇もその一人だ。
「……」
白昼堂々、襲って来た刺客は、護衛たちを切り殺した。蛇族は夜間に活動を得意とする者も多く、夜の刺客の成功率は高くない。そのためか、昼夜問わず多くの刺客がやってくる。
「……くそが」
屍蛇は、一人毒づいた。信頼のおける手練れの護衛は不在だった。そんな状況を用意できた、黒幕は、相当な権力者であり、用意周到に事を運んだことが伺えた。刺客五人の動きは早く無駄がない。屍蛇は、剣を構え、厳しい戦いになることを覚悟した。
「……ぐっ……う……」
まだ息があった護衛が、踏みつけられ刺客が屍蛇を包囲するように広がった。
(おそらく……一気に来る)
屍蛇の背後は高い塀だ。足場はない。
(壁伝いに走り、攻撃を分散させるしかないか……)
死に恐怖など無かった。もちろん、死を与えることにも。
皇帝の息子として生まれ、多くの人間に裏切られ、始末してきた。
蛇族だが、同族程信じられない者はいないと笑いが漏れる。
「えっ……あ、ぎゃああ!」
不運にも近くを通りかかった女官が射られている。
おかげで隙ができた。
屍蛇が走り出すと、進行方向の刺客が斬りかかってきた。
その剣は、13歳の屍蛇には重く、手が痺れ、切っ先が下を向く。
(……まともに受けたら隙ができる)
剣での応酬に執着せず、距離をとり自身の毒を塗った暗器を投げた。
「ぐっ」
反応が早く、相手に刺さることが無かったが、かすめただけでも十分効果がある。あと数分で動けなくなり悶絶し、絶命するはずだ。屍蛇は、先の割れた舌で唇を舐めた。牙に毒を溜め、いざという時に備える。
彼の毒は、蛇族の中でも随一だ。
生まれ落ちた際には、臍の緒を噛んで母親を亡き者にした。
迫りくる剣を避け、再び駆け出すが、行くてもふさがれた。
(あと4人。近接戦でやれるのは、せいぜい2人か……なぜ、これ程の能力があるのに、使い捨ての刺客なんだ)
屍蛇は、顔を隠した黒装束たちをの黒幕へ心が移りかけ、剣を握りなおし気を引き締めた。
(集中しろ……来る)
足下の玉砂利を、逃さないように、しかと踏みしめた。
その時、背後に何者かの気配を感じた。
(後ろにもいたのか……)
屍蛇は、背後の刺客は気配だけを探り、前からの攻撃に備えたが、様子がおかしい。
目の前の刺客たちが、困惑し、隙だらけになったのだ。
「な、何!?何してるのぉ」
宮廷には、広い敷地を区切るように、幾重にも塀が設けられている。屍蛇の背後の塀は高さ3メートルにも及ぶものだ。その上に現れたのは、ウララだった。




